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2024.08.26(2024.09.18 更新)

【配布資料】今日から始める自然観察「吸血する尺取虫!? ヤマビルを知ろう」

観察ノウハウ

専門度:専門度2

今日からはじめる自然観察ページの画像

テーマ:自然観察ツール

フィールド:山林森林

【今日から始める自然観察】吸血する尺取虫!? ヤマビルを知ろう(PDF/1.8MB)
<会報『自然保護』No.601より転載>
このページは、筆者の方に教育用のコピー配布をご了解いただいております(商用利用不可・抜粋利用不可)。ダウンロードして、自然観察などでご活用ください。

ハイキングやキャンプ、渓流釣りで山に出かけた人や、山の中で道路工事や山林作業をする人が、ヤマビルに吸血されることが多くなりました。最近では、首都圏近郊、里山近くの住宅地周辺でもヤマビルに遭遇します。身近な生きものになってきたヤマビルについて知ってみましょう!

谷 重和(ヤマビル研究会代表)


水にすむヒルと陸にすむヒル

ヒルはミミズと同じ仲間の環形動物に属します。国内におけるヒルの仲間はおよそ60種ほどが知られ、そのうちの多くは池沼や河川に生息するシマイシビル(肉食性で、水生昆虫などを食べるが吸血はしない)などの淡水性です。1960年代に水田や小川に普通に見られた吸血性のチスイビル(環形動物門、ヒル網、吻無蛭目、ヒルド科)は最近ではほとんど見られなくなりました。

一方、陸上に生息するヒルの種類は少なく、国内において陸上で吸血するヒルは唯一、ヤマビル(環形動物門、ヒル網、顎蛭目、ヤマビル科、和名:ニホンヤマビル)1種のみです。

沖縄県の石垣島や西表島には分類学的にヤマビルの1亜種とされるサキシマヤマビルが、北硫黄島にはイオウジマヤマビルが生息している。

ヤマビルのイラスト画像体長は通常3~4cm、伸びると5~7cmにもなる。強い伸縮性があり、引っ張ってもちぎれない。体の色は赤褐色から茶褐色で、背面に3本の黒い筋が縦に走るのが特徴。

チスイビル のイラスト画像体長3~4cm、背面は緑と灰色で数本の縦線がある。水田や沼地に生息し、人畜に張り付いて吸血するが、現在はほとんど見られなくなったようだ。農薬や環境変化の影響と考えられる。

コウガイビルの画像体長10~30cmにもなり頭部がハンマー状。住宅地の石垣や庭などによく見られ、雨の多い季節に異常に発生して騒ぎになることもあるが、本種には吸血性はない。なお、本種はヒルの仲間とよく間違われるが、正しくはプラナリアの仲間の扁形動物に属す。

ヒルの中でも、ヤマビルは動物の血を餌とする生きものです。通常は枯葉の下や草、石の下でじっとしていますが、動物が近づいてくると動物の体温や動物の出す炭酸ガス、歩行時の空気の流れや振動を感じ取り、動物の足やヒトの靴や衣服に付着し吸血します。ただ動物に出会えなくても長期間生きられるようです。飼育して観察したところ、何カ月も吸血せず生きていました。

ヤマビルの画像ヤマビル。血を吸って少し太った状態。

ヤマビルは前端の吸盤の中にある唇を前後に動かしながら細かい歯で動物の皮膚を切り裂いて吸血します。ヤマビルの顎の歯と歯の間にある唾液腺からヒルジンを分泌します。血液を凝固させない作用だけでなく、痛みをなくす作用などがあり、吸血されていてもほとんど気付きません。ヤマビルは雌雄同体ですが、産卵のためには他の個体との交接が必要で、相互交接する姿がよく見られます。

ヤマビルとの遭遇の増加

ヤマビルは全国的に生息分布を拡大しています。湿度が高くジメジメした場所、野生動物が出入りできる場所にはヤマビルも多く生息しています。林業の衰退や薪炭材の利用減少で木が伐採されなくなった森には、光が入らず、下草は生えず、花・実は育ちません。カモシカ、ニホンジカ、イノシシ、サルなどの動物が、餌を求め里山に下りてくるようになりました。

また、温暖化で冬の降雪期間が短くなり、積雪量も少なくなって冬季のシカ、イノシシなどの死亡率が低下しました。加えて、長期間の狩猟禁止の保護策や、耕作放棄地の拡大などが原因で野生動物が増加しました。それに伴い、これらに付いていたヤマビルも人々の暮らすエリアにまで分布を拡げたのではないかと推察されます。

もしヒルに出会ったら、ヒルの種類や、その場所の環境、体や行動を観察してみてください。

頭はどっち?

ヤマビルに手足はな く、体の前端と後端に各1個の吸盤を持ち、後端の吸盤で体を支えながら尺取虫のように歩く。歩くスピードは1分間に1m前後と意外に速い。

ヤマビルの画像

ヤマビルの裏側の画像前の吸盤の中にある逆Y字型をした唇を前後に動かしながら、顎歯と呼ばれる細かい歯で動物の皮膚を切り裂いて吸血する。

卵で生まれるの?

ヤマビルは吸血してしばらく経つと、体がくびれ、泡を出してその泡の中に、卵塊を地面に数個産む。その約1カ月後、1つの卵塊から5~10匹の仔ビル(5~6mm)が生まれる。仔ビルは吸血後に脱皮を繰り返して大きくなり、2~3年は生きると言われている。春から秋にかけて活動し、冬は地面や石の下にいるが、寒さには強く、室内試験では-2°Cで一晩放置しても元気だった。

画像

交接しようとしているところ

卵のイラスト画像

出合いやすい場所は?

ヤマビルを見つけたければ、ジメジメした場所で歩き回ったり、息を吹きかけたりすると出てくる。ヤマビルも暑さが苦手。雨が少なく晴天が続いた日に、日陰にいると遭遇が増える。写真のような日陰のベンチでつい座りたくなるが、ヤマビルが好む場所でもある。

森の中のベンチの画像

血を吸われたくなかったら

衣類の隙間をふさぐことが重要。吸血被害のほとんどが足なので、靴下をはいてズボンの裾を中に入れる。首にタオルなどを巻いておくと良い。また、白やグレーなどの明るめの服を着ると、付着したヤマビルを早く発見することができる。手袋や首のタオル、ズボン裾などに虫よけや塩水をスプレーするのも効果的。

ヤマビルに吸血されたら、まずはヤマビルをはがす。吸血中でも歯は皮膚に食い込んでいないので、はがしてもOK。虫よけや塩水をスプレーするとすぐに取れる。大事なことはすぐに患部を指でつまみ、唾液成分を押し出すように洗い流すこと。この処置で腫れや痒みが軽くなる。人によっては腫れや痒みが数週間続くこともあるが、長引く場合は医師に相談しよう。

靴下の中にズボンの裾を入れている写真


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