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自然しらべ

2019.03.05(2019.03.08 更新)

みえてきたこと

調査報告報告

調べる対象:アリ

自然しらべ2018 身近なアリしらべ! 結果レポート

アリは、家の庭先や公園、道ばたのような身近な場所にも見られるなじみ深い生きものです。今回の「身近なアリしらべ」は、身近にあるさまざまな環境で見られるアリをさがし、みつけることで、私たちの住んでいる生活環境を知り、理解して行こうという目的で行われました。
調査期間の2018年6月〜10月に、全国からのべ1590人が参加して222地点でアリをしらべて情報をお寄せくださいました。今回、その結果をお伝えします。ご参加ありがとうございました。

自然しらべ2018「身近なアリしらべ!」結果レポート(PDF/2.6MB)

 

調査地点の分布

北海道から沖縄まで、全国222地点から1231件の報告・目撃情報が寄せられました。それらは69種のアリの報告となりました。
※報告のうち、サンプル及び鮮明な写真等が同封されたデータは同定作業を行いました。その作業で確認された種類は56種類です。
 

日本で普通に見られるアリは?

今回の報告数のランキングは、日本で普通に見られるアリで、上位10種程度までがごく普通に出会うアリになります。ランキングのトップはクロヤマアリで、次いでトビイロシワアリとアミメアリが続きます。これらは道ばたや半裸地のような開けた環境に多く見られる種で、日常的に最も出会う機会の多いアリでしょう。樹上営巣性のハリブトシリアゲアリが第4位に入っていますが、庭先のちょっとした植え込みにも巣をつくる種です。普通種とは言え、クロヤマアリやトビイロシワアリ、クロオオアリが北海道から九州まで記録されたのに対して、アミメアリやハリブトシリアゲアリは北海道では記録されませんでした。これらの種は北海道では著しく数が減るようです。オオズアリも関西や九州の公園や林縁ではごく普通に見られましたが、東北地方ではほとんど見られず、今回は報告されませんでした。

  

北海道のアリ、沖縄のアリ

北海道ではアカヤマアリ、エゾアカヤマアリ、エゾクシケアリ、アレチクシケアリが平野部で発見されました。これらのアリは、本州中部地方では山地に限って見られます。一方、沖縄の公園や宅地で得られたアリは、九州以北とはずいぶんと顔ぶれが変わっています。南北に細長い日本は、地域によって見られるアリが異なっていることが分かります。


写真:エゾアカヤマアリと生息環境(岩手県奥州市で撮影)

 

公園のアリ、林のアリ

今回報告のあった69種のアリの中で、樹林の落葉下、朽木あるいは土中に棲むアリは22種でした。ノコギリハリアリ、イトウカギバラアリ、ワタセカギバラアリなどは樹林から採集されており、そのような環境のある公園や緑地ではこれらも生息しています。これらのアリの興味深い生活は、「自然保護、 564号(2018)」に紹介してあります。


 

また、樹上に巣を造って生息する樹上営巣性のアリは14種報告されました。これらのアリは、必ずしも樹林に見られるとは限らず、ちょっとした樹木や植え込みがあれば、庭や校庭、公園などで得られる種も多いことが分かりました。
 半裸地や道ばたのような開けた環境に多いアリとして、クロオオアリ、トビイロシワアリ、クロヤマアリ、サクラアリなどが見られました。また、トビイロケアリやアミメアリのように半裸地から樹林内まで広く生息している種も見られました。


写真上:クロオオアリ
写真下:クロヤマアリ(愛知県豊川市で撮影)
 

トゲアリの発見

トゲアリは赤色と黒色の目立つ色彩の大型のアリで、胸部と腹柄節には発達したトゲが見られます。絶滅が危ぶまれる種などを一覧した環境省の「レッドリスト」では、トゲアリを絶滅危惧II類に位置づけています。今回の調査で、このアリが長野県や新潟県などの各地10カ所から報告されました。トゲアリは、年数の経った幹の太い広葉樹のある樹林でないと生息できません。このアリの巣が、そのような老齢木の幹の空洞に造られるからです。このような大木が少なくなった東京都の23区内では、近年トゲアリが見られるのは明治神宮の社寺林ただ1カ所となっていました。

