三嶺の森をまもるみんなの会
みんなで取り組む「シカ食害で痛む三嶺の森」の保護と再生
早くから山林開発がすすんだ高知県で、物部川源流部の三嶺の森は随一の原生的自然である。その森が2000年頃からシカの食害で傷み始め、2007年に市民団体や研究者らで「三嶺の森をまもるみんなの会」を結成。国・県・流域3市と協働し、のべ3,400名が参加し、防鹿柵の設置(9.5km)、樹皮食い防止のネット巻き(8,500本)、土壌流出防止のマット張り(5,000m2)などに取り組み、管理捕獲の効果もあって、実施箇所と稜線部は着実に植生の回復が見られるまでになった。高知大学の教員・OB・学生らが毎年実施しているモニタリング調査は、活動の科学的裏づけとなっている。
この部門は本年度も各地から多くの応募があり、保護活動が地域に定着して確実に成果をあげていることがわかります。なかでも「三嶺の森をまもるみんなの会」は、高知県随一の原生的な自然がシカの食害によって貴重な植生を失い、土砂の崩壊と流出の原因となっていることに対して、保護・保全、再生活動を展開してきました。この会の特徴は、青壮年、児童、高齢者など多様な人々が参加され、国・県・地元3市と連携し、より力強い多様な活動が展開されていることです。その成果は、100ページ余の冊子「シカ食害で痛む三嶺の森─再生への途と課題」にまとめられ、各地の活動の参考になるものと思われます。
亀山 章
日本自然保護協会理事長/東京農工大学名誉教授
鈴鹿・亀山地域親水団体連携体
(亀山の自然環境を愛する会、水辺づくりの会 鈴鹿川のうお座、魚と子どものネットワーク)
世代の異なる3団体の連携体による水辺環境保全と次代の人づくり
三重県北部の鈴鹿市・亀山市には、目的や活動地がほぼ同じで構成世代の異なる3つの市民団体がある。鈴鹿川水系の河川やため池、里山公園などで、在来の生き物がくらせる環境を取り戻すために調査・保全・普及活動に取り組んでいるが、多世代で1団体を構成するのではなく、日常はそれぞれに世代を生かした活動をしながら、主要なプログラムは相互に連携・補完することで、より多様で効果的な活動を続けることができるようになった。こうした体制は、日々の活動やシンポジウム等での発表を通じ、地域活動の新しいモデルとして新聞や広報誌等にも取り上げられている。
三重県鈴鹿市・亀山市にある3つの市民団体(10-30歳代を中心とする魚と子どものネットワーク、50歳代を中心とする水辺づくりの会 鈴鹿川のうお座、70歳代を中心とする亀山自然環境を愛する会)は、互いに協力し合いながら、「里山塾」や定期的な池干し、外来魚駆除などの活動を続けられています。ともすれば、世代ごとに分断されがちな自然観察活動において、世代を越えた協力関係を築いている「鈴鹿・亀山地域親水団体連携体」の活動は、他の地域の模範となる活動であり、本部門賞の受賞にふさわしいと評価しました。
吉田 正人
筑波大学大学院教授
日本自然保護協会専務理事
北海道士幌高等学校 環境専攻班・士幌環境講座
士幌の原植生、カシワ林を後世に伝えるために
北海道士幌高等学校の環境専攻班・士幌環境講座は、カシワ林の保全活動に取り組んでいる。士幌町のカシワ林は、内陸部に純林を形成することから学術的にも貴重である。士幌町全域を調査して現存植生図を作成し、本来の自然であるカシワ林は町の0.95%しか残されていないこと、残されたカシワ林も自然度が低いことを明らかにした。そこで、カシワ林の再生活動に取り組み、町から全国にかけて積極的な保全PR活動を行っている。調査結果は「士幌町町づくり計画」にも活用され、環境保全の仕事をめざす生徒も現れている。カシワ林の再生に向け、これからも活動を続けていきたい。
子ども・学生部門には、小学生から大学生まで、地域の多様な自然に対して熱心に取り組んだたくさんの方々に応募していただきました。なかでも、貴重な内陸部のカシワ林について、わずか10人かつ2~3年で1000個所という膨大な数の地点で調査をし、保全に必要な多くの情報を得ただけでなく、トラスト運動に発展させ、さらにカシワ林の保全作業も行うなど、多方面にわたる活動を展開した点に特徴があります。さらに、活動の成果が町づくり計画にも取り入れられるなど、活動の影響も大きかったことが評価され、今回の受賞に至りました。
中静 透
総合地球環境学研究所特任教授
特定非営利活動法人海浜の自然環境を守る会
大阪湾最奥に残る自然海岸・甲子園浜を未来へ受け継ぐ
兵庫県西宮市の甲子園浜は、大阪湾の最奥にある砂浜・干潟・磯の自然海岸。かつては漁場や海水浴場として賑わっていたが、高度成長期に埋め立て問題がおこり、南甲子園小学校PTAらが保護活動をすすめ、埋立規模が縮小されて現在の姿が残った。その想いをつなぐため、2004年に「海浜の自然環境を守る会」を設立し、動植物や漂着物の調査、自然観察会や展示イベントの開催などを続けている。2016年には、多くの市民の協力を得て「写真でよみがえる甲子園浜展」を開催し、昔の浜の姿を記録に残した。動植物調査の結果は、兵庫県生物学会機関誌に毎年掲載されている。
