日本自然保護大賞は本年で第7回となり、応募は前年よりも16%増の129件になりました。応募は北海道から鹿児島県まで全国各地に及び、市民グループ、NPO法人、個人、学校、企業などさまざまな方々から寄せられました。この賞が広く知られるようになったことによるものと喜びにたえません。公募は2020年9月1日から10月31日までの期間としました。複数部門に応募いただいたものも数多くあり、事務局にて一次選考として45件(保護部門16件、教育部門14件、学生部門15件)を選び、それを対象にして6人の選考委員で11月25日に最終選考会を行いました。最終選考会では、それぞれの活動の成果と将来性および社会への波及性などを評価の視点として、議論をすすめました。いずれの部門においても評価の高いものが多く、選考には多くの時間を要しました。選考委員全員で慎重に審議した結果、大賞3部門に各1件のほか、特別賞として沼田眞賞1件、選考委員特別賞2件を選出し、最終的には各部門とも全員一致で決めることができました。また、大賞からはもれましたが、優秀な活動と評価される20件を入選としました。この賞のねらいが多くの方々に理解され、期待が寄せられてきたことを喜ぶとともに、今後の発展を期して御礼申し上げます。
公益財団法人日本自然保護協会 理事長
「日本自然保護大賞2021」選考委員長
亀山 章
吉崎 和美
天草における長期的かつ総合的な自然環境保全活動
熊本県
1974年に小学校職員として天草に赴任して以来、天草の干潟の調査・保全や環境教育、火力発電所建設や国営干拓など開発問題に対し保護運動の取り組みを精力的に続けた。1980年代はハクセンシオマネキやスナガニなどカニ類の生息地保全に注力した。1990~2000年代には、海浜から陸域までさまざまな動植物の生息・生育状況調査を行うとともに、九州各所をはじめ他地域の視察も行い、日本やアジアからみた天草の自然の豊かさを自らの目と足で実証してきた。2010年に退職した後は、5年かけて潮間帯のカニ類の写真撮影を続け、2018年に134種の識別や観察法を解説した『天草のカニ類写真図鑑』を自費出版し、地元の小・中・高校に寄贈した。現在は、天草のベントス類の図鑑出版を準備中。
右記写真:吉崎和美さん/干潟の保全活動を行った天草下島・南部の羊角湾/本州中部地方~九州の砂泥干潟に生息するニンジンイソギンチャク
吉崎和美さんは、、1974年に天草の小学校に赴任されて以来、?潟の甲殻類の保全に力を注ぎ、1980年代には当時全国的に?われていた?拓事業から干潟を護る活動を展開して、国営事業を廃?させるなど大きな成果をあげられました。その後、活動を陸域にも広げて、湿地の希少昆?、希少両生類、猛禽類、湿地性植物の調査も行ってこられました。近年は、「天草のカニ類写真図鑑」を出版して、天草地?の?・中・?校に寄贈しておられます。活動の成果は藍綬褒章、天草文化賞などに広く認められており、日本自然保護大賞の保護実践部門にふさわしいものとして大賞を授与することといたしました。
亀山 章
日本自然保護協会理事長/東京農工大学名誉教授
生物多様性びわ湖ネットワーク
トンボ100大作戦~滋賀のトンボを救え!
滋賀県
滋賀県に拠点を持つ異業種の企業8社(旭化成(株)、旭化成住工(株)、オムロン(株)、積水化学工業(株)、積水樹脂(株)、ダイハツ工業(株)、(株)ダイフク、 ヤンマーグローバルエキスパート(株))が連携し、2016年から県内で確認されている100種のトンボを指標とした生物多様性保全活動を展開。「滋賀県のトンボ100種を探そう!」「滋賀県のトンボを守ろう!」「みんなに知らせよう!」の3つの作戦を掲げて、自社緑地や地域の自然の現状把握、ビオトープの整備や外来生物の駆除、自然観察会や活動の展示・発表などに取り組んでいる。2020年から新たにインスタグラムでトンボの特徴や生息環境を公開するなど、積極的な発信で企業・団体の参画拡大や生物多様性の保全意識の向上をめざしている。
右記写真:社員らによる琵琶湖でのトンボ調査/工場内の池に生息するネアカヨシヤンマ(環境省RDB準絶滅危惧種)/ブックレット『トンボ100大作戦』を作成し、イベントなどで配布
-すでに企業のCSR活動は「あたりまえのこと」となっていますが、なかなか自社の枠を超えることはなく、活動の広がりに乏しい印象もあります。そんななかで「生物多様性びわ湖ネットワーク」は、琵琶湖をフィールドに8社の企業が連携し、「トンボ」という一般にもわかりやすいテーマを設定することで、活動の広がりをもち、地域の生物多様性の向上と普及啓発活動を合わせて実現しています。参加各社は日本を代表する企業でもあり、今後、このような活動が全国に広がることも期待して大賞としました。
神谷 有ニ
株式会社山と溪谷社 自然図書出版部部長
あいおいカニカニブラザーズ
兵庫県相生湾のカニ ~ 僕らの住むまちのカニを知りたくて
