2022.08.08(2023.01.20 更新)
- オンライン開催
- 2022年7月9日
【報告】 モニ1000里地調査 次期一般サイト募集オンライン説明会を開催しました!<前編>
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こんにちは、日本自然保護協会(NACS-J)でインターンをしております筑波大学大学院修士2年の深澤春香です!
2022年7月9日(土)にオンライン開催した「モニタリングサイト1000里地調査(以降、モニ1000里地調査) 次期一般サイト募集説明会」の様子を報告します。
※長文となったため、記事を分割しています。後編の報告は>>こちら<<
モニ1000里地調査とは、100年の長期にわたり里山の変化を早期に把握し、生物多様性の保全施策に役立てるためのNACS-Jと環境省の共同事業です。
現在、2023年度からの5年間ボランティアで調査にご協力いただける調査地・調査員を、募集しています。
今回、応募を検討してくださっている方に向けて、より詳しくモニ1000里地調査について知っていただくため、調査の概要や成果、調査地での実際の活動状況、各項目の調査方法などの説明を行いました。
「モニ1000里地調査の概要とこれまでの成果」…藤田卓(NACS-J)
最初にNACS-Jの藤田から、里山生態系の現状と、モニ1000里地調査の概要とこれまでに得られた成果、そして参加のメリットについて発表を行いました。
里山とは、この写真のように、草刈りや木材の間伐など、人による様々な手入れが行われることで、多様な環境が連続して生み出されている二次的な自然環境です。
▲写真:岩手県一関市
里山を生物多様性という観点で見ると、このような二次的な自然には、絶滅危惧種のうち7割以上が生息するとされ、まさに絶滅危惧種の宝庫と言える重要な場所です。
しかし近年、伝統的な管理の放棄による里山の劣化と、それに伴う生物多様性の危機が問題となっています。これを受け、里山の生態系を長期的にモニタリングし、その変化を捉え、生態系及び生物多様性の保全につなげることを目的として、モニ1000里地調査が誕生したことが紹介されました。
次に、モニ1000里地調査でこれまでに得られた最大の成果として、里山生態系の現状の定量的な把握ができたことが挙げられました。具体的には、ノウサギやホタル、カエルなどの身近な生物の著しい減少が確認されています。その中でも特に、注目すべきはチョウ類であり、その約1/3の種が絶滅危惧種に相当するほど急速に個体数が減少していたことが説明されました。私自身この事実を初めて知り、非常に衝撃を受けました。
モニ1000里地調査によって得られたデータは、指標レポート・とりまとめ報告書としてまとめられるだけでなく、各地のレッドデータブックや、生物多様性地域戦略の重要地域選定など、各地域にも貢献されているということで、この調査の重要性を改めて感じることができました。
また、モニ1000里地調査は、全国約200か所の里山との比較が可能な点や、センサーカメラの貸し出しや調査マニュアルの提供などのサポートがある点、さらには調査講習会や交流会など人材育成の機会がある点など、参加によるメリットがたくさんあるということが大きな魅力だと感じました。
「天覧山・多峯主山周辺景観緑地(埼玉県飯能市)における一般サイトの調査の取組みについて」…大石章氏
次に、天覧山・多峯主山の自然を守る会(略称:てんたの会)副代表理事で、モニ1000里地調査に協力してくださっている大石章氏より、調査の現場での取り組みと成果についてお話しいただきました。
てんたの会が調査を行う「天覧山・多峯主山周辺景観緑地(埼玉県飯能市)」は、7割の土地を所有する西武鉄道と、飯能市、そしててんたの会をはじめとした市民の三者が協働して、湿地環境の保全活動に取り組んでいる場所になります。
複数の主体が保全活動に関わっているため、保全の方向性をデータに基づいて決めたいという思いから、保全活動開始翌年の2008年から15年間モニ1000里地調査に参加してくださっているそうです。
現在、こちらのサイトでは7項目(植物相、鳥類、中・大型哺乳類、カヤネズミ、カエル類、チョウ類、ホタル類)の調査を実施されています。
大石氏はチョウ類調査を担当されていて、正確に同定するため、これまでの観察結果や文献からサイトに生息しているチョウ類リストを作成してから調査したそうです(これから調査を始めようとされている方に、この方法はオススメだそうです)。さらに、注目する種を決めることで、調査を楽しみながら、生態系の把握に役立てているそうです。これらの話から積極的かつ有意義に調査をされていることが伺え、私も含めスタッフ一同、敬服しました。
大石氏からは、実際にモニ1000里地調査のデータを活用した事例として、アライグマの捕獲実施についてもご紹介いただきました。このサイトでは、2014年頃からヤマアカガエルの卵塊数の大幅な減少が確認されるとともに、アライグマの生息に関する情報が寄せられるようになりました。2015年にはアライグマが撮影されたため、2017年にアライグマの捕獲を実施した結果、2018年には卵塊数が回復し、ヤマアカガエル保全にモニ1000里地調査のデータを活かすことができたということでした。今でも哺乳類調査で、継続的にアライグマの監視もされているそうです。
また、てんたの会では、毎年2月に西武鉄道や飯能市などを招いて、調査結果報告会を開催し、データを共有して意見交換する場を持っているそうです。この会は、発表する側の調査員さんのモチベーションアップと参加者側の企業・行政担当者の研修にもつながっているとのことでした。まさに一石三鳥ともなる素晴らしい活動で、モニ1000里地調査の目的である生態系及び生物多様性の保全につなげるということと、持続的な体制づくりの両方を実行されていると感じました。
一方で、長期モニタリングを見据えた課題として、調査員の方は60歳以上の方が半分を占めることと、単独での調査が多いことを挙げられていました。新たな調査員の獲得のために上記の報告会に加えて、調査体験会を実施するなど工夫をされており、既に調査員の交代もいくつかで実現できたということでした。
このような調査の現場に立っているからこその視点を共有していただけたことは、私自身非常に大きな学びとなりました。そして、発表の端々から大石氏が非常に積極的に、そしてなりより楽しんで活動してくださっていることを感じたことが印象的でした。
▲西武・飯能市・市民協働により保全活動がされている湿地(提供:大石章)