2020年9月16日(水)に、「日本自然保護大賞2020」の授賞記念シンポジウムをオンライン開催しました。当初は、東京に集って3月に行う計画でしたが、新型コロナウィルス感染拡大防止のため延期し、このたびオンライン形式に変更して行いました。第1部の授賞式では、受賞者と選考委員のみで保護実践、教育普及、子ども・学生の大賞3部門のほか、沼田眞賞1件、選考委員特別賞2件に賞状と記念品の盾を贈呈しました。第2部の授賞記念シンポジウムでは、受賞者の皆さまに受賞活動の成果をご発表いただき、そのようすをYouTubeでライブ配信しました。皆さまと顔を合わせてお祝いすることができなかったのは大変残念でしたが、小学5年生や高校生からシニアまで幅広い年代の方々が順に発表された受賞活動は、着実な保全成果や地域づくり計画への貢献、人の心を動かすまでの活動の魅力やみなぎる行動力にあふれていました。また、受賞者の皆さまが地元で揃ってご出席くださったり、参加者の皆さまがお好きな時・場所で発表を観ることができるなど、オンラインならではの良さもありました。受賞者の皆さまのすばらしい発表に、私たちもたくさんの励ましと勇気をいただきました。本当にありがとうございました!
受賞活動発表のようすは、日本自然保護協会のYouTube公式チャンネルでご覧いただけます。
「エコミーティング」活動~自然を守る現場監督をめざして
株式会社加藤建設
自然破壊と思われがちな建設業の工事現場。加藤建設の皆さまは、自然を守り回復させられるのはむしろ現場監督だ、という思いから、2009年に「エコミーティング」活動を開始されました。建設の着手前に、工事担当者だけでなく営業や技術、事務の方まで各部署の社員が集まって、自然のために何ができるかを話し合い、発注者の承認を得て実行に移されています。はじめから自然や生き物に関心があった方ばかりではないにもかかわらず、社員307名のうち156名がビオトープ管理士を取得されており、発表では、絶滅危惧種や希少種の保護と生息地保全の実績をあげた事例をいくつもご紹介くださいました。現在は、建設業界における生物多様性保全をリードする会社をめざして、発注会社はじめ業界全体の意識改革や次世代育成を目的とした勉強会などにも力を注がれています。
子どもたちとつなぐ、おらだ田んぼの魅力と田園地域の未来
元泉地域農地・水・環境保全組織運営委員会
会の皆様がお住まいの山形県河北町が7月豪雨で被災され、元泉地域は影響がなかったものの、町が対応に追われているため、大変残念ながらご欠席となりました。受賞された皆さまに代わりまして、事務局で発表資料をまとめ、ご紹介させていただきました。
元泉地域は、人口約500人と山形県河北町で最も人口が少なく、なかでも地域児童の減少が著しい地域でした。地域に元気と未来を取り戻すにはどうしたらよいか。子どもたちが農村の恵みやその環境の大切さに気づかずに大人になることへの対策が必要だと考え、“メダカがくらし続けられる田んぼづくり”を指標に、環境保全型農業の推進と地域の活性化に取り組むことを決断されました。2008年、町唯一の在来メダカを特別に譲り受けて、無農薬無肥料の水田に「めだかの学校」を創設。その後「学校」を2か所増やし、生き物調査や環境教育・食農教育に力を注いだ結果、5つの小学校に「分校」がつくられました。現在、その輪は幼稚園にも広がり、1000名超の人が「学校」を訪れるまでになりました。 また、2015年から「おらだ田んぼの子ども博士養成講座」をスタートさせ、2019年に小学校の総合学習に採用されました。「自分の目でたしかめ、自ら動いて心と体で感じてもらい、学校では学べないことを伝え、“地域教育”をすすめるのが私たちの役目」と言われる会の皆さん。これからも取り組みをさらに進化させ、新しい農村づくりの例として地域内外に広くアピールされていくことでしょう。
日本固有の淡水魚・ネコギギの保護と普及啓発活動
鈴鹿高等学校 自然科学部