兵庫県
小学生の兄弟が6年ほど前から、自分が住むまちの干潟にくらすカニの観察・調査に取り組み、見つけたカニは22科75種。そのうち3種は兵庫県初記録種、23種が県指定の絶滅危惧種であった。夏は海に潜り、冬は漁師さんや鮮魚店さんの協力を得て、調べたことをすべて記録。博物館の先生などの指導のもと、湾内の生息分布や季節に応じた生態、食性などを解明し、2017年の日本甲殻類学会や各種の講演活動などで発表。2018年には論文の作成に挑戦し、2019年に地域の博物館に寄稿。現在は、オリジナルの「カニ大百科」を執筆中。将来の夢は、カニの魅力を教えてくれた博物館の先生のような研究者になって、地域の自然を愛する子どもたちを増やすこと。
右記写真:兵庫県立人と自然の博物館で活動発表/兵庫県で初確認となったフジテガニ/相生湾の干潟でハクセンシオマネキを観察
「カニになった気持ちで」
カニのカッコいいツメに魅せられ観察を始めたカニカニブラザーズ!地元の海に干潟があり、そこにカニがいる事を観察会で知りました。それから約6年間その日の出来事を全て記録しているのだそうです。その積み重ねの結果、希少なカニを沢山見つけ、中には兵庫県初発見記録種3種があるという事ですから凄いですね! 将来は研究者になりたいそうですから、兄弟で研究を続けていける事は幸せな事だといます。観察や研究は孤独な作業ですからね。苦楽を共に分かち合える兄弟で、次に続く子供たちを増やして下さい。「カニ大百科」完成を楽しみにしています。
イルカ
IUCN親善大使
シンガーソングライター
絵本作家
畠島海岸生物群集一世紀間調査グループ
畠島における海岸生物群集一世紀間調査活動 ~ 半世紀を終えて
和歌山県
和歌山県田辺湾に浮かぶ約2kmの無人島・畠島(はたけじま)は、全島が国有地で京都大学の臨海実験所が置かれており、海洋生物の研究・教育への活用とともに、無断上陸者への注意喚起やゴミ清掃などを行っている。この島で、歴代の研究者がバトンをつなぎながら、その意思に賛同する同好会や研究機関のメンバーがボランティア精神で集まって「海岸生物群集一世紀間調査」と称する海岸生物群集のモニタリング調査を1969年から継続し、自然保護の推進に取り組んできた。そして半世紀の活動を終えた今、ウニ類では世界初の50年におよぶ調査により、ウニ類が水質の悪化など人間活動の間接的な影響を強く受けていることを明らかにした。
右記写真:2018年調査時の集合写真/畠島を上空からのぞむ/貝の同定作業中
畠島は、田辺湾周辺の海岸生物相を一通り観察できる場所となっています。しかし1960年代に大規模な観光開発が計画され、畠島の豊かな自然が失われる危機にありましたが、全国の海洋生物研究者の支援を受けた自然保護活動の結果、1968年に国による買取りが行われ、それ以降、京都大学瀬戸臨海実験所が管理し、海岸生物の研究・教育に活用されてきました。1969年からは、実験所の研究者のみならず、アマチュアの調査員約50名が参加して、50年間にわたり海岸生物群集調査が行われてきました。このような海岸生物を対象とした長期変動調査はアジアでも唯一のものであり、日本自然保護協会沼田眞賞の受賞にふさわしい活動です。
吉田 正人
筑波大学大学院教授
日本自然保護協会専務理事
自然保護に尽力された沼田眞(ぬまたまこと)博士の志を未来に伝えていくにふさわしい実績や科学性をもった活動に、特別賞として「沼田眞賞」を授与します。沼田眞博士は、生態学者として自然保護の重要性を科学的に説き、日本自然保護協会の元会長として自然を守ることの大切さを訴え、日本の自然保護を国際的な水準に高めました。
豊橋市教育委員会、豊橋湿原保護の会、豊橋自然歩道推進協議会
土壌シードバンクの埋土種子を活用し森林化した湿地を再生・保護する
愛知県
愛知県豊橋市の葦毛(いもう)湿原(愛知県指定天然記念物)では、乾燥が進み森林化した湿地を再生・保全するため、地表面近くに多く含まれる土壌シードバンク内に眠る埋土種子を効率よく発芽させる方法で、2013年から湿地やその周囲環境の多様性の復元に取り組んでいる。その結果、1967年~2013年に姿を消した21種の植物のうち、県の絶滅危惧種など14種の植物が復活した。活動の運営には、豊橋市教育委員会が中心となって関係する行政機関や大学の研究者、市民団体などから成る意見交換会を組織し、実際の作業は、教育委員会の指導のもとに豊橋湿原保護の会や豊橋自然歩道推進協議会などのボランティアが協力して行い、そのようすを豊橋市美術博物館のウェブサイトに毎月公開している。
右記写真:地元ボランティアによる植生回復作業/植生回復作業の前と後、シラタマホシクサ群落が復活/今年もハルリンドウの開花が待ち遠しい
