2004.07.01(2024.06.05 更新)
- 2004年
- カタツムリをさがそう
【自然しらべ2004】見えてきたこと
調べる対象:カタツムリ
自然しらべ2004~カタツムリをさがそう~を終えて(座談会)
黒住(千葉県立中央博研究員)VS.志村・糸岡・林(NACS-J)in千葉県立中央博物館
志村:今回の自然しらべには、全国延べ1599人の方にご参加いただき、昨年を大きく上回る規模となりました。合計で4959匹ものカタツムリの報告が寄せられました。
黒住:会員の方々をはじめ新聞、ラジオ、テレビ、インターネット等、多様なメディアによる賜だと思います。
カタツムリの仲間は日本に800種もいるため、「種類不明」という報告が多くありました。
スケッチや写真などから種名を推定できたものもありますが、誤認もあると思います。
参加してくださった方の分布にも偏りがあります。しかし、このことに注意をすれば全国のカタツムリの様子を推測するのにとても有用です。今後の私たちの研究の参考にもさせていただきたいです。
林:私たちの身の回りにいるカタツムリに、外来種が多いと聞きました。結果ではどうだったのですか。
黒住:全体の三分の一が外来種を含む注目3種(ウスカワ・オナジ・コハクオナジ)でした。全体的には、ミスジ・クチベニ・セトウチ・イセノナミと大型の種の報告も多く、日本固有の土着のものがまだまだ根強く残っているという印象を受けました。特に近畿地方にすむナミマイマイがこんなにも残っていたのは意外です。
林:今回、大きなカタツムリが少なくなったということに関心を持った方がたくさんおられました。
黒住:全般的には開発とともに減少傾向にあると言えるでしょう。その中で「大きなカタツムリ」が注目されたため、ミスジマイマイやヒダリマキマイマイなど大型のカタツムリの報告が多くなったと考えられます。
オナジマイマイの報告数が、当初私が予想していたより少なかったのも、このような関心の度合の差によるものでしょう。
糸岡:今回の結果から得られる分布域は学術的なことがいえなくても、何らかの仮説が立てられるように思います。今回の注目種3種の分布域に注目してみたいです。
黒住:都市化がすすんで、草原を好む、すなわち、比較的乾燥に強いカタツムリの生息域が拡大しています。
特にコハクオナジマイマイの生息域は、従来知られていたものよりも拡大していました。
糸岡:そういった仮説を皆さんと共有することで、人間とカタツムリ、ひいては人と自然の共生について、もう一歩すすんだ視点から自然保護の意識を共有できていければと思っています。
ウスカワマイマイ (川口市・斎藤さん) |
ミスジマイマイ (弘前市・中村さん) |
クチベニマイマイ・ ニッポンマイマイ・ オオケマイマイ (大津市・佐野さん) |
カタツムリの報告数
ウスカワマイマイ | 863 |
---|---|
オナジマイマイ | 473 |
コハクオナジマイマイ | 240 |
ヒダリマキマイマイ | 856 |
ミスジマイマイ | 611 |
クチベニマイマイ | 444 |
イセノナミマイマイ | 270 |
セトウチマイマイ | 254 |
ツクシマイマイ | 154 |
アオモリマイマイ | 79 |
ナミマイマイ | 78 |
ヒタチマイマイ | 61 |
ニッポンマイマイ | 41 |
---|---|
エゾマイマイ | 23 |
ハリママイマイ | 23 |
コベソマイマイ | 13 |
ミノマイマイ | 9 |
タメトモマイマイ | 1 |
オオケマイマイ | 43 |
ヒラマイマイ | 15 |
サンインマイマイ | 41 |
オカモノアラガイ | 19 |
その他 | 198 |
不明 | 164 |
ウスカワマイマイ-全国的に広く分布-
ウスカワマイマイ:Acusta despect sieboldiana
殻の直径2cmくらいまで、殻高2cmくらい。殻はうすくて丸い。殻の口は薄く反り返らない。スジはない。ヘソ穴はほとんど閉じる。本州・四国・九州に分布。林の中には住まない。