 

身近に見られるアリの顔ぶれが変わりつつある

20年前、30年前にはほとんど、あるいは全く見られなかったアリが、身近な場所で見られるようになっていました。

 

クロヒメアリ

島部を除いた関東地方では、2015年に東京都大田区で初めて発見され、その後、江東区、品川区、港区と次々に記録されているアリです。今回の「アリしらべ」でも東京都と埼玉県から得られました。神奈川県でも2014年以降、港湾部を中心に記録されています。関東地方で急速に分布を広げているようです。名古屋市内でも2カ所から発見され、やはり分布を広げている可能性があります。


写真:クロヒメアリ (山口県下関市で撮影)

 

クロニセハリアリ

8月に当会の主催で、代々木青少年センター(東京都渋谷区)で実施された「アリ博士になろう!観察会」で確認されました。以前は関東地方に生息していなかったアリで、1979年に千葉県で初めて報告され、1985年に東京都からも記録されました。その後、公園や河川敷、住宅地で次々と生息が確認され、急速に関東地方で増殖していることがうかがえます。さらに近年、東北地方や北海道の工場敷地や居住地域などでも発見されるようになりました。全国規模での急速な分布の拡大が考えられ、特に身近な場所での観察で、留意すべき種です。


写真:「アリ博士になろう!観察会」のようす

 

ルリアリ

近畿地方以南では以前から見られましたが、近年、中部地方の沿岸部や関東地方でも頻繁に見られるようになって来ました。今回、沖縄県、鹿児島県、山口県、広島県、島根県、愛知県と得られ、関東地方では東京都と埼玉県で確認されました。

 

ケブカアメイロアリ

以前は本州に生息していなかったアリです。1994年に広島県で発見され、その後、山口県、兵庫県、大阪府、京都府、愛知県、静岡県、石川県と太平洋岸を中心に次々と発見されるようになりました。関東地方でも、近年、東京都と神奈川県で発見されました。
 今回の活動で、本種が名古屋市内で、公園を中心に急速に分布を広げていることが分かりました。愛知県ではこれまでに、名古屋港及び名古屋市内の公園2カ所からの記録のみがありました。しかし今回、その他に市内の3カ所の公園や敷地で生息が確認されました。名古屋では、今回の活動で発見されたことを契機に詳細に調査がなされ、かなり分布を広げていることが明らかになりました。それらは別途発表される予定です。

 

写真:ムネアカオオアリ(北海道登別市で撮影)

 

そのほか、イソアシナガアリやオオシワアリなども分布を広げている種のようで、公園や校庭などで目にする機会が増えて来ています。両種ともに東京都内からの情報が得られました。一方、ムネアカオオアリは、以前は関東地方の平野部でも良く見られましたが、近年平野部ではほとんど見られなくなってしまいました。今回東京都では、八王子市のみで確認されました。山地に多く見られます。
チョウでは、ナガサキアゲハやツマグロヒョウモンのように、これまでに見られなかった種が分布を広げて、あちこちで姿を見かけるようになって来た種があります。アリにも同様なことが起こっている可能性があります。
以上、身近な場所のアリ相も変化しつつあるようです。今回調査した場所で「アリしらべ」を再度行い、今回の結果と比較すると、興味深い結果が得られるかも知れません。

 
 

トピックス

1.県初記録種

県単位で見ると、アリでは分布調査が不十分な地域が少なくありません。今回の「アリしらべ」で、いくつかの県初記録を確認しました。ヒメアリ(新潟県※1)、カドムネボソアリ(愛知県※2)、クロヒメアリ(愛知県※1、埼玉県※1)、イトウオオアリ(福岡県※3)、カドフシアリ(熊本県※1)です。
※1:参加者からの目撃情報、※2:アリのサンプルで確認、※3:アリの投稿写真で確認
 
