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2024.07.08(2024.07.24 更新)

ネイチャーポジティブ実現に向けた、生物多様性を客観的に評価する6つの手法を策定

みなかみ町の山と川の画像

GBFやTNFDなど世界の動きとも連動

みなかみ町・日本自然保護協会・三菱地所の3者連携活動成果

群馬県みなかみ町(以下、みなかみ町)、公益財団法人日本自然保護協会(以下、日本自然保護協会)、三菱地所株式会社(以下、三菱地所)は、2023年2月27日にネイチャーポジティブの実現を目指して3者で連携協定を締結しています。

この度、3者で進めてきた活動のひとつ「生物多様性保全や自然の有する多面的機能の定量的評価への挑戦と活用」の取り組みのなかで、生物多様性を客観的かつ定量的に評価する6つの手法をとりまとめましたので、発表いたします。

ネイチャーポジティブを実現していく上で、生物多様性の客観的な評価は課題となっており、世界的にも議論が進められています。国際自然保護連合(以下、IUCN)が提唱している「ネイチャーポジティブ10の原則」や「IUCNネイチャーポジティブアプローチ」でも、生物多様性の評価が求められています。

今回発表した6つの評価手法は、IUCNのアプローチやTNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)による企業・団体への提言(以下、TNFD)など、世界的な動きとも整合を取りながら検討を進めてきました。結果、ネイチャーポジティブの実現に向けた国際目標である昆明・モントリオール生物多様性枠組(GBF)や各自治体の目標に対する生物多様性保全活動の貢献を客観的に評価できるものになりました。また、TNFDで求められている企業による事業を通じた地域の自然への「依存度/影響」の評価や、「リスク/機会」「指標と目標」の検討及び開示に活用することもできます。

今回発表した評価手法は主に生物多様性や生態系サービスの「現状」を評価する手法です。今後は保全活動等による「生物多様性の回復傾向」を客観的に評価できる手法の検討も進めていく予定です。

6つの評価手法の詳細と、みなかみ町での評価結果(サマリー)

①重要地域の評価

専門家等へのヒアリングや既往文献等の調査によって、地域における生物多様性保全上重要な場所を、生物多様性の希少性・危急性・相補性・連結性の観点から評価します。例えば、企業の事業地や生物多様性保全活動を行っている場所(以下、活動地)が生物多様性にとって重要な場所かどうかを評価できます。重要地域の把握はTNFDが推奨するLEAPアプローチでも初めに行なうべきこととして求められています。

【評価結果】
みなかみ町における生物多様性保全上重要な場所(以下、重要地域)を67ヵ所特定することができました。

②生物の分布予測

地域に生息している可能性のある生物種(植物・鳥・昆虫)を、国の環境調査データなどを基にした全国規模の生物分布情報と地形・気象・土地利用等の情報を用いて、統計学的に予測して評価します。例えば、企業の事業地や活動地の自然の質を定量的に評価することができます。

【評価結果】
重要地域には、みなかみ町における主要な生物種の99.7%の種が分布している可能性があることを明らかにできました。

③重要地域のギャップ分析

生物多様性にとって重要な場所における開発等のリスクを保全担保措置の有無等から評価します。例えば、30by30(GBFで定められた2030年までに陸と海の30%以上を健全な生態系として保全する目標)への貢献を目指して企業が環境省の自然共生サイトの登録に取り組む際に、生物多様性の保全からみて効果的な場所の選定が可能になります。

【評価結果】
みなかみ町の重要地域のうち、低標高域の里地では保全担保措置がとられている面積比率が低く、また開発のリスクが高いなど、課題を特定することができました。

④地下水涵養量、炭素吸収量

生態系からもたらされるサービスのうち、地下水涵養量と炭素吸収量を、土地利用や植生タイプ、気候条件等の情報から100mメッシュ単位で推定、評価します※1。地下水涵養量は降雨のうち土壌中に浸透して地下水となる1年間の水の量であり、炭素吸収量は地上の植生等によって1年間で固定される二酸化炭素重量です。例えば、企業の事業地や活動地がもつ地下水涵養量と炭素吸収量の現状を評価することができ、気候変動や防災減災等の文脈でもこれらの情報の活用が可能になります。

