2020.06.26(2020.06.26 更新)
リニア中央新幹線計画の静岡工区について、南アルプスユネスコエコパークの重要性から、大井川の減水や発生土置き場周辺の自然環境の問題などへの真摯な対応をJR東海に求める声明を発表しました
日本自然保護協会は、6月26日、東海旅客株式会社(以下JR東海)によるリニア中央新幹線計画の静岡工区について、大井川の減水や発生土置き場周辺の自然環境の問題などへの真摯な対応を求める声明を発表しました。
同計画の静岡工区箇所はユネスコ(国連教育科学文化機関)の「南アルプスユネスコエコパーク」のエリアを通過します。
ユネスコエコパークは豊かな生態系や生物多様性を保全し、自然に学ぶとともに、文化的にも経済・社会的にも持続可能な発展を目指す世界的な地域のモデルです。
「南アルプスユネスコエコパーク」エリア内のリニア中央新幹線静岡工区着工には地元自治体の同意が必要不可欠であり、JR東海は、地元自治体が懸念している自然環境の問題に対処するべきです。
リニア中央新幹線静岡工区における自然環境の諸問題の対処を求める声明(PDF/1.2MB)
2020年6月26日
リニア中央新幹線静岡工区における自然環境の諸問題の対処を求める声明
公益財団法人 日本自然保護協会
理事長 亀山 章
リニア中央新幹線計画(事業者、東海旅客鉄道株式会社 以下JR東海)は、品川―名古屋間を約40分で移動可能にする新たな高速鉄道建設事業である。日本自然保護協会は自然環境保全の立場から、これまでにJR東海が実施した本計画の環境影響評価に対して問題を指摘し*1,2、またユネスコエコパークとの整合性に対して問題提起をしてきた*3。
南アルプス地域は、2014年にユネスコ(国連教育科学文化機関)人間と生物圏(MAB)計画による「南アルプスユネスコエコパーク」に登録された*4。ユネスコエコパークは世界701地域、国内10地域が登録されており(2020年6月現在)、豊かな生態系や生物多様性を保全し、自然に学ぶとともに、文化的にも経済・社会的にも持続可能な発展を目指す地域のモデルである*5。ユネスコエコパークは核心地域、緩衝地域、移行地域の3つのゾーニングにより、人と自然の共生を目指す自然保護区である*6。ユネスコエコパークは自然を厳格に保護する核心地域だけでなく、緩衝地域と移行地域も含め一体の地域において、自然資産を活かした持続可能な社会を目指すことが求められる*7。
南アルプスユネスコエコパークは3県10市町村から構成されている。リニア中央新幹線は、そのうち山梨県南アルプス市、早川町、長野県大鹿村、静岡県静岡市の核心地域と緩衝地域の地下をトンネルで通過し、山梨県南アルプス市、早川町、長野県大鹿村の移行地域の地上部を通過する計画である*8(図1)。また山梨県早川町、長野県大鹿村、静岡県静岡市の移行地域にはトンネル工事による発生土が搬出される非常口、発生土置き場および仮置きが計画されている*8(図1)。特に、静岡県では県をはじめ各自治体が、大井川流域の減水、発生土置き場周辺の自然環境問題などに関して、懸念を示している*9。特に、町内全域がユネスコエコパークに登録されている川根本町では、大井川の流量が減ることによって、移行地域におけるお茶などの農業への影響に対して、町議会及び町長より懸念が示されている*10。そのため、工事開始の合意がされていない状況である。日本のユネスコエコパークは、地元自治体が主体となり、多様なステークホルダーの参画によって、地域資源の保全管理が確実に行われていくことが求められており*5、リニア中央新幹線静岡工区着工には地元自治体の同意が必要不可欠である。
このようなことからJR東海は、地元自治体の合意を得るためには南アルプスユネスコエコパークのエリア内でリニア中央新幹線を計画していることの重大性を深く認識し、懸念されている様々な自然環境の問題に真摯に対処しなければならない。
【引用文献・補足説明】
▲図1.南アルプスユネスコエコパークのエリア区分とリニア中央新幹線建設計画関連施設の位置図(東海旅客鉄道株式会社「環境影響評価書 山梨県、長野県、静岡県」を参考に南アルプスユネスコエコパーク公式サイトのエリア区分図に加筆、作成した)