伊勢湾・三河湾に流入する河川にしかみられない淡水魚・ネコギギが住める川を守りたいと、三重県・鈴鹿川水系で2004年から生息確認調査を開始し、調査区間の推定個体数が過去最低となった2016年に、生息域外保全に着手されました。専門家の指導のもと稚魚の飼育・放流に取り組み、生息個体数の増加に大きく貢献される成果を上げられました。また、2019年には、東海三県の飼育施設や教育委員会、文化庁、有識者が集う全国初の「ネコギギサミット」が鈴鹿高校で開催され、鈴鹿高校の生徒は全員がネコギギのことを知っているそうです。新聞・SNS発信や観察会活動などを通じて、ネコギギをはじめ川の生き物を知ってもらうことで、地域の方々の自然を大切にする心が育まれていくことを期待していると、話してくださいました。部員を代表して2年生と1年生の5名の方が順にご発表、校長先生や顧問の先生、受験勉強でお忙しい3年生もご出席くださいました。
自分にもできることはなにか~「猛禽新聞」をとおして伝えたいこと
宮部 碧くん
愛知県豊田市に住む小学5年生の宮部くんは、市内でオオタカを観察したのをきっかけに、生態系の頂点に立つ猛禽類の魅力や大切さを多くの人に伝えようと、小学2年生の時から研究に取り組み、3年生から手づくりの「猛禽新聞」の作成を始められました。その後、『猛禽類のお医者さん』という本に出会い、北海道・釧路湿原まで著者が取り組む猛禽類医学研究所へ見学に行き、保護鳥の世話や死亡個体の剖検などを体験させてもらったそうです。そして、それらの経験を地域の環境保全に活かそうと、ラムサール条約登録湿地・東海丘陵湧水湿地群の一つである上高湿地の保全活動に積極的に参加。多くの人に“自分にもできること”の輪を広げたいと、「猛禽新聞」をとおした情報発信に日々取り組まれています。新聞の発行は今夏で24号に及び、釧路湿原野生生物保護センター、温根内ビジターセンター、豊田市自然観察の森に展示されているそうです。宮部くんの活動は、これからも大きく羽ばたいていくことでしょう。宮部くんだからこそできることを、これからも楽しく続けていってください。
葛西海浜公園・三枚洲、東京都初のラムサール条約湿地登録への貢献
日本野鳥の会東京
東京湾の干潟・浅海域は、1960年代~1970年代初期に大部分が埋め立てられてしまいましたが、東京港内に残された自然環境の保全を目的に、1989年に東京都によって葛西臨海公園・海浜公園が整備されました。会の皆さまは、その公園の沖に広がる自然干潟・三枚洲をよりよい形で次代に残そうと、開園の翌年から野鳥観察会や海浜清掃などの活動に取り組まれています。そうした中、2013年に公園の1/3を開発する東京五輪カヌー競技場建設が計画されたため、計画の変更を求める活動を積極的に展開されました。その甲斐あって、2014年に建設計画が変更されたものの、公園の将来的な保全が危ぶまれたため、2016年からラムサール条約への登録を求める活動に取り組まれ、2018年に東京都初の登録湿地に選ばれるに至りました。会の活動には多世代の方が関わられており、ますますのご活躍が楽しみです!
国連ESDの10年への取り組み等をとおした環境教育の発展への貢献
阿部 治さん
日本環境教育学会、日本環境教育フォーラム、地球環境戦略研究機関環境教育プロジェクト、日中韓環境大臣会議環境教育ネットワークなどの設立・運営に深く関わるとともに、2002年ヨハネスブルグサミット(持続可能な開発に関する世界首脳会議)の提言フォーラム幹事として、日本政府に「国連ESDの10年」を提言し、持続可能な開発のための教育の10年推進会議(ESD-J)を発足させました。「国連ESDの10年」が終了した2015年以降も、ESD活動支援センターを立ち上げて取り組みの拡充に尽力され、これらの活動を通じて、日本をアジア・環太平洋地域における環境教育のハブにすることを実現し、各国の研究者・行政・NGO等間の相互交流・共同研究等の定着化に大きく貢献されました。数々の業績に発表時間がまったく足りませんでしたが、「環境教育」という言葉が世の中に浸透する前から、自然保護教育の重要性を唱え続けてきた当会会長であった故・沼田眞博士の名を冠した賞にふさわしい受賞となりました。
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