ヒメアリ、カドフシアリともに珍しい種ではありませんが、正式な分布記録が発表されていない県がいくつもあります。
樹上性のイトウオオアリは、関東地方では比較的普通に見つかります。しかし、九州地方では非常に少ないようで、これまでに九州にも生息していると言う報告があるだけでした。一方、ヒメアリは関東地方以南では普通に見られるアリですが、東北地方では少なくなります。
カドムネボソアリが名古屋市内の公園から発見され、愛知県初記録となりました。ムネボソアリ類としては例外的に触角が11節からなり(他のムネボソアリ類は12節)、これまで、各地でまばらに発見されていた珍しいアリです。ただし、普通種の多く見られる公園などで少数個体が採集されており、不思議なアリでした。本種の生態の一部が判明したのはごく最近で、カドムネボソアリは、サクラの樹皮下などに規模の小さい巣を作って生活することが分かりました。1つの巣には1匹の女王と十数匹の働きアリが見られます。

 

2.アリの名前正答率

今回の「アリしらべ」では、小さなアリで正確な名前が調べられるのかどうか心配でした。参加者から送られて来たサンプルを確認したところ、判定出来ず(15%)を除いて、名前の正答率は71%でした。日本には約300種類のアリが棲んでいます。普通種に絞り込んで名前を調べると、これくらいの同定ができるのです。
今回の体験から、私たちが生まれた後に自然に身につけて行く、生き物への識別能力はそうとう高いと思いました。さらに、誤りやすい部分を知るなどのちょっとしたコツをつかむだけで、さらに高い識別能力を発揮できるようです。自然保護団体所属の方々を中心としたメンバーでしたが、8月に一度アリ観察会に参加していただき、その後の公園や緑地の調査で得たアリの名前の正答率(判定せずの29%を除く)は97%となりました。

 

ヒアリ類は発見されず

2017年に続いて2018年もアカヒアリ(ヒアリ)の日本への侵入が続きました。人を刺し、時によっては過敏感反応により死に至ることもある危険なアリとして、社会の注目を浴びています。もしアカヒアリが日本に定着し、増殖したならば、日常生活に支障が生じるかも知れません。子供を公園で遊ばせることができない、芝生に座れない、ペットの散歩ができなくなるなど色々な問題が出てきます。そのため現在、日本では港湾部や空港でヒアリ類の国内への侵入を食い止めようと、さまざまな努力が続いています。
少なくとも、今回の調査・観察では、アカヒアリや近似種のアカカミアリは発見されませんでした。水際での侵入阻止の努力が効果を上げており、現在国内へのヒアリの定着は阻止されていると思います。

 

参加者からの感想

  • ・思っていたより、識別がかなり難しかったです。(N・Sさん 福岡県)
  • ・アリの種類がこんなにたくさんあって驚きました。(N・Wさん・神奈川県)
  • ・見つけたアリからその地点の環境が分かって面白いと思った。(T・Wさん ) ・アリは動きが早くて観察が難しかった。山にいるアリはじっくり見たことがなかったけれど、今回見つけたアリは普段、家の近くで見かけるアリとは違っていたので、また機会があれば見つけてみたいと思う。(M・Fさん 神奈川県)


 

主催・協賛・協力

主催 公益財団法人 日本自然保護協会
共催 読売新聞東京本社
協賛  サニクリーン カロラータ
協力 学研 富士通 E-ne!~good for you~(FM横浜) NEC presents THE FLINTSTONE(bayfm)
学術協力 寺山守(東京大学農学部・理学博士)、岸本年郎(ふじのくに地球環境史ミュージアム)
写真 高野丈
デザイン 君島晃(リンカク)

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