【評価結果】
みなかみ町がもつ地下水涵養量と炭素吸収量を把握することができました。

⑤生態系タイプ区分分析

地域の自然を、「湿地」や「二次林」など少数の生態系タイプに区分し、地域の生態系の多様性を評価します。この結果は、企業の事業地や活動地において、より効果的な生物多様性保全活動に役立てることができます。TNFDでも企業の事業活動による自然への影響を生態系タイプごとに評価することが求められています。

【評価結果】
みなかみ町を生態系タイプごとに区分すると、「自然林」の面積比率が51.5%と、全国的に見てもまとまった規模の生態系として残されていることが明らかになりました。

⑥IUCNの「NbS世界標準」への適合度

生物多様性保全活動が、気候変動や自然災害、人間の健康など、地域の社会課題の解決にも資するものになっているかどうかをIUCNの定める「NbS 世界標準」に沿って評価します。NbSはNature-based Solutions の略で「自然に根ざした解決策」と訳されます。世界では、生物多様性を保全していくと同時に、自然を基盤とした社会課題の解決を目指していくことがネイチャーポジティブの実現に向けて重視されています。この評価により、例えば企業の生物多様性保全活動をNbSの視点から改善していくことが可能となります。

【評価結果】
3者の連携協定に基づき取り組んでいる生物多様性保全活動の現時点での適合度は30/100点(部分的に適合)であり、改善すべき課題を把握することができました。

※1 地下水涵養量と炭素吸収量は、総合地球環境学研究所のEco-DRRプロジェクトによる自然の恵みと災いからとらえる土地利用総合評価(J-ADRES)より算出。

上記の評価手法を用いて2023年度にみなかみ町を舞台に実施した評価結果の詳細は、以下NACS-Jのwebページをご覧ください。

みなかみ町で実施した評価結果と生物多様性保全活動

なお、これら6つの評価手法は、みなかみ町での活動に限らず、日本全国の生物多様性保全活動で活用することができるものになります。
また、この取り組みは、日本の生物多様性の特性と科学性を担保するため、日本を代表する自然科学と社会科学の専門家とともに検討を進めてきたものです。

共同検討してきた専門家の皆さま

石井 実
大阪府立大学名誉教授
土屋 俊幸
東京農工大学名誉教授
中静 透
東北大学名誉教授
西廣 淳
国立研究開発法人国立環境研究所 気候変動適応センター 副センター長
その他、株式会社バイオーム、総合地球環境学研究所、国立環境研究所、群馬県自然環境調査研究会の皆さまにご協力をいただきました。

ネイチャーポジティブ:
人と地球のために、生物多様性の損失に歯止めをかけ、自然を回復させること。COP15でも2030年までにネイチャーポジティブな社会を実現することが国際社会の使命とされ、そのための世界目標が定められた。

みなかみ町、日本自然保護協会、三菱地所の3者連携協定について
2023年2月27日、ネイチャーポジティブの実現を目指して3者で10年間の連携協定を締結。主に以下5つの取り組みを推進しています。
①生物多様性が劣化した人工林を自然林へ転換する活動(約80ha)
②生物多様性豊かな里地里山の保全と再生活動
③ニホンジカの低密度管理の実現
④ NbS(Nature-based Solutions)の実践
⑤生物多様性保全や自然の有する多面的機能の定量的評価への挑戦と活用
プレスリリース:https://www.mec.co.jp/news/detail/2023/03/01_mec230301_minakami

以上

本件に関するお問い合わせ先

みなかみ町 企画課 地域創生係 TEL:0278-25-5032
日本自然保護協会 自然のちから推進部 TEL:03-3553-4101

※本資料の配布先:環境問題研究会、環境記者会、林政記者クラブ

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