2024.12.24(2024.12.27 更新)
農地の生物多様性の未来を決める基本計画へ提言
報告
専門度:
2024年10月3日の意見交換会の様子
テーマ:農業
フィールド:農地、里山
農政の憲法とも呼ばれる「食料・農業・農村基本法」の改正法が2024年に成立しました。あらゆる農業施策において、環境負荷低減を図ると明記した改定は、農地の生物多様性保全と持続可能な農業の両立に向け、重要な一歩となりました。その一方で、条文には生物多様性という言葉は1つも記載がなく対策が不十分となる恐れがあります。また、今回の特集で紹介したモニタリングサイト1000里地調査の結果から、環境負荷の1つ「農地の生物多様性の低下」が深刻であることが明らかとなり、その対策が課題となっています。
この課題解決のカギは、改正法に基づく5カ年の具体的な実行計画「食料・農業・農村基本計画」(以下、基本計画)にあり、今まさにこの基本計画の改定が山場を迎えています(2024年9月から専門委員会が開始され、2025年3月に決定予定)。そこでNACSJ-は、この改定に対して、生物多様性保全の方針や目標、計画の見直しのためのPDCA(計画・実行・評価・改善)サイクルの実施を明記することなど、5つの提言を作成し、9月27日に農水省に提出しました(表1)。
表1.「食料・農業・農村基本計画」改正への提言 (2024年9月27日にNACS-J提出)
- 基本計画において「環境への負荷」(第3 条ほか)の例として、生物多様性の低下等を含むこと及び、関連する法制度における対策・改善を明記すること
- 「環境と調和のとれた食料システムの確立」実現のため、基本計画には生物多様性保全の達成目標を設定すること。目標達成のために計画の見直しと改善を明記しておくこと
- 施策の有効性を客観的に評価するため、農地の生物多様性のモニタリングと評価を実施する体制を整備すること
- 環境直接支払い等、環境保全に貢献する農業への公的支援の予算を大幅に拡充すること
- 補助金支援条件として環境負荷低減取組を義務づける際には、客観的な評価基準、チェック機能、罰則規定を設けること
NGO と農水省との意見交換会を開催
基本法や基本計画は、農地の生物多様性に大きな影響を与える法制度であるにもかかわらず、環境に関わる人に認知されず、この分野の意見が提示・反映されない課題がありました。そこで、10月3日、有機農業に関わる皆様と協力して、基本計画改定に向けた意見交換会を企画・開催しました(主催:環境と農業を考える会、日本オーガニック会議)。開催前に、基本計画改定への意見を募集し、26 団体、17 名の個人から149項目の意見を収集しました。これらの意見も踏まえ、当日は、有機農業および持続可能な農業や環境、生物多様性に関心を持つ方々、農水省担当者を含む約60名の皆様と共に、新たに追加された基本理念「環境と調和のとれた食料システムの確立」の実現に向け意見交換しました。
NACS-Jを始め多くのNGO団体から、生物多様性保全に関する方針や目標を基本計画に明記すべきとの提案や、官民による円卓会議を設け、数値目標の設定の段階から関係者全員で検討し、その目標の検証を行うことも提案されました。農水省担当者からは基本計画に生物多様性について記載する予定であるが、生物多様性の目標を計画に盛り込むことは難しいなどの回答がありました。
NACS-Jは農地の生物多様性の劣化を食い止め回復に導くため、今後とも多くの方々と連携し働きかけていきます。この活動へのご支援をお願いします。
【ご寄付のお願い】
日本自然保護協会では、里山の生きものたちの減少の原因究明に努め、保全活動や政策提言を行っています。 未来に、里山の生きものたちを守り繋ぐために、皆さまのご支援をお願いいたします。
担当者から一言
リポーター 生物多様性保全部 藤田 卓 農業環境政策の先進地域EUで農業政策の主な目的の1つに生物多様性保全が位置付けられたことは、多数の民間団体の成果とされています。日本のNGOもがんばります。