濃尾平野周辺の丘陵部を中心に分布する湧水湿地は、温暖な気候にもかかわらず貧栄養で低温の湧水によって維持されており、氷期からの遺存種を含むこの地域に特有の植物を数多く見られる貴重な生態系ですが、次第に森林化しています。この活動では、森林土壌の下にある過去の湿原土壌を検出し、そこに残る土壌シードバンクを利用して元の湿原を復元することに成功しました。このように、科学的根拠に基づき、森林化した植生を湿原に戻すという大胆な保全策を、行政、研究者、ボランティア団体など多くの関係者の協働により成功させたことを高く評価しました。
中静 透
国立研究開発法人森林研究・整備機構理事長/森林総合研究所所長
長崎県立諫早農業高等学校 食品科学部
森林環境の保護を目指した放置竹林削減へ向けた取り組み
長崎県
大きな社会問題となっている放置竹林の急増の改善に向け、長崎県内で盛んなキノコの菌床栽培に竹を利用できないかと考え、2017年から栽培の基材である米ぬかを竹パウダーに変える研究や実験に取り組んでいる。校内での毎日の観察や、地元の生産農家での実証実験を行った結果、シイタケ・マイタケ・キクラゲなどの菌糸の増殖スピードが米ぬかより早く、カビや雑菌の発生を防ぐ抗菌効果も高く、安心・安全なキノコが栽培できることがわかった。今後は、地元の生産農家などと連携して事業化の道を見い出すことによって、この新しい特許技術を県内はじめ全国の放置竹林の削減と里山環境の保全に役立てていきたいと考えている。
右記写真:伐採した竹でキノコ菌床を作成/放置竹林を視察し、竹を伐採/地元の菌床栽培農家を訪れて研修
放置竹林は全国各地に広まり、生物多様性や防災などの観点からも深刻な問題になっています。諫早農業高校が進めてこられた今回のプロジェクトは竹材を有効活用し、放置竹林問題を解決する画期的なものと言えます。特にきのこ菌糸の増殖スピードが上がること、またカビや雑菌の抑制効果も確認されたことは、大きな成果です。地道な実証実験、評価活動の賜物でしょう。さらに一歩、事業化に向けた道が進めば、一層この成果が生かされるものと思います。そのために様々な分野の方々との協働により、たくさんの知恵が集まるよう取り組んでいただくことを期待します。
谷口 雅保
積水化学工業株式会社 政策調査室
入選者 | 都道府県 | 活動テーマ |
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北海道帯広農業高等学校 | 北海道 | トカプウシイの命の力 ~ 十勝川中流部湿地と歩んだ8年間 |
北海道美幌高等学校 環境改善班 | 北海道 | オホーツクの自然を守れ ~ オホーツクで実践した自然環境改善の成果 |
群馬県立尾瀬高等学校 自然環境科 | 群馬県 | 日光白根山、弥陀ヶ池斜面におけるシラネアオイ保護活動 |
群馬県立利根実業高等学校 生物資源研究部 | 群馬県 | イノシシ被害から農地を守る活動 |
朝霞の森運営委員会 | 埼玉県 | 都市の暮らしと自然の共生空間(里樹林)構築の模索と地域活性化 |
北鎌倉台峰緑地保全会 | 神奈川県 | 地域密着型の自然保護と次世代への自然とのつながりの継承 |
サークルてのひら島 | 神奈川県 | 親子のための“触れる・食べる”環境保育(野外での体験活動) |
NPO法人 緑のダム北相模 | 神奈川県 | 中高大学生で荒廃する人工林を整備、多様性のある森を目指す「相模湖若者の森づくり」 |
福井県両生爬虫類研究会 | 福井県 | アベサンショウウオ生息地の地区住民や小学校児童との協働の調査保護活動 |
豊田合成株式会社 | 愛知県 | 「命の源である水で活動をつなぐ」 山~川~海のエリアでの取組み |
京都府立宮津高等学校 京都府立宮津天橋高等学校 |
京都府 | 人と自然が寄り添う里山で命の声を聴く ~ 巨樹から水田雑草まで |
NPO法人 棚田LOVER's | 兵庫県 | 自然観察とともに命を味わう~14年間の教育、普及活動 |
農都ささやま外来生物対策協議会 | 兵庫県 | よみがえれ、夏の風物詩! 篠山城跡南堀ハス群落の再生 |
中野 千穂 | 奈良県 | ネイルアートとARで絶滅危惧種とSDGsを伝える |
(特非)自然回復を試みる会・ビオトープ孟子 | 和歌山県 | 孟子不動谷の里山保全活動と日本ユネスコ未来遺産運動 |
山陽学園中学校・高等学校 | 岡山県 | 私たちの瀬戸内海ブルーオーシャンプロジェクト |
認定特定非営利活動法人 自然再生センター | 島根県 | 地域住民と中学生の共同参画による循環型社会の形成のための活動 |
徳島県立阿南光高等学校 | 徳島県 | 「守れ!イシマササユリ」バイオテクノロジーを活用した環境保全活動 |
筑後川まるごと博物館運営委員会 | 福岡県 | 子ども学芸員による「高良川昆虫図鑑」を活用した自然体験活動 |
熊本県 | 熊本県 | 「レッドデータブックくまもと2019」を10年ぶりに発刊 |
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