1971年に兵庫県から発表された甲子園浜全面埋立事業に対して、小学校PTAの母親をはじめとする住民による西宮甲子園浜埋立公害訴訟などの粘り強い運動によって、甲子園浜は1976年に鳥獣保護区に指定、1982年には和解が成立し、全長2kmの砂浜と磯が残されました。海浜の自然環境を守る会は、この甲子園浜を守るため、2004年にNPO法人となり、野鳥の調査や観察会を続けるとともに、海浜清掃などの保全活動を続けられています。全国的に減少が問題となっている砂浜や磯の保全に、長期的に取り組まれている活動は、本賞にふさわしいと評価しました。(吉田正人)
自然保護に尽力された沼田眞(ぬまたまこと)博士の志を未来に伝えていくにふさわしい実績や科学性をもった活動に、特別賞として「沼田眞賞」を授与します。沼田眞博士は、生態学者として自然保護の重要性を科学的に説き、日本自然保護協会の元会長として自然を守ることの大切さを訴え、日本の自然保護を国際的な水準に高めました。
西垣 慎治郎
ヤマセミ一家の子育て観察をとおして、県の絶滅危惧種の保全をアピール
コウノトリがくらす兵庫県豊岡市に住む小学6年生の男の子が、2018年春に、工事現場の土の仮置き場に巣をつくってしまったヤマセミを偶然発見。4年生の頃から野鳥観察と撮影を続け、豊岡を中心に確認した野鳥は191種。夏休み中は毎朝夜明け前から川に通ってヤマセミの営巣・子育ての観察を続け、その記録を「第51回科学する但馬の子ども作品展」に出品した。嬉しかったのは、知らない人が「記録を読んで、自然を大切にしようって心から思ったよ」と声をかけてくれたこと。ヤマセミだって県の絶滅危惧種。河川工事を止める方法なんてわからないけれど、自然に関心を持つことが自然を守る第一歩だと思う。そして、関心を持った大人が子どもたちにたくさん伝えてほしい。
小学6年生にして西垣君は、人間と人間以外の生き物・自然との両立は難しい現実を知っています。「絶滅」の真の意味を沢山の人々に知ってもらいたいと願っています。そこには、ヤマセミの観察を続けた日々から見えて来た現実。人知れず数を減らし続けている目立たない野鳥たちが居る事をシッカリと見続けて来た目があります。これらは誰しもがこの地球に持って生まれて来た疑問だと思います。けれど、いつしか忘れ、見えない事にしてしまうのでしょうか。だから、西垣君の思いは、すでに年齢や次元を超えて人々の心を未来へ育てようとしてくれる一筋の光なのです。
イルカ
IUCN親善大使
シンガーソングライター
絵本作家
愛知県立木曽川高等学校 総合実務部
「イタセンパラかるた」で、高校生が小学生に保護の大切さを伝える
愛知県一宮市を流れる木曽川に生息する淡水魚のイタセンパラは、国の天然記念物で、絶滅危機種IA類に指定されている。愛知県立木曽川高等学校の総合実務部では、イタセンパラの生息地の保全、調査研究や学習会への参加、校外アンケートやパネル展示などに取り組んでいる。アンケートでイタセンパラの認知度が低かった小学生に自分たちができることはないかと考え、「正しく」「楽しく」学ぶことができる「イタセンパラかるた」を制作し、市内の資料館・児童館や隣接する岐阜県羽島市の小学校等で「イタセンパラかるた大会」を開催している。小学生たちに保護の大切さを伝えるために、これからも工夫を重ねていきたい。
イタセンパラ保護のために高校生が小学生に啓発活動をするというのは、大人がやるよりもずっと効果があると思います。しかも、その中身はアンケート調査に基づく施策で、「かるた」というゲーミフィケーションで子どもたちにアプローチするわけです。同校では、イタセンパラの域外保全の一環として実物も飼育しており、そして域内保全の場としてワンドの再生活動にも汗を流しています。それらを「かるた」というツールで、つなぐことができるのです。このように、マーケティングの視点で的確な施策を展開したことを評価しました。
神谷 有ニ
株式会社山と溪谷社 自然図書出版部部長・デジタル事業推進室室長
富士ゼロックス端数倶楽部
グループ社員の想いを集め、自ら行動し、自然保護を促進
端数倶楽部は、社員の自発的な想いから1991年に設立された富士ゼロックス・グループの社員・役員・派遣・退職者等の有志によるボランティア組織である。活動資金は、自身の給賞与の端数(100円未満)と自由意志により集まった寄付金から拠出し、会社とのマッチングで全国の自然保護団体を寄付支援するとともに、現地活動の協力、自然観察会、セミナーなどを全国各地で企画・実施。社員やその家族が積極的に参加し、自ら学びながら自然保護活動に励んでいる。28年にわたり続けてきた取り組みは、関連会社7社、販売会社31社にまで広がっている。
