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2025.01.02(2025.01.02 更新)

食料・農業・農村基本計画改定に向けた意見交換会を開催しました

報告

専門度:専門度5

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テーマ:里山の保全農業

農政の憲法とも呼ばれる「食料・農業・農村基本法」の改正法が2024年に国会にて成立しました。基本理念に「環境と調和のとれた食料システムの確立」が新たに追加され、あらゆる農業施策において、環境負荷低減を図ると明記したことは、農地の生物多様性保全と持続可能な農業の両立に向け、重要な一歩となった一方で、その実現が課題となっています(※1)。
この課題解決のカギは、改正法に基づく5カ年の具体的な実行計画「食料・農業・農村基本計画」(以下、基本計画)にあり、今まさにこの基本計画の改定が山場を迎えています(9月より検討開始、2025年3月決定予定)。基本法や基本計画は、農地の生物多様性に大きな影響を与える法制度であるにもかかわらず、環境に関わる人に認知されず、この分野の意見が提示・反映されない課題がありました。

そこで、有機農業に関わる皆様と協力して、基本計画改定に向けた意見交換会を企画・開催しました(主催:環境と農業を考える会、日本オーガニック会議)。開催前に、基本計画改定への意見を募集し、26 団体、17 名の個人から149 項目の意見を収集しました。これらの意見も踏まえ、当日は、有機農業・環境・生物多様性に関心を持つ方々、農水省担当者を含む約60 名の皆様と共に、新たに追加された基本理念「環境と調和のとれた食料システムの確立」の実現に向け意見交換しました。

当日の様子は、日本農業新聞(10/3デジタル版、10/4紙面)に掲載されました。

 

当日のプログラムと発表資料

  1. 趣旨説明・意見交換の結果共有
    徳江倫明・藤田卓(環境と農業を考える会/OCJ実行委員)
  2. 基本法改正後のポイント解説
    梅下幸弘(農林水産省 大臣官房政策課 参事官)
  3. 基本計画への提言と意見交換
    ①【環境分野】
    提言発表 7団体
    農林水産省による意見へのコメント 及び 意見交換
    ②【農業分野】
    提言発表 7団体
    農林水産省による意見へのコメント 及び 意見交換
  4. 日本オーガニック会議が果たせる役割
    井村辰二郎・星野智子・藤田卓(環境と農業を考える会/OCJ実行委員)

1.趣旨説明・意見収集の結果共有

(発表資料)趣旨説明(徳江)

農政の憲法とも呼ばれる、基本法に基づく実行計画として策定される今回の基本計画改定の重要性を説明いただきました。

(発表資料)趣旨説明(藤田)

生物多様性の視点から基本法・基本計画の重要性を説明しました。意見交換の素材となる基本計画への提言を事前に収集した結果、環境分野では、生物多様性(55件)、計画の見直し(23件)に関する提言が多かったことを報告しました。

2.基本法改正後のポイント解説

(発表資料)食料・農業・農村基本法の改正について

(参考資料)我が国の食料安全保障をめぐる情勢

基本法改正によって、あらゆる農業施策において、環境負荷低減を図ることが追加されたこと、今後策定される基本計画において、食料自給率等の数値目標を設定し、これらの目標に基づき、毎年PDCAサイクルで計画を見直す新たな取り組みについて説明いただきました。

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3.基本計画への提言と意見交換

①環境分野

環境分野では、藤田も含め環境NGOを中心に7名から4つのテーマについての提言が発表されました(表1)。農林水産省ご担当者との意見交換では、生物多様性保全の目標を設定し、計画の見直しに活用することや、環境負荷低減の1つとして生物多様性保全を明確に位置付け、対策を強化すること等、意見交換しました(詳しくは、表2参照)。

表1.環境分野の提言と発表者、発表資料

提言(テーマ) 発表者(発表団体)※敬称略
環境負荷の中に生物多様性低下を明示し対策へつなげる① 斉藤 光明 (特非)オリザネット
環境負荷の中に生物多様性低下を明示し対策へつなげる② 金井 裕  (特非)ラムサール・ネットワーク日本
施策評価のための生物多様性の目標設定・計画の見直しを明記する① 久保 優 (公財)世界自然保護基金ジャパン
施策評価のための生物多様性の目標設定・計画の見直しを明記する② 田尻 浩伸 (公財)日本野鳥の会
モニタリング体制を構築する① 多賀 洋輝 (株)バイオーム
モニタリング体制を構築する② 藤田 卓 (公財)日本自然保護協会
環境保全に貢献する公的支援を大幅に拡大する 池上 甲一 (特非)西日本アグロエコロジー協会

提言を発表する藤田の写真▲提言を発表する藤田

提言発表者(環境分野)の写真▲提言発表者(環境分野)

表2.環境分野の意見交換の概要

テーマ 意見交換 ●:発表者/会場 ◆:農水省
環境負荷低減 ●基本計画に『環境負荷低減』を入れるとのことだが、環境負荷の内容を具体的に記載できるか。
◆基本計画は具体的なことを書くものではないが、『生物多様性に影響』程度は書く。
●環境負荷を低減する取組みは把握されつつあり、その普及と取組への公的支援を検討すべき。
生物多様性に関する目標設定 ◆気候変動に比べると生物多様性の指標は、地域性もあり難しい。検討したいが、今回は難しいと感じる。実装のためには効率性・実現性の検討が必要。
●実装の課題はその通り。解決策として、①「目標・指標設定の検討」を基本計画に明記する ②民間の生物データ蓄積、モニタリングサイト1000里地調査など既存の評価手法の活用、多面支払交付金のモニタリング(全国3477団体/年間)の改良 などが考えられる。官民で一緒に考えたい。
数値目標設定と計画見直しへの反映 ●食糧安全保障以外の事項の目標・計画の見直しへの反映(PDCAサイクル)を基本計画に記載するか。
◆その予定。食料・農業・農村に関する全項目で検討する。

