過去の受賞者TOP日本自然保護大賞2022(令和3年度)受賞者 活動紹介/講評シンポジウムの様子

ご挨拶・総評

日本自然保護大賞は本年で第8回となり、応募は北海道から沖縄県まで全国各地に及び、市民グループ、NPO法人、個人、学校、企業などさまざまな方々から101件寄せられました。この賞が広く知られるようになったことによるものと喜びにたえません。
応募は2021年9月1日から10月31日までの期間としました。複数部門に応募いただいたものも数多くあり、事務局にて一次選考として36件(保護部門13件、教育部門17件、学生部門6件)を選び、それを対象にして6人の選考委員で11月24日に最終選考会を行いました。最終選考会では、それぞれの活動の成果と将来性および社会への波及性などを評価の視点として、議論をすすめました。応募されたすべての活動において目的意識が高く意欲にあふれ、いずれの部門においても評価の高いものが多く、選考には多くの時間を要しました。選考委員全員で慎重に審議した結果、大賞3部門に各1件のほか、選考委員特別賞2件を選出し、最終的には各部門とも全員一致で決めることができました。また、大賞および特別賞からはもれましたが、優秀な活動と評価される13件を入選としました。
この賞のねらいが多くの方々に理解され、期待が寄せられてきたことを喜ぶとともに、ご応募くださったすべての活動に敬意を表し、ますますのご発展を期して御礼申し上げます。

公益財団法人日本自然保護協会 理事長
「日本自然保護大賞2022」選考委員長

亀山 章

日本自然保護大賞2022(令和3年度)受賞者 活動紹介/講評

【大賞】保護実践部門

コクヨ株式会社、四万十町森林組合

結の森プロジェクト ー 環境と経済の好循環を目指して
高知県

2006年、高知県四万十町大正地区の民有林を「結(ゆい)の森」と名づけ、二者が主体となってプロジェクトをスタート。生物多様性保全と地球温暖化防止の双方に資する森林管理、間伐材を用いた商材の開発・販売、植生・水質調査等の活動を社内外に広める情報発信の3つの活動を柱に、森林保全と地域経済の好循環を生み出すしくみづくりに取り組んでいる。約100haのモデル林から始めた森林管理は5,425haまで拡大し、すべてFSC®森林管理認証を取得。間伐材家具や結の森ブランド文具を開発し、コクヨグループの販売網を使って全国販売を展開。加えて、通販子会社にて、購入者のポイントをプロジェクトに寄付するしくみも設け、毎年100件以上の申込みを受けている。

写真説明: 地元高校生・森林組合・県庁・町役場・コクヨ社員が参加の植生調査/間伐材家具が用いられた四万十町庁舎や結の森ブランドの文具/2021年に実施した清流基準調査

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■講評

文具会社と地元森林組合の共同により、間伐材を用いたブランド文具の開発・販売にとどまらず、生物多様性保全と地球温暖化防止対策、地元高校生との植生や河川の水質に関する調査、活動内容の効果的な情報発信など、幅広い活動を展開されています。2006年に約100haのモデル林から始めた森林管理は5,425haまで拡大し、すべてFSC®森林管理認証を取得しているほか、通販子会社にて購入者のポイントをプロジェクトに寄付するしくみも設け、毎年100件以上の申込みを受けるなど、森林保全と地域経済の振興を両立させたことが高く評価されました。

中静 透

国立研究開発法人森林研究・整備機構理事長/森林総合研究所所長

【大賞】教育普及部門

里山クラブ可児

森と人、人と人が繋がり、創り伝える、ふるさと“我田の森”
岐阜県

2000年、18名のボランティアで里山クラブ可児を発足。2002年、地権者等と協定を結び、手入れが行き届かずに荒廃していた可児市久々利地区の“我田(わがた)の森”約13haの整備・保全活動を開始。20年におよぶ地道な取り組みにより、会員数は約50名に増え、我田の森は岐阜県第2号環境保全モデル林に指定されるに至った。また、2015年には荒廃していた棚田も再生し、一般市民親子を対象に毎年環境学習の場を提供している。我田の森は現在、森のようちえんとしてのべ1,325名の親子が子育てに利用するほか、大学によるゼミ研究、行政による環境学習講座の開催、企業による社会貢献活動や里山体験ツアーの受け入れなど、多様なセクターとのパートナーシップを着実に広げている。

