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2009.07.01(2018.06.27 更新)

【自然しらべ2009】湧き水の話

調べる対象:湧水

植物の特別な生態が見られるユニークな環境

著者:角野 康郎(神戸大学大学院理学研究科教授) ※会報『自然保護』2009年7/8月号より転載

 

水中に入る陸上植物

湧き水(湧水)は、年間を通して水量が安定している上に、水温の季節変動が少なく、夏でも水温が上昇しない一方、冬にも水温が低下しないという特殊な水域です。
水草では、高い水温では生きていけないバイカモ、ナガエミクリ、ミズハコベなどが湧き水によく見られます。カワヂシャ、オランダガラシ(クレソン)、ヤナギタデなど、通常は水辺で生育する植物だけでなく、陸上植物のイヌタデやイネ科植物が湧き水の中に入り込んで沈水形で生育し、水中で開花していることさえあります。このように湧き水は通常の水域とは異なった興味深い現象が見られる生態系です。これは湧き水の水温が安定していることに加えて、水中にたくさんの二酸化炭素が含まれていることによると考えられています。


▲湧き水のある河川に広がるバイカモの群落。(兵庫県丹波市)

▲ハタベカンガレイ。陸上から沈水生活に適応する進化を遂げた。(大分県佐伯市)

▲湧き水の水中で開花するイヌタデ。(静岡県静岡市・撮影:栗山由佳子)

 

氷河期の分布をうかがい知る

また湧き水は、動植物の分布の観点からも注目されます。北方系の植物が西南日本の湧き水に見られるのはその代表的な例です。
信州以北の寒冷地に主に分布する水草のオヒルムシロが西南日本でも何カ所か確認されていますが、例外なく湧き水がある場所です。
氷河期に広く分布していた植物が湧き水のある場所に遺存的に生き残っているのです。
同様の例は、植物に限らず魚や水生昆虫でもみられ、動植物の分布の歴史を示す貴重な場所です。

▲湧水河川の植物群落。(長野県安曇野市)

 

特有の生物相を脅かす外来種

一方、冬にも水温が下がらないことが新たな事態を引き起こしている例もあります。南方系の外来植物は冬の寒さが制限要因になって分布の北限が決まりますが、湧き水が越冬の拠点になる場合があります。熱帯・亜熱帯原産のボタンウキクサは本州以北では通常は越冬できませんが、湧き水で越冬している例が知られています。
湧き水は、特有の生物相を有する水域として保全の重要性が高い環境です。しかし、コカナダモやオオカワヂシャなどの外来植物が侵入して優占する状況が各地でみられるようになりました。日本固有の湧水生態系の姿が失われないように対策が必要な場合もあります。

▲湧き水の中で沈水形になった特定外来生物のオオカワヂシャ。(兵庫県養父市)

 

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