863匹と圧倒的に多かったのがこの種です。従来から全国に生息域を拡大していたのですが、今回も全国的な分布がはっきりと現れました。草原性、すなわち比較的乾燥につよいカタツムリで、東海・近畿・関東の都市近郊から報告が多数寄せられました。今回の北限は青森県八戸市でした。
注目種の3種(コハクオナジマイマイ・オナジマイマイ・ウスカワマイマイ)は、いずれも人のくらしとともに移動している種類です。今回、スーパーなどの野菜にカタツムリがくっついていたというおたよりをいただきました。このように人がカタツムリを運ぶということに加えて、落ち葉が溜まって湿っぽいところがある森などが減少していることが、ウスカワマイマイが多く見られるようになった原因と思われます。私たちのくらしとカタツムリのくらしには大きなつながりがあるようです。
ウスカワマイマイの分布と見つかった数
北海道地方 | 東北地方 | 信越地方 | 関東地方 | 東海地方 | 北陸地方 | 近畿地方 | 中国地方 | 四国地方 | 九州地方 | 沖縄地方 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
0匹 | 28匹 | 17匹 | 205匹 | 348匹 | 2匹 | 104匹 | 8匹 | 5匹 | 168匹 | 15匹 |
オナジマイマイ -江戸時代からの国外外来種の今は
オナジマイマイ:Bradybaena similaris
殻の直径2cm以下、殻高1.3cmくらいまで。殻は平たい。巻き数は多い。ときにはスジがある。巻き始めの肉の色は茶色か黒色。江戸時代に東南アジアから来た外来種。現在では、北海道・本州・四国・九州・沖縄・小笠原に分布。
江戸時代に、サツマイモにくっついて中国・琉球・薩摩を経由し、その後、日本全土に広がったと考えられているカタツムリです。分布域は、ウスカワマイマイよりは広域ではないものの、やはり大阪をのぞいた大都市近郊での報告が目立ちました。北は青森県上北郡、南は沖縄県沖縄市から報告をいただきました。
注目種の3種(コハクオナジマイマイ・オナジマイマイ・ウスカワマイマイ)は、いずれも人のくらしとともに移動している種類です。比較的乾燥に強く、都市部での環境に適応できるという性質をもってはいますが、移動能力の乏しいカタツムリがこれほど離れた場所に突然広がることはできません。
今回の参加者のおたよりの中にもスーパーなどで購入した野菜にカタツムリがくっついていたという声がありました。このような私たちのくらしが、まさにこれらのカタツムリの生息域に拡大につながっていると思われます。
オナジマイマイの分布と見つかった数
北海道地方 | 東北地方 | 信越地方 | 関東地方 | 東海地方 | 近畿地方 | 中国地方 | 四国地方 | 九州地方 | 沖縄地方 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
0匹 | 15匹 | 20匹 | 305匹 | 73匹 | 64匹 | 24匹 | 1匹 | 20匹 | 7匹 |
コハクオナジマイマイ-九州出身のカタツムリ、日本全国に進出中-
コハクオナジマイマイ:Bradybaena pellucida
殻の大きさ2cm以下。殻高1.2cmくらいまで。オナジマイマイに似るが、巻き始めの肉の色は黄色か白色、光沢がある。もとの分布は九州だったが、本州での観察記録が増えている。
もともとは九州地方に生息していたカタツムリですが、千葉県を中心に、埼玉県や東京都などの関東地方各地から報告をいただきました。従来知られていた分布域を少し拡大する結果となり、着実に広がっていることがよくわかりました。今後も、さらなる拡大が予想されます。その他のカタツムリに直接影響を及ぼすことはないようですが、私たちの身のまわりの環境変化を知る目印のひとつとして、これからも引き続き注目していてください。