写真説明:一年中水が張られた「田んぼビオトープ」での田植え体験会/遊歩道を塞いだコナラの大木の倒木処理を会員総掛かりで行う/管理棟で実施した県立森林文化アカデミー教授による「環境学習講座」

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■講評

里山クラブ可児は、岐阜県可児市東部の里山「我田の森」において、里山保全や環境教育、希少植物の保護などに取り組む市民団体です。2000年に、手入れが行き届かず荒廃した里山林を行政・地権者との協定を結んで環境保全モデル林として整備するなど、20年以上にわたる地道な活動が評価されました。また、最近では耕作放棄された棚田を再生し、田んぼビオトープとして多様な生物の生息地として整備するとともに、親子を対象とした稲作体験や生物観察などの環境教育を実践されています。森のようちえん・大学・行政・企業など多様なアクターとのパートナーシップを構築している点も評価されました。

吉田 正人

日本自然保護協会専務理事/筑波大学大学院教授

【大賞】子ども・学生部門

京都府立宮津高等学校・宮津天橋高等学校フィールド探究部

丹後を駆けるF探のチカラ ー 地域の宝を探し、伝え、作り出す
京都府

丹後地域の歴史文化・地域社会、自然・生物を研究するフィールド探究部(F探)では、地域全域で巨樹や在来のタンポポ、人と自然との関わりを伝える財産を探し出し、その価値を発信している。巨樹の調査では、水源林や魚付林のほか580の神社、241の寺院を訪れ、63種3108本を確認。その成果を『海の京都・丹後の巨樹ものがたり』として発刊し、メディアでの紹介や観光資源への活用などの波及効果を生んでいる。タンポポ調査では7種の在来種を確認し、キビシロタンポポの府内分布の北限を変える大きな発見もあった。2021年から新たに、住民と協働して子どもが遊べる豊かな川づくりに挑むなど、生徒一同が強い課題意識をもって地域の環境を守る人の輪を広げている。

写真説明:2021年7月に巨樹測定3000本超え/「昔からあったんだで」、地域の方に教えてもらってタンポポ調査/「人・川・ハッピー大作戦」で水路を掘りつつ水制工を作る

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■講評

地球上、全ての地域に人と自然との関わりを伝える財産が眠っています。しかし生まれ育った地域になればなる程、その貴重な存在に気がつかない事が多いのではないでしょうか? 地域の財産である(ひと・もの・こと)への理解を深め新たな価値を創造する活動の中心となっているのがF探の高校生達! 彼らが生まれた平成16年に甚大な被害を与えた台風23号!負と思える事からも環境保全と防災の両面から人と川との新たな関係性の構築を試みています。私の活動の一つ「丁寧に暮らそ!」にも共通する物を感じました。世代を超えてとても共鳴できる高校生達による素晴らしい地域の宝探しですね!

イルカ

IUCN親善大使
シンガーソングライター
絵本作家

【特別賞】選考委員特別賞

手賀沼水生生物研究会、日本電気株式会社

事業所内の湧水池で、多様なパートナーと希少種・普通種を守る
千葉県

2009年からNEC我孫子事業所内の湧水池で、絶滅危惧種であるオオモノサシトンボとゼニタナゴの保全に取り組んでいる。10年超にわたり池内の外来種駆除に取り組み、生物研究者や地元自治体・研究機関等を交えた意見交換を毎年行うことにより、時期・気象条件や外来生物の特性に合わせた効果的な低密度管理を実現しつつある。池周辺の植生改善などにも努め、10年連続でオオモノサシトンボを確認、生息数が着実に増加している。千葉県で野生絶滅したゼニタナゴは、所内の人工池で7年ほど系統保存し、2021年に湧水池に移植放流するに至った。年1回市民公開観察会を行ったり、大学生ボランティアを受け入れるなど、若者への学びの場の提供もすすめている。

写真説明:2021年に観測したオオモノサシトンボ/学生ボランティアとの池内での外来駆除活動/湧水池へゼニタナゴを移植放流

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■講評

日本電気(株)我孫子事業所では2009年から事業所内の湧水池で、絶滅危惧種であるオオモノサシトンボの生息環境整備とゼニタナゴの野生復帰に取り組まれています。10年超にわたる活動では地元の手賀沼水生生物研究会はじめ、自治体や研究機関、トンボ・魚類の研究者等とのまさに多様な主体との協働で事業を進め、その成果を上げていることが高い評価を得ました。また池周辺の植生改善などにも努め、年1回市民への公開日を設けて観察会を行うなど、啓発普及に努めていることも評価しました。

