2021年3月13日(土)に、「日本自然保護大賞2021」の授賞記念シンポジウムをオンラインで開催しました。第1部の授賞式では、保護実践、教育普及、子ども・学生の大賞3部門のほか、沼田眞賞1件、選考委員特別賞2件に賞状と盾を贈呈しました。第2部の記念シンポジウムでは、受賞者の皆さまに活動の成果をご発表いただき、選考委員からの講評や視聴参加者からの質問やメッセージ応答を行いYouTubeでライブ配信しました。コロナウィルス感染拡大防止のため、皆さまと顔を合わせてお祝いすることができなかったのは大変残念でしたが、受賞者の皆さまが地元から揃ってご出席くださったり、全国各地から多くの方々がご視聴くださるなど、オンラインならではの良さもありました。小学生からシニアまで幅広い年代の方々が順に発表された受賞活動は、生態系の保全や自然を生かした地域づくりに幅広く貢献され、人の心を動かすまでの魅力や行動力にあふれたものばかりで、私たちもたくさんの励ましと勇気をいただきました。
受賞活動発表のようすは、日本自然保護協会のYouTube公式チャンネルでご覧いただけます。
天草における長期的かつ総合的な自然環境保全活動
吉崎 和美(熊本県)
吉崎さんは、お仕事の関係で天草に赴任して以来、50年近くにわたって干潟の保全に力を尽くしてこられました。その数々の活動の中から、干潟のカニ類・貝類・ウミガメや、海辺・陸域の植物・トンボ類の分布・生息状況を中心に、長年の観察・調査からこそみえてきた変化をご紹介くださるとともに、今も続く生息環境の衰退を食い止めるには、自然に関心がある人もない人も、私たちのくらしが複雑な生態系の上に成り立っているという大原則を思い起こして、地球上で共に生きていく方法論を探していくことが必要と、強く訴えられました。視聴者からは、長年の地道な活動のすばらしさに心より敬意を表する声が多く寄せられました。
トンボ100大作戦~滋賀のトンボを救え!
生物多様性びわ湖ネットワーク(滋賀県)
かつては各社ごとにすすめていた環境保全活動が、湖東地域の4社が交流の場を発足したのをきっかけに、今では湖周辺に工場や事業所を持つ8社まで協働の輪が広がりました。トンボという共通のテーマと、調べる・守る・広める、の3つの作戦を掲げて、研究者・自治体・博物館・地域などとも連携しながら、より広域的な保全をめざしている取り組みについてお話くださいました。企業によるCSR活動が当たり前になりつつある時代を迎えている中、各社の垣根を超えて連携を拡大されたことが、保全効果を高め、地域全体への波及効果も高めていることがよくわかる活動でした。今後も、さらにパワーアップして活動を広げられていくことを期待しています。
兵庫県相生湾のカニたち~僕らの住むまちのカニを知りたくて
あいおいカニカニブラザーズ(兵庫県)
6年ほど前にカニのかっこよさに惹かれて以来、兄弟でカニを観察し続けているお二人。博物館や学会の研究者、漁師さんや魚屋さんなどにご協力いただきながら、環境や季節によってくらしぶりが異なるカニたちの観察奮闘記を、カニの行動の面白ネタなどを織り交ぜながら、元気に楽しく発表してくださいました。中学1年生と小学6年生になられた今、 観察したカニは22科・75種にのぼります。毎日欠かさずつけてきた観察記録と自身の目で見て感じたことを、200頁もの『カニ大百科』にまとめられたパワーには圧倒されます。カニがふるさとの海の大切さを気づかせてくれたと言うお二人の存在が、日本の自然の未来を明るくしてくれると感じました。
畠島における海岸生物群集一世紀間調査活動~半世紀を終えて
畠島海岸生物群集一世紀間調査グループ(和歌山県)
1960年代に計画された観光開発を免れて以降、「長期モニタリング」などと言われるようになるずっと前から、100年を目標に掲げ、50年にわたる調査活動を続けてこられました。島の西岸で毎年実施しているウニ類の個体数調査、島の南岸で5年ごとに行っているすべての海岸生物の記録、全島で5年ごとに実施している底生生物86種の個体数調査の成果について、ご紹介くださいました。生態学者の草分け的存在である当会の元会長を偲んで創設した沼田眞賞は、本賞ができる前からあった賞で、地道に長年取り組まないとできないことを成し遂げた活動にお贈りしてきましたが、まさに本賞にふさわしい活動であるとあらためて実感しました。
土壌シードバンクの埋土種子を活用し、森林化した湿地を再生・保護する
豊橋市教育委員会/豊橋湿原保護の会/豊橋自然歩道推進協議会(愛知県)
湿地の再生をめざしている活動は各地にありますが、考古学の発掘調査のノウハウを援用して土壌を丁寧に取り扱い、埋土種子を効果的に活用されている点が、この活動の大変特徴的なところです。葦毛湿原の観察記録を長年とり続けてきた市民の協力をもとに、小規模な実験を何度も繰り返し行い、経過を観察しながら段階的に作業を進められていることが、着実な成果につながっているのがよくわかる発表でした。沼や湿地の底に眠るシードバンクを使う方法は各地で徐々に定着しつつあるものの、考古学の手法を応用して、森林化した場所の土壌の地層を大規模に用いるという思いきった取り組みで湿原を再生する活動に、視聴者の多くが大きな感銘を受けました。
森林環境の保護を目指した放置竹林削減へ向けた取り組み
長崎県立諫早農業高等学校食品科学部(長崎県)
各地で深刻化している放置竹林問題。竹を有効に利用する新たな方法について、高校2年生・1年生14名が研究成果を発表してくださいました。それは、竹をパウダーに加工してキノコ栽培の菌床に使おうというものです。シイタケ・マイタケ・キクラゲを対象に学校や菌床栽培農家で実験を行った結果、現在キノコ栽培に使用されている米ぬかよりキノコの増殖スピードが2~3倍早く、抗菌効果もあることを突き止めました。また、竹の消費拡大に向けて、経営的にも十分採算が合う試算もされ、自然保護のために高校生としてできることを探しながら今後も活動していきたいと、力強く思いを語ってくださいました。竹パウダーの実用化が実現する日が楽しみです。
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