従業員等の給与・賞与の端数額や寄付金を集め、自然保護など社会に有益な活動を支援する仕組みは、他の組織においても実例があります。しかし、同倶楽部の設立は1991年。1992年にブラジルのリオデジャネイロで「地球環境サミット」が開催される前であること、日本企業にまだCSRが根づいていない時期であること、しかもそれが28年にわたり継続していることは傑出しています。また、よりよい社会の実現への貢献を目指す同社の姿勢が全社的に浸透している証左でもあります。全選考委員がこうした点を高く評価し、特別賞に値するとの賛同を得ました。
石原 博
三井住友信託銀行(株)業務部兼経営企画部CSR推進室審議役
経団連自然保護協議会企画部会長
入選者 | 都道府県 | 活動テーマ |
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外来ナメクジに挑む市民と学者の会 | 北海道 | 外来ナメクジのモニタリング、および自然科学に関する教育啓蒙活動 |
タンチョウコミュニティ | 北海道 | 鶴居村の子供たちに地元の自然の素晴らしさを実感してもらう |
NPO法人 トラストサルン釧路 | 北海道 | 日本最大の湿原・釧路湿原を守るナショナル・トラスト活動 |
NPO法人 緑豊かな自然環境を育てる会 | 青森県 | 地球温暖化防止・青少年健全育成をも目標に、八戸の荒れた森で命をはぐくむ里山を取り戻す |
棟方有宗、田中ちひろ、廣石光来、仙台うみの杜水族館、遠藤源一郎、カントリーパーク新浜、株式会社TOTO | 宮城県 | 東日本大震災で被災した井土メダカの増殖と新規生息地の開発 |
元泉地域農地・水・環境保全組織運営委員会 | 山形県 | 子どもたちとつなぐ、おらだ田んぼの魅力と田園地域の未来 |
柏の葉サイエンスエデュケーションラボ | 千葉県 | 科学の方法論で自然の多様性と価値を考える「理科の修学旅行」 |
NPO法人 自然観察大学 | 東京都 | 参加者が自然観察の視点を身につけ、それを広めてもらうことで、広く自然や環境に対する意識を高めてもらう |
中越パルプ工業株式会社 | 東京都 | 「竹紙×ORIGAMI」おりがみアクションで生物多様性保全 |
日清食品ホールディングス株式会社 | 東京都 | ビオトープ造成による生態系保全および生物多様性向上 |
NPO緑のダム北相模 | 東京都 | 中高大学生で荒廃する人工林を整備、多様性のある森を目指す「相模湖若者の森づくり」 |
和歌山タイワンザルワーキンググループ | 東京都 | 和歌山タイワンザルの群れの根絶によるニホンザルの保全 |
トトロ幼稚舎 | 神奈川県 | あるがままの自然を受け入れて幼稚園児・卒業生・保護者が活動する |
安曇野オオルリシジミ保護対策会議 | 長野県 | 絶滅危惧種のオオルリシジミをふたたび安曇野に |
愛知県豊田市立五ケ丘東小学校 | 愛知県 | 自然と人とが共生するふるさと“五東の里”をつくろう |
富田 菜月(愛知県立木曽川高等学校) | 愛知県 | 国の天然記念物「木曽川の淡水魚・イタセンパラ」を地域の宝に! |
三重県立四日市西高等学校 自然研究会 | 三重県 | 鈴鹿山麓フクロウ保護プロジェクト |
三重県立四日市農芸高等学校 | 三重県 | 国指定天然記念物・金生水沼沢植物群落の保全活動 |
海の生き物を守る会 | 京都府 | 市民参加型の砂浜調査を中心においた海の生き物を守る活動 |
琴引浜ネイチャークラブハウス | 京都府 | 琴引浜に寄る海ごみのありさまを知り、海を守るためにできること |
中世木山野草を守る会 | 京都府 | みんなで「せつぶん草」を守り、集落を守ろう |
大阪市立新北島中学校 科学技術部 | 大阪府 | 大和川上流、中流、河口での水質調査と河口のゴミの数量調査 |
城代 玲志 | 山口県 | 山口県のオオサンショウウオの「痩せ現象」と緊急保護個体の放流 |
NPO法人 西条自然学校 | 愛媛県 | 西条自然学校「夜の学校」 |
筑後川まるごと博物館運営委員会 | 福岡県 | 自然を守るリーダーを育てる「ちくご川子ども学芸員養成講座」 |
広瀬 朋輝 | 福岡県 | ちくご川子ども学芸員みんなでつくる「高良川昆虫図鑑」 |
NPO法人 奥雲仙の自然を守る会 | 長崎県 | 雲仙天草国立公園・田代原草原における、地域と大学を結ぶミヤマキリシマ保全活動 |
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