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②農業分野

農業分野では、7つのテーマについて提言が発表され(表3)、提言に対する農林水産省ご担当者との意見交換では、基本計画へ反映すべき事項について意見交換しました(詳しくは、表4参照)。

▲魚住氏

▲田中氏

表3.農業分野の提言と発表者

提言(テーマ) 発表者(発表団体)※敬称略
森川里海のつながり 魚住 道郎 日本有機農業研究会
ゲノム編集と有機農業 外園 信吾 (特非)有機農業推進協会
水田の維持と有機化など 安田 節子 食政策センター・ビジョン21
生物多様性・地球温暖化と有機稲作 館野 廣幸 (特非)民間稲作研究所
学校給食・消費者視点 田中 真希 ママ♡エンジェルスTEAM2600万
有機畜産について 大山 利男 HOBA北海道オーガニックビーフ振興協会
持続可能な農業施策目標の設定とPDCAの実現 徳江 倫明 環境と農業を考える会
表4.農業分野の意見交換の概要

テーマ 意見交換 ●:発表者/会場 ◆:農水省
基本計画の記載事項 ●改正法では有機農業・生物多様性が入らないが、付帯決議で明記された。基本計画で明記すべきである。
◆基本計画に、有機農業・生物多様性保全を入れる予定。
学校給食等 ●有機栽培米を学校給食100%導入など、数値目標を計画に明記すべきである。
◆食育の点でも重要と考えるが、数値目標を設定する前に事例を増やしていきたい。
●市町村担当者から、数値目標があると実施しやすいとの声がある。ぜひ検討いただきたい。
数値目標設定と計画見直しへの反映 ●官民による円卓会議のような場を設け、数値目標の設定の段階から関係者全員で検討し、その目標の検証も行うことが、計画の実効性を高める。ぜひ検討を

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4.日本オーガニック会議が果たせる役割

これらの意見交換会をふまえ、環境と農業を考える会から3名が今後果たせる役割についてコメントを述べました。

井村辰二郎氏(OCJ実行委員)

「本日のような意見交換を通じ、5年毎の計画改訂の際により良い計画につなげたい。オーガニック会議で意見をまとめ、建設的に進めたい。」

星野智子氏(環境と農業を考える会)

「農水省・有機農業団体・環境NGOが一堂に会し、円卓で話し合う重要性を再認識した。様々な主体と対話を重ね、現場の声も組み込みながら相乗効果を上げたい。」

藤田卓(環境と農業を考える会/NACSJ)

(発表資料)日本オーガニック会議が果たせる役割(藤田)

「EU離脱後の英国農政の方針は「公的資金は公共財へ」とされ、生物多様性保全が農政の主要なの目的の1つとされる等、EU各国において農業環境政策が強力に推進されたのは、有機・環境NGOなど多数の民間団体の成果とされている(和泉2019))このような動きを日本のNGOが協力して作っていく必要がある。」

▲井村氏よりコメント

▲徳江氏より閉会挨拶

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最後に

最後に、環境と農業を考える会の徳江倫明氏より「基本計画が決定する来年3月まで、あと数回は民間との意見交換を続け、基本計画を検討する機会を検討してほしい」と挨拶があり、意見交換会は終了となりました。

基本計画改定への意見を募集して収集した、26 団体、17 名の個人から149 項目の意見は、10/5官民連携創出会議において、農林水産省に提出しました。

食料・農業・農村基本計画改定への意見一覧(26 団体17 名の個人149 項目の意見)

▲基本計画への提言149 項目を農林水産省西審議官へ提出
(10/5官民連携創出会議にて)

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本意見交換会の直前に公表された「モニタリングサイト1000里地調査とりまとめ報告書」では、里地里山の中でも特に、農地などの開けた環境での生物多様性の危機が明らかとなりました(※2)。食料・農業・農村基本計画と関連施策は、私たちの身近な食料の問題に加え、農業が広く行われる里地里山の生態系の未来を決定する重要なものです。
日本自然保護協会では基本計画とその関連施策に環境保全と生物多様性保全が組み込まれ、農地における生物多様性が回復基調に導かれるよう提言等(※3※4※5)のロビー活動やシンポジウム開催(※6※7)など、他のNGOや団体と協力して働きかけていきますので、ぜひ多くの方に関心を持っていただければ幸いです。

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関連記事

※1 農政の憲法「食料・農業・農村基本法」に生物多様性の保全が付帯決議として追加(2024年6月)

※2 モニタリングサイト1000里地調査とりまとめ報告書リリース

※3(リンク先準備中)「食料・農業・農村基本法計画」改正への提言を提出(2024年9月)

※4 食料・農業・農村基本法改正への提言を提出(2024年4月)

※5「食料・農業・農村基本法の検証・見直しに関する意見」を提出(2023年7月)

※6 農業基本法に環境保全を!「農業基本法改正と多面的機能を考える集い」を開催(2023年1月)

※7「食料・農業・農村基本法の検証・見直しに関する意見」を提出(2023年7月)

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