2024.01.16(2024.01.17 更新)
「グローバルリスクレポート2024」が公表されました
解説
専門度:
テーマ:国際
世界経済フォーラム(WEF)では、毎年1月に開催するダボス会議に先立ち「グローバルリスクレポート」を約20年にわたって毎年発表しています。
今回、2024年1月12日に「グローバルリスクレポート2024」が発表されました。
このレポートは、世界の1500人近くの専門家による洞察を集約したグローバルリスク認識調査(GRPS:the Global Risks Perception Survey)をもとにしています。
今回のレポートで発表された、この先2年間(短期間)でのリスクTOP10と、今後10年間(長期間)リスクTOP10が下のグラフです(図1)。
図1.今後短期間(先2年間)と長期間(先10年間)におけるグローバルリスク順位
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昨年のレポートと比べると、紫色で示されたテクノロジーに関するリスクが急浮上しています。特に、今後先2年間のランキングにおいて1位になった「誤った情報とニセ情報(Misinformation and disinformation)」は、今後近い未来に予定されている主要な国における選挙などを前に、世論に影響しうる虚偽の情報の拡散を懸念したもののようです。
緑色で記された環境に関するリスクは、2016-2017年頃から継続的にリスクの上位に複数課題が占めるようになっており(図2、赤点線より右側)、今回のレポートでも同様に*、今後先2年間・10年間両方のTOP10に位置付けられています。
図2.2007-2020年までのグローバルリスクの変遷
(グローバルリスクレポート2020より)
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*グローバルリスクは、時代ごとに新しいリスクが発生するなど常に変化し、また2020年までのレポートと評価基準なども異なるため、単純比較はできないことにご注意ください。
特に今回のレポートの中では、「3℃の世界」という特集記事で、「異常気象」について焦点を当てて紹介。年々進む地球温暖化に対して、今後10年以内に、地球に不可逆的な影響を起こしうる閾値を超える可能性を指摘しています。さらに、異常気象は、生態系への影響や自然資源の枯渇、地球システムへの不可逆的な変化など、様々な環境リスクに派生することも書かれています。
「生物多様性の損失」は、今後10年間のリスクとして、昨年と同様3位に位置付けられ(昨年2023年は4位)、非常に重要な課題となっています。
興味深いこととして、生物多様性に関する諸問題については、専門家間でも年代によってリスクの認識が異なることを紹介していました(図3)。
図3.今後短期間(先2年間)における、世代間ごとのグローバルリスクTOP10
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若い専門家は、この先2年間という短い期間でも、生物多様性に関する諸問題を含む環境関連のリスクを高い緊急性としてランク付けしていますが、他の世代ではそうはなっていません。レポートの中では、こうした意見の不一致が、問題解決に向けた措置のタイミングを逃しうることにならないよう指摘していました。
このレポートでは、他にも、市民セクターや政府関係者などさまざまなセクター間での問題意識の違いや、各リスクが相互に関わり合っていること、個別のリスクに対し各国家間での対策の状況なども紹介しています。
全ページにおいて問題を直視しなければならないレポートで、読むには勇気がいりますが、今後の世界的なリスクを適切に把握し対応していくためにも、非常に重要なレポートといえます。
引き続き、生物多様性の損失や自然資源の枯渇は、世界的にも深刻なリスクであることに変わりはなく、日本自然保護協会は自然保護NGOとして、今後も持続的な社会の構築のために邁進していければと思います。
(自然のちから推進部 後藤、保護・教育部 道家)