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2024.10.27(2024.10.31 更新)

【配布資料】今日から始める自然観察「暮らしに樹木を活かす」

観察ノウハウ

専門度:専門度2

ページ画像

テーマ:自然観察ツール

フィールド:公園学校森林街路

【今日から始める自然観察】暮らし樹木を活かす(PDF/3.1MB)
<会報『自然保護』No.602より転載>
このページは、筆者の方に教育用のコピー配布をご了解いただいております(商用利用不可・抜粋利用不可)。ダウンロードして、自然観察などでご活用ください。

日本は豊かな森林に恵まれ、昔からいろいろな樹木が、さまざまな用途で利用されてきました。木材としてだけでなく、葉や実も樹皮に至るまで大活躍! 人の暮らしと関わりの深い樹木はたくさんありますが、その中の一部、7種の樹木と活用例をご紹介します。

林 将之(樹木図鑑作家)


個性的な用途を持つ樹木たち

虫除け・医療用・工業用になる樟脳

クスノキ(樟):クスノキ科 常緑高木

日本で最も太くなる木で、大木も多い。葉は明るい緑色で、映画『となりのトトロ』に出てくる御神木のように、枝を力強く広げてモコモコした樹冠になる。葉をちぎるとツンとしたいい香りがある。これは樟脳(カンフル)と呼ばれる成分を含むため。樟脳は防虫剤をはじめ、医療用のカンフル剤、プラスチック代用のセルロイド(合成樹脂)の材料としても利用された。クスノキの本来の自生地は九州だが、関東以南で江戸〜昭和初期に植林が行われ、温かい低山に野生化している。また、神社や公園、街路、学校などにも植えられている。

①クスノキチップの袋詰め。クスノキの木材チップや刻んだ枝葉を、布や紙に包むことで、簡易的な芳香剤兼虫除けを作ることもできる。
②クスノキの木材で筆者が作ったレンジ棚。クスノキ材は樟脳のよい香りが長く残り、防虫効果もあるため、タンス材にも使われる。
③クスノキの木材は仏像にもよく使われる。東隆寺(山口県宇部市)の木造毘沙門天立像(写真提供:宇部市教育委員会)

葉がヤスリになる

ムクノキ(椋)アサ科落葉高木葉の表面にガラス質の微細な毛があり、触ると強くざらつく。乾燥した枯れ葉は紙ヤスリの代用になり、木工職人が木工品の仕上げ磨きに使う。木はケヤキに似た姿で、都市部の道端や川辺にもよく生える。

落ち葉は甘い香り

カツラ(桂)カツラ科落葉高木丸い葉がかわいらしく、秋は黄葉する。落ち葉は乾いた直後にカラメルのような甘い香りを放ち、粉にしてお香(抹香)に利用される。木材は碁盤や将棋盤に使われる。(右写真:香炉でたかれる抹香/福島県只見町・新國勇)

ロウソクになる実

ハゼノキ(櫨)ウルシ科落葉小高木秋のまっ赤な紅葉が鮮やかで、大豆サイズの茶色い果実がなる。果実をつぶして蒸すとロウが採れ、煙の少ない和ロウソクの原料になる。枝葉や果実の汁が肌に付くとかぶれるので注意が必要だ。

巨大な葉で食べ物を包む

ホオノキ(朴)モクレン科落葉高木葉(朴葉)は日本最大級で、食べ物を包むのに使われる。朴葉寿司や朴葉餅、肉や野菜を焼く朴葉焼きが岐阜や長野の郷土料理として有名。木材は緑を帯びた色で柔らかく、彫刻材やまな板に使われる。

ハーブのような香りが魅力

クロモジ(黒文字)クスノキ科落葉低木日本有数の香りがよい木。緑色の枝に黒い模様が入り、枝葉を折るとハーブのような香り。昔からようかんの楊枝にも使われるほか、近年はお茶、化粧水、シャンプー、入浴剤などへの利用が増えている。

若い実は石けんにも

エゴノキ(えごの木)エゴノキ科落葉小高木夏にぶら下がる薄緑色のサクランボ状の若い果実は、サポニンを含むため石けんのように使えるほか、有毒なので昔は川に汁を流して浮いた魚を捕まえた(現在は禁止)。木材はお椀などに使われる。

利活用を含めた知識で樹木をもっと身近に感じよう

人は木がないと生きていけません。木材、燃料、食料、薬、紙……毎日の暮らしでさまざまな恩恵を受けているので、里山が生活の場であった時代の人々は、多くの木を知っていたはずです。都市中心の現代はどうでしょう? 木を知らない人ばかりになり、木が邪魔者扱いされることも増えました。こんな時代こそ、木を利用する体験と知識が求められていると思います。

ここでは、個性的な用途のある樹木を紹介しました。クスノキから採れる樟脳は、防虫剤をはじめ多様な用途があり、戦前は日本の主要輸出品の一つでした。ハゼノキのろうそくも、電気のない時代は生活必需品で、西日本各地で栽培されていました。ホオノキやカキノキ、アカメガシワのような大きな葉は、食べ物を盛る器や包みとして日々利用されていたのでしょう。

現代日本では、防虫剤は合成化学物質に、ろうそくは電気や化石燃料に、葉の包みはラップやホイルに取って代わりました。しかし、ホオノキなどの葉で包んだ餅は、実は天然の殺菌作用があるので、ラップで包んだ餅より日もちすることが多いのです。植物を暮らしの中で利用するのは手間がかかりますが、ポイ捨てしても土に返るわけで、持続可能で環境にも人体にもよく、災害時や緊急時にも役に立つでしょう。

一方で、図鑑の充実化やIT化により、植物を調べる術や情報量は格段に進歩しました。昔に比べると植物に関する"初歩的な間違い"は減ったと感じます。木を見分ける上では、葉の形が基本で、葉の付き方、手触り(毛の有無)、香り、生育環境を知ることも重要なので、ぜひ皆さんも五感をフル活用して観察してみてください。


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