谷口 雅保

積水化学工業(株)政策調査室

【特別賞】選考委員特別賞

棟方有宗(宮城県淡水魚類研究会、宮城教育大学)
遠藤環境農園、カントリーパーク新浜

東日本大震災の津波を転機とした仙台沿岸域の田圃環境復元の試み
宮城県

東日本大震災の津波で被災した宮城県仙台市沿岸域で、昭和時代はごく普通に見られた田圃風景や湿地生態系を取り戻そうと、市などに提案。津波で生息地を奪われた在来メダカの野生個体群の復元をめざして保全・啓発に取り組んだ結果、メダカ里親活動は250組以上に広がった。2017年から新浜地区の集団移転跡地に半湿地のビオトープと農薬不使用の田圃を新営し、8年ぶりにメダカの野生復帰を実現、複数種のトンボやツバメも飛来するようになった。今では、生物観察会や田んぼイベントが定期開催されるなど地域内・間交流の輪が広がり、新聞・テレビ等でもたびたび紹介されるようになり、被災地に環境保全の新たな風を送り込んでいる。

写真説明:津波で廃校となった東六郷小学校跡地のメダカ池での保全の取組み/田んぼイベントでメダカを観察/被災した仙台市沿岸域に半湿地のビオトープを新営(被災後と現在)

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■講評

震災から10年が過ぎ、沿岸地域の攪乱生態系の再発見と復興工事による消失が続いています。そのなかで、応募者らは、「メダカ」という社会的関心度の高い生物の保護を通じて、研究者や農業関係者、動物園など、さまざまな関係者が協力して、湿地生態系の保全やブランド米の創出、地域の子どもたちへの教育プログラムへの活用などにつなげました。生物種の保護と湿地生態系の保全だけではなく、そこを起点とした復興・地域作りへの活動の広がりを評価しました。

神谷 有ニ

(株)山と溪谷社 自然図書出版部部長

日本自然保護大賞2022(令和3年度) 入選者一覧(13件/都道府県順)

入選者 都道府県 活動テーマ
北海道美幌高等学校環境改善班 北海道 オホーツクの自然を守れ!~ 未来に繋ぐ環境改善
キヤノンメディカルシステムズ株式会社
(環境推進部EMS推進担当)
栃木県 いきものと共存した企業づくり
群馬県立藤岡北高等学校
(環境土木科環境工学コース)
群馬県 群馬県藤岡市のヤリタナゴ保護活動
千葉県立松戸南高等学校科学研究部Team Quad-E 千葉県 水生植物栽培ケージを使った沈水植物再生活動 ~ 蘇れ!手賀沼
手作り科学館Exedra 千葉県 駆除の不要な未来のため捨てられる命を教育に活かす科学館の活動
北多摩神道青年会むらさき会 東京都 甦れ、むらさきの名のもとに ~ 神社で紫草復活プロジェクト
NPO法人自然観察大学 東京都 観察の視点を身につけ広めることで自然や環境への意識を高める
三井住友建設株式会社
(技術本部環境・エネルギ-技術部)
東京都 生態系モニタリング成果を生かした建設現場の施工と保全教育
富山県ナチュラリスト協会 富山県 高山植物を守る!~ 自然解説員による立山での外来植物除去活動
大森奥山湿地群を守る会 岐阜県 岐阜県可児市丘陵湧水湿地群に生息生育する希少な動植物保全など
岐阜県立岐山高等学校自然科学部生物講座魚班 岐阜県 長良川に住む外来魚の生態調査と伝える活動
NPO法人奥雲仙の自然を守る会 長崎県 奥雲仙田代原地域で取り組む保全活動
都留 俊之(大分県教育センター教科研修・ICT推進部) 大分県 初任者研修に導入した自然と人とのかかわりを学ぶ自然体験活動

お問い合わせ先

公益財団法人 日本自然保護協会 日本自然保護大賞担当
〒104-0033 東京都中央区新川1-16-10 ミトヨビル2F
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TEL. 03-3553-4101 / FAX. 03-3553-0139