調査サイトの事例から

後半は、モニ1000里地調査を行っている全国2か所のサイトから、調査員の方にデータを有効な保全対策につなげた事例についてご共有いただきました。

事例紹介①：坂月川上流一帯（千葉県）

— 勝又紳一郎氏　（坂月川自然環境調査グループ（坂月川愛好会））

千葉県千葉市の坂月川ビオトープは面積0.5ha、千葉市の水辺環境事業区域に指定された特別緑地保全地区です。勝又氏からは、このビオトープにおいて、LEDライト設置後にヘイケボタルが減少した調査結果を明示し、関係者と調整のうえ、ホタルへの影響を減らす対策実施につなげた事例をご紹介いただきました。継続的な調査活動により、ヘイケボタルの減少という異変を迅速に捉えられただけでなく、効果的な保全対策がなされたかどうか、対策後の改善も捉えることができたと報告されました。また、モニタリングによって定量的な調査結果を基にした説明が可能となり、ビオトープの素晴らしさを多くの人に知ってもらえるようになったり、新たな仲間が加わったりするなど、活動の輪も広がっているそうです。

勝又氏の発表を通じて、一連の保全対策が、客観的データに基づく問題提起と建設的な議論、さらに実現可能性を踏まえた現実的な対策提案のもとで進められていた点が非常に印象的でした。特に、異変に気づく調査員の方の鋭敏な観察力という主観的な要素を、いかに客観的データへと落とし込み、科学的に有効な保全策へと結びつけるかという点において、調査員の方の客観的データに対する誠実な姿勢とデータに基づいた着実な取り組みに深く敬服しました。

事例紹介② 稲垂湿原（滋賀県）

— 野田晃弘氏　（NPO法人蒲生野考現倶楽部）＜滋賀県＞

滋賀県の稲垂（いなたり）湿地は積水樹脂物流センター敷地内の生物多様性保全エリアです。野田氏からは、この湿地において、獣害防止策や希少植物の保全対策、「自然共生サイト」※登録などを、地権者や地域住民との協働により実現した事例をご紹介いただきました。調査を通じて得られたデータは、保全のための重要な指針となり、獣害対策用のフェンスの設置や、除草作業による影響の緩和など、さまざまな保全対策につながりました。また、モニタリング調査結果やこれまでの活動の積み重ねにより、同地は2023年に環境省の「自然共生サイト」^※に登録されました。調査を通じて得られた成果は、単に希少生物の確認にとどまらず、多様な動植物との新たな出会いにもつながっていると報告されました。さらに、調査結果を地域住民や企業と共有することで、保護・保全の取り組みがより一層強化され、保全管理の助言も行えるようになったそうです。

企業敷地内の保全活動ということで、企業の担当者と除草作業の方針について話し合うなど、企業との協働のあり方を学ぶことができる事例でした。効果的な保全を実現するためには、単に自然環境そのものにのみ焦点を当てるのでなく、野田氏が「調査者よし」「地域よし」「生きものよし」と指摘されたように、保全に関わる周囲の人々への情報共有や、活動から派生する地域への影響についても考慮に入れることが重要なのだと改めて感じました。

閉会にあたり、本日のイベントを振り返り、里地調査検討委員の石井実委員や青木雄司委員、そして環境省生物多様性センターの高橋センター長から、全国の調査地で活動を支える調査員の皆さまの尽力に深く感謝をお伝えするコメントをいただきました。また「20年の市民による調査は社会を動かす力がある」「調査を活かした保全活動の成功例だけでなく失敗例も共有してほしい」「今後も優良事例を共有できるようにしたい」とのコメントをいただきました。
最後に調査員や調査関係者で写真を撮って終了となりました。

おわりに

今回のイベントを通じて、調査員の皆さまによるきめ細やかなモニタリングが、日本の里地里山生態系の異変把握や保全に大きく貢献していることを改めて実感しました。私は特に、調査員の方々の、毎年欠かさず調査に取り組まれる真摯な姿勢と、調査と保全活動を繰り返し、少しずつ改善を図っていこうとする地道な活動姿勢に、非常に感銘を受けました。事例紹介では、お二方による簡潔で洗練された発表を通じて、お二方がいかに丁寧に準備をされたのかを感じ、日頃の活動に対しても調査員の皆さまがどれほど真摯な姿勢で向き合われているのか、その一端を感じることができたように思います。日本の身近な自然環境の保全が、こうした地域に根ざして保全・普及活動に尽力する有志によって成り立っていることを実感したことは、私にとって生態系保全における地域や個人の役割の重要性に目を向けるきっかけになりました。

「どのように継続させていくのか」ということは、100年のプロジェクト継続を目指す上では大きな課題だと思います。現在、調査を担ってくださっている方のように、身近な自然を愛し、その変化の行く先を案じる人材をどのように育てていくのか。将来世代において「人と自然のかかわりの再生」をどのように進めるのか。都市化と気候変動が進み、人々がますます自然から離れる現代において、深く考えなければいけない課題であると思いました。

最後に、本年度の全国講習会にご参加いただいた皆さまへ、心より御礼申し上げます。