注目種の3種(コハクオナジマイマイ・オナジマイマイ・ウスカワマイマイ)は、いずれも人のくらしとともに移動している種類です。比較的乾燥に強く、都市部での環境に適応できるという性質をもってはいますが、移動能力の乏しいカタツムリがこれほど離れた場所に突然広がることはできません。
今回の参加者のおたよりの中にもはスーパーなどで購入した野菜にカタツムリがくっついていたという声がありました。このような私たちのくらしが、まさにこれらのカタツムリの生息域に拡大につながっていると思われます。
本来の生息地の九州よりも関東地方からの報告が多かったのは、参加者が大都市に多かったことによると思われます。
コハクオナジマイマイについて知られていたこれまでの分布は、1995(平成7)年発行の『原色日本陸産貝類図鑑』(東 正雄著/保育社)では、九州・山口のほか、関東地方は千葉県のみでした。
『生物多様性調査 動物分布調査報告書(下) (陸産及び淡水産貝類)』(環境省自然環境局、生物多様性センター/2002年発行)によると1993(平成5)年の調査結果は、関東地方の分布は神奈川県と千葉県の南端。
コハクオナジマイマイの分布と見つかった数
ヒダリマキマイマイ・ミスジマイマイ-似ているようでまったく違った関東圏での分布-
ヒダリマキマイマイ:Euhadra quaesita
殻は大形、左巻で、標高33mm、殻径50mm。平地に見られる個体の場合、殻は黄褐色で、山地に見られるものの場合、赤褐色である。本州にのみ生息し、東北(今回の北限は秋田県松ヶ崎)、関東、伊豆諸島、中部、北陸地方に分布する。
ミスジマイマイ:Euhadra peliomphala
殻の直径3.5cmくらいまで、殻高2cmくらいまで。殻は平たい。巻き数は少ない。スジがあるものとないものがある。ヘソ穴が開く。関東に分布。
同じ属のマイマイであるこの2種について見ていきましょう。
関東で見られる大きなカタツムリの代表的な2種ですが、全国的な分布を見てみると、ヒダリマキマイマイは、東北地方にも広く分布しています。
この2種の関東地方の分布に焦点を当てると面白い結果が見えてきました。グラフのとおり、ヒダリマキマイマイは、東京都の報告数が圧倒的に多いのに対し、ミスジマイマイは同様な結果が得られませんでした。ミスジマイマイはヒダリマキマイマイに比べ樹上での生活していることが知られています。都市部の開発で樹木が伐採されたにしても、ミスジマイマイほどは樹上を好むわけではないヒダリマキマイが生存できたのではないかと考えられます。
ヒダリマキマイマイとミスジマイマイの報告個体数の比較
クチベニマイマイ-大阪の平野部にはいなかった-
クチベニマイマイ:Euhadra amaliae
殻高20~24mm、殻径26~37mm。淡い黄白色で光沢があり、口の部分の紅色が特徴。内部は紫紅色。関西地方に広く分布する。東限界は長野県、西限は兵庫県滝野付近、北限は福井県、南限は和歌山県。
殻が大きく、殻の模様や口の部分の紅色が特徴的な種類です。そのため、奈良県の橿原高校の生徒さんをはじめ多数寄せられた調査シートからも明確に同定することができました。下のGISマップのように、近畿地方を中心に分布していることがわかります。
チベニマイマイの近畿地方の分布
主に近畿地方に生息しているこの種ですが、今回注目したいのは、大阪府の市街地からは報告がまったくなかったことです。大阪からは、「岸和田自然資料館」の方々や「箕面の自然と遊ぶ会」の方々から報告をいただきましたが、いずれも平野部からの報告ではありませんでした。大阪平野の中心部は、他の平野とは違い、開発がすすみ、かつ、カタツムリがすみやすいような丘陵地や台地がないということが考えられるでしょう。
都道府県 | 報告数 |
---|---|
奈良 | 221匹 |
京都 | 92匹 |
滋賀 | 43匹 |
和歌山 | 36匹 |
大阪 | 17匹 |
三重 | 15匹 |
兵庫 | 10匹 |
合計 | 434匹 |