2024.12.24(2024.12.27 更新)
上関で底生生物調査とシンポジウムを行いました
報告
専門度:
底生生物調査の様子
テーマ:自然環境調査
フィールド:海岸
希少生物ナメクジウオ類の調査
山口県上関町の海は「奇跡の海」と呼ばれています。潮流と複雑な地形、手つかずの自然海岸によって、豊かな藻場や希少生物の生息地が保たれています。NACS-Jでは、会員からのご支援や地域の方々の協力のもと、2019~2022年および2024年に年1回、合計5回にわたり、上関町内の異なる海域で希少生物ナメクジウオ類の調査を実施しました。生息地の調査は原子力発電所建設計画がある長島の田ノ浦を中心として5地点を選定し、そのうち4地点で生息を確認することができました。また、好む底質を調べた結果、上関の海にすむナメクジウオ類は、貝・ゴカイ・甲殻類などの生物の破片が混じった粗めの礫を好み、泥やシルトが堆積する海底からは出現しないことが分かりました(写真1)。
写真1.ナメクジウオ類が生息する底質とナメクジウオ類。フジツボや貝の破片が見える。
中間貯蔵施設建設予定地で貝類の調査
1980年代に計画された原子力発電所建設計画は、上関のまちを分断してきました。近年では、分断を乗り越え、賛成派・反対派が共に地域を盛り上げようとするまちづくりの機運が高まっていましたが、2023年、先の計画とは別に、原子力発電所建設予定地内に放射性廃棄物の中間貯蔵施設を建設する計画が公表され、新たな争点となっています。
この計画の最大の課題は、建設に伴う生態系への影響が明らかにされていないことです。NACS-Jは2024年9月に、施設建設による埋め立てが予想される海域で、地域の自然保護に長年携わる「上関の自然を守る会」と合同で予備的な調査を行い、多様な底質を示す複数種の貝類を発見しました(写真2)。10月14日には、同団体との共催で、建設が地域の生態系に与える影響について考えるシンポジウムを開催し、調査結果を公表しました。
ナメクジウオ類は世界中で激減しており、その原因の一つに、生息に適した環境の減少があげられています。ナメクジウオ類の生息環境は、貝やゴカイなどの底生生物の存在があって、はじめて成り立ちます。これらの底生生物は有機物を分解し、タイやアジの仲間、ヒラメなど魚類の餌となり、漁業や生態系の保全にも貢献します。建設計画は、これらの貴重な生態系や生態系サービスに不可逆的な影響を及ぼす可能性があります。
今後、底生生物の調査を継続するとともに、今回の計画が海域の生態系に与える影響を調査・検証し、科学的なデータに基づく衡平な議論を広げていきます。
写真2. 中間貯蔵施設建設予定地で見つかった貝類(撮影:川上晃生氏)
担当者から一言
リポーター
生物多様性保全部 中野 恵
9月の調査はこれまでにない殺人的な暑さでした。気候の変化により、フィールド調査も厳しさを増しそうです。