2024.12.24(2024.12.27 更新)
奄美のマングース根絶と 外来哺乳類対策
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フイリマングース(写真:環境省奄美群島国立公園管理事務所)。中国南部から中東に原産する小型食肉類。主に19世紀の後半、西インド諸島、ハワイ諸島などに外来ネズミ対策として導入され、在来種の減少・絶滅を引き起こした。
テーマ:生息環境保全外来種
フィールド:奄美大島
2024年9月、外来マングースの奄美大島(鹿児島県)からの根絶が発表されました※ 。四半世紀にわたった防除事業についてご紹介いただきます。
※報道発表「奄美大島における特定外来生物フイリマングースの根絶の宣言について」 (別ウィンドウで開きます)
奄美のマングース根絶と 外来哺乳類対策
石井信夫
(奄美大島におけるフイリマングース防除事業検討会座長・東京女子大学名誉教授)
マングース対策の開始まで
2024年9月3日、環境省は特定外来生物フイリマングース(以下マングース)の奄美大島(712km2)からの根絶を宣言しました。人が暮らすこれだけ大面積の島で根絶が達成されたことは、世界的にも画期的な成果です。
30頭ほどのマングースがハブ対策の目的で奄美大島に持ち込まれたのは1979年とされています。個体数増加と分布拡大に伴い、農作物や家禽の被害が問題になり、1993年度から有害鳥獣としての捕獲が始まりました。
1996年度には環境庁(当時)がマングースの生息状況の把握や対策の検討などを目的とした調査事業を立ち上げました。調査の結果、1999年度時点で、島の約4割まで広がっていること、個体数は5000から1万頭と推定されたこと、在来の哺乳類、鳥類、爬虫両生類の捕食が他の調査も含めて確認されたことなどから、一刻も早い対策の必要性と捕獲による根絶の可能性が示唆され、2000年度から防除事業が始まりました。この事業では短期間に生息数を大きく低減させ、次に根絶確認まで長期にわたって捕獲を継続するというプロセスが想定されていましたが、その手法や体制は明確になっていませんでした。
具体的な対策の試行錯誤
事業開始当初は島の人たちの協力を得て、報奨金制度により数年間で相当数のマングースが捕獲され(図1)、生息密度は低下しました。しかし報奨金制度では、アクセスが難しい場所や生息密度が低い場所の作業に見合う収入が得られないため、捕獲努力量(わなごとの設置日数の合計)は頭打ちになりました。その一方で分布拡大は続き、根絶を目指すには捕獲努力量を格段に増大させることと、わなの計画的配置が必要であることが早々に判明しました。
また、それまで使われていた生け捕り式のカゴわな(マングース以外の動物が捕まった場合は放逐できる)は設置や管理に手間がかかり、捕獲努力量が制限されました。そのため2003年度からは、到達しにくい場所で軽量な捕殺式の筒わな(捕まった動物が直ちに死亡するので毎日の見回りが不要)を用いた作業を行う常勤専従者の雇用が始まりました。
図1. マングースの捕獲数と捕獲努力量の推移。マングースの捕獲数が少なくなっても高い捕獲努力量が維持された。(環境省報道発表資料より)
そして、2005年の外来生物法施行を契機とした予算の大幅な増額と常勤専従者チーム(奄美マングースバスターズ)の結成は、マングースの分布域全体にわたる捕獲圧の投入を可能にしました。ただ、捕殺式の筒わなの採用によって捕獲努力量は増大できたものの、マングース以外の動物(在来ネズミ類や鳥類など)の錯誤捕獲(混獲)が生じました。そこで、在来種の減少をもたらすマングースの捕食影響に比べると、混獲の影響は小さいであろうという考え方を前提として、それでも混獲死をできるだけ防止するための筒わなの改良、わな設置地域や季節を考慮した緻密な捕獲作業が行われました。その結果、マングースの減少、分布範囲の縮小・分断化が進み、かつてマングースの高密度生息域から姿を消していたアマミノクロウサギ、在来ネズミ類、鳥類、カエル類などが顕著な回復傾向を示しています(図2)。
図2. 在来鳥獣類の自動カメラによる撮影頻度の推移。ケナガネズミは樹上性のためカメラに写りにくく回復傾向は不明瞭(環境省報道発表資料より)
2005年度からは探索犬導入の検討も始まりました。初めはマングースの生息痕跡を発見する探索犬(糞探索犬)が想定されていましたが、マングースを追い詰めてハンドラー(犬の運用担当者)が捕まえるという生体探索犬を用いた最初の事例が2008年に実現し、残存マングースを1頭ずつ排除する手法が確立されました。
根絶の確認までと成功のポイント
2018年4月のオス1頭の捕獲以降、わな、探索犬、自動カメラによるモニタリングが6年間にわたって続けられましたが、確認はありませんでした。しかし、マングースの残存可能性を否定できないため、数理モデルを用いて根絶確率が算出され、2023年度末時点での根絶確率は極めて高い(約99%)との推定に基づいて根絶宣言が行われました。
この事業の成功によって、大面積の島からもマングースを根絶できることが証明され、また、在来種の減少・絶滅を回避できたことが重要です。成功の要因には、1)事業の管理体制が一つにまとまっていたこと、2)マングースの効率的な捕獲手法が試行錯誤を経て確立されたこと、3)関連データが収集され、対策の科学的評価が行われたこと、そして4)必要な予算が確保されていたことなどがあります。また、地道な捕獲作業に携わったバスターズをはじめ、行政の担当者、研究者など関係者全員が強い使命感をもち、それぞれの立場で努力したことも大きいでしょう。
他の外来哺乳類問題
現在、マングースの侵入と同時期にヤンバルクイナの生息範囲が急激に縮小した沖縄島北部でも、奄美大島と同様の手法でマングースの排除が進んでいます。その結果、ヤンバルクイナ、在来ネズミ類、カエル類などの回復傾向がみられています。ただし、沖縄島中南部には多くのマングースが生息し、常に北部への侵入リスクがあるため、根絶ではなく北部からの完全排除が当面の目標となっていて、目標達成後のモニタリングが不可欠です。
マングース以外の外来種対策も重要です。外来哺乳類としては、奄美大島と沖縄島北部で、在来鳥獣への捕食影響が大きいイエネコについても野外からの排除と適切な飼育の推進を中心とした対策事業が実施されています。このほか、奄美大島と沖縄島北部ともに希少植物を採食する野生化ヤギも問題になっていて、沖縄島北部では対策が始まっています。
2021年、奄美大島と沖縄島北部は、世界自然遺産に登録されました。世界遺産委員会における審議にあたっては、外来種対策が行われていることも重視されました。しかし、外来種対策の実施には長い年月と相応の費用がかかります。対策の過程で犠牲となる多くの生きもののことも忘れてはならないでしょう。今後、そうした事態を繰り返さないためにも、早期対応と新たな外来種問題の発生防止が強く求められます。