2018.04.18(2018.04.18 更新)
「リニア中央新幹線のここが“おかしい”」 シリーズ1 ~そもそも編~
▲表1中央新幹線計画の経緯(JR東海資料より引用)
リニア中央新幹線計画をご存知の方も多いと思います。この計画は古く、昭和48年に全国新幹線鉄道整備法(以下、全幹法)に基づいて基本計画が決定されました。その後は、当時の運輸大臣からの地質調査指示を受けての調査を実施していましたが、急速に動き出すことになったのは、交通政策審議会のもとに中央新幹線小委員会が設置された平成22年3月からです。ここからおよそ1年間で20回の検討会での議論を経て、事業が決定、認可されてます。この間の経緯を上の表1に示します。
さて、リニア中央新幹線は東京から名古屋を経て大阪までを高速鉄道で結ぶ建設計画であり、近年まれに見る巨大開発です。この開発が自然環境に与える影響について、20回にわたる小委員会での議論はどのようになされたのでしょうか。
検討会の専門家は、臨時委員も含めて15名ですが、生物多様性に関わる専門家は1名のみでした。これで十分な検討がなされるとはいいがたい陣容です。この陣容で、伊那谷ルート、木曾谷ルート、南アルプスルートの比較検討を行っています。十分な検討がなされていない証左に、中間段階でのとりまとめに対して環境省は「計画決定前段階での環境影響評価を行うべき」とそもそもの指摘をしています。小委員会では、環境面からのルートの影響評価については、環境アセスメントの調査項目に則って既存情報の有無の整理が行なわれ、「環境への配慮が必要」としていることにとどまり、具体的にどのような配慮が必要かは評価されていないのです。
つまり、構想計画段階での影響評価となっていないということです。事実、小委員会の議事でも、「戦略的アセスメントになっておらず、その前段階」との委員の発言があり、これを受け、「どのルートが最適かの判断はできない」と小委員会の議論の結果が総括されています。ですが、南アルプスルートが最適であるとの答申が出されていることは、つまり、環境面ではルートを判断せずその他の理由でルートが決定されたということです。環境省の意見は無視されたに等しいと言えます。
もう一つ、重要なおかしい点を指摘します。この小委員会が開催されたのは平成22年の3月から平成23年の5月までの期間です。この間、平成23年の3月11日は東日本大震災がおきました。これは言うまでもなく未曽有の大災害です。これまでのインフラの在り方を根本的に見直す必要が認識された災害です。この大震災を受けてからの小委員会は、4回開催されていますが、このうち東日本大震災を受けての中央新幹線に関する議論は、平成23年4月14日に開催された会議、1回のみです。この1回の議論で、東日本大震災での鉄道への被害は軽微であり既存の建設基準が機能しているとの結論がなされています。
しかし、この東日本大震災をひきおこした東北地方太平洋沖地震は、震源が陸域から500キロ離れています。それだけ離れていてもこれだけの災害を引き起こした地震ですから、相当のエネルギーであったことがわかりますが、今後予測されている東海・東南海・南海巨大地震は、震源がはるかに近いところで起きると予測されています。日本の歴史上最大規模の地震が500キロ遠方で発生した場合と、日本列島の近傍もしくは直下で発生する地震とを比較すること自体がナンセンスであり非科学的です。
本来であれば、東日本大震災を受け、同様の地震がより近い距離で発生した場合の想定を時間をかけ、議論を尽くして、安全性の判断をするべきところ、たった1回の議論と非科学的な結論を出した小委員会は、審議会としての機能を果たしていないと言わざるを得ないのです。
リニア中央新幹線計画は、そもそものスタートから、自然環境面でも安全面でも十分な検討もなく動き出してしまった“おかしな”計画なのです。
(保護室 辻村千尋)