2021.08.03(2023.09.22 更新)
名護市辺野古崎沖合の長島における 鍾乳洞の詳細が明らかになる
解説
1.長島鍾乳洞と調査の概要
長島は、沖縄県名護市の辺野古崎の東方沖約800mのサンゴ礁上に位置する小島である(図1)。この長島の海岸部に洞窟があることは、地域住民の一部に知られていた。九州大学の浦田健作 博士、国士舘大学の中井達郎 博士、九州大学大学院の木村颯氏、沖縄県立芸術大学の藤田喜久 博士らによる研究グループは、2018年9〜10月の3日間において、同島の洞窟に関する、①洞窟測量、②洞窟内部の地形および石灰質洞窟生成物(鍾乳石)の観察(記載)を行なった。
本洞窟について、「長島鍾乳洞」と命名した。長島鍾乳洞は、全長約30m、床の高度差4m、空間の高度差約5.5mの小規模な洞窟であり、内部の地形の違いから、洞口部・東洞・北洞の大きく3つに分けられた。東洞は洞口から東方向に直線距離で8mの奥行きがあり、北洞は北方向へ17m続いていて、全体でL字の平面形をしている(図2、3)。
なお、この調査は辺野古・大浦湾の自然環境の特異性に着目している日本自然保護協会の協力・支援で実施した。
2.長島鍾乳洞内部の詳細と今後の展望
今回の調査研究により、長島鍾乳洞の内部形態に関して以下のことが明らかになり、学術的に高い価値を持つことが分かった。
- 多様な石灰質洞窟生成物(鍾乳石)が発達している(写真1)
- 沖縄県で確認されている石灰質洞窟生成物(鍾乳石)の種類の大部分の存在が確認された。
- 世界の研究事例でも記載されていない洞窟生成物―海浜砂礫と石灰質沈殿物による「固結礫塔(こけつれきとう)(写真2)」が発見された。
- 少なくとも国内の洞窟内では確認が稀である「ビーチロック類似層」が確認された。
- 本洞窟は、カルスト作用、波浪作用、生物作用によって形成された洞窟であり、「海岸カルスト」というべき地形である
- 洞口部と北洞主部および東洞は、カルスト作用、波浪作用、生物作用によって形成された。
- 北洞奥部はカルスト作用による地形である。
- 洞口付近の微光帯には光カルスト地形(光鍾乳石と光カレン)が良く発達しており、亜熱帯海岸カルストの特徴と考えられる。
- 保存状態が良好な鍾乳洞である
- 本洞窟は、人里に近い場所にあるにもかかわらず、洞内では人為的影響を受けた痕跡がほとんど認められず、自然の状態をよく保存していることは特筆される。
- 長島周辺(辺野古崎周辺)の海域には、かつて「失われた石灰岩台地(仮称・辺野古カルスト台地)」が存在していた可能性が示唆された
- 本洞の洞窟形態および洞窟生成物の状況から、島の面積をはるかに超える集水域に涵養された地下川洞窟の一部であることが考えられ、長島周辺の(サンゴ礁)海域に「失われた石灰岩台地(仮称・辺野古カルスト台地)」が存在していた可能性が示唆された。本洞窟は、数万年以上に遡る辺野古地域の自然環境変遷の様子が閉じ込められていると考えることができる。
今回の調査研究は、極めて短期間で行われた緊急的な調査である。そのため、長島鍾乳洞の形成プロセスや周辺の琉球石灰岩の分布との関係などさまざまな科学的課題が残されている。しかし、現在のところ、長島周辺の立ち入り規制のために本格的調査の目処はたっておらず、調査再開までの間の鍾乳洞の保存が必要である。一方で、今回の緊急的な調査の結果からも長島鍾乳洞の学術的価値が高いことは明らかであり、天然記念物(文化財保護法)など、制度的な保全策の適用が急務だと考えられる。
3.論文の詳細
浦田健作・中井達郎・木村 颯・藤田喜久, 2021. 沖縄県名護市辺野古沖合の長島における鍾乳洞の地形とその形成. 沖縄地理, (21): 55-71.
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4. 提供可能資料
※▼写真をクリックすると拡大画像をご覧いただけます。 | ||
写真1.洞奥部の鍾乳石(つらら石、石筍、石柱など) | 写真2.固結礫塔 |
※▼図1~図3をクリックすると拡大画像をご覧いただけます。 | ||
図1.長島鍾乳洞・位置図 | 図2.長島鍾乳洞・平面図および横断面図 | 図3.長島鍾乳洞・縦断面図 |
【日本自然保護協会保護部主任 安部真理子のコメント】 長島鍾乳洞に関する科学的知見とそれに基づく保全上の重要性についての指摘を踏まえ、長島鍾乳洞の保全について以下のように考えます。 本調査地は米軍普天間飛行場代替施設建設事業によって周辺地域への立ち入りが制限されていますが、2018 年9 月~ 10 月の公有水面埋立承認撤回によって工事が中断され、立ち入り規制が解かれたことにより調査を行うことができたものです。 |
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本リリースに関するお問合せ
日本自然保護協会 保護部 安部真理子
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