2023.12.04(2023.12.04 更新)
【連載】遺贈寄付を知ろう「第17回:再婚の妻が死去、前妻とその子どもとは疎遠、最後まで自宅で過ごしたい。そんな自宅不動産のゆくえとして選んだ『遺贈寄付』」
読み物
専門度:
フィールド:活動支援寄付
NACS-Jではここ数年、遺贈寄付に関するご相談が寄せられることが多くなってきました。まだ元気なうちに人生のエンディングの準備を進め、遺産の活かし方をご自身で決める方が増えているようです。
遺贈寄付とは、人生の最後に財産が残った時に、その一部を公益団体などへ寄付をすること。自分の想いを未来に託し、自身亡き後に財産を社会に有効に活かす方法の一つとして、注目が高まっています。ご相談の事例から、お悩みや不安の解決につながるヒントをご紹介します。
【連載】遺贈寄付を知ろう ~ あなたの想いと自然を未来につなげるために
第17回:再婚の妻が死去、前妻とその子どもとは疎遠、最後まで自宅で過ごしたい。そんな自宅不動産のゆくえとして選んだ「遺贈寄付」。
新型コロナウィルスの感染が急激に拡大していた頃、ある男性からこんなご相談を受けました。
不動産の寄付をお受けするには、金融資産の寄付と違っていくつか注意しなければならない点があるため、もう少しくわしく話をお聞きしました。
どうやら、ご家族との関係や事情が少々複雑なようです。この場合、たとえ前妻のお子さんがお父様の存在をご存じないとしても、お子さんは法定相続人にあたり、遺贈寄付の対象である自宅不動産を含めた相続財産の2分の1について「遺留分」をお持ちです。
遺贈寄付では、「遺留分」を侵害しないように配分
遺留分とは、兄弟姉妹や甥姪以外の法定相続人に認められた最低限の取得分のことです。円滑に相続を進めるには、残された家族や相続人との生前の関係や心情などに配慮するだけでなく、法定相続人の遺留分を侵害しない財産配分することが重要です。遺贈寄付の場合でも、よほどの事情がない限り、遺留分を侵害する寄付は避けた方が無難です。受遺団体も、そのような寄付は望んでいないでしょう。まずはご家族と話し合い、想いを理解してもらうことが大切です。
遺産は通常、相続人同士の話し合い(遺産分割協議)によって、各相続人の具体的な財産配分を決めますが、相続人の間で話し合いがつかない場合は、家庭裁判所の遺産分割の調停や審判の手続きで法定相続分が提示されます。そうした時に故人が残した遺言書があれば、遺産分割協議を行う必要がなくなり、遺言どおりに財産が配分され遺贈寄付も行えるようになります。しかし、法定相続人に認められた遺留分は、侵害していると請求があれば遺言で指定された遺贈寄付からも返還する交渉・調停・裁判が行われることになります。
不動産の遺贈では、まず受遺団体に相談
また、不動産を遺贈寄付する場合、ご本人もしくは遺言執行者、場合によっては受遺団体が売却して、その換価金を公益活動に役立てることが多くあります。しかも、不動産の寄付を受け付けている公益団体は限られているのが現状です。それは、現金の寄付とは違って「寄付された不動産を団体の活動に活用できるかわからない」「換金する場合でも必ず売却できるとは限らない」「火災・不法投棄などの管理リスクがある」「遺留分算定の際の評価が難しい」など、不動産特有のリスクがあるからです。
そこで、不動産を遺贈寄付しようと考えた場合は、寄付先団体に不動産の寄付を受けているかを必ず確認しましょう。確認しないまま遺言書に「不動産を遺贈する」と記載すると、遺言者が亡くなった後、団体によっては遺贈の放棄をされる可能性があり、その場合は相続人全員で遺産分割協議をされたり、相続人がいない場合は国庫に納められ、せっかくの寄付への想いが実現できなくなってしまいます。
特に不動産の譲渡売買には、仲介手数料や建物解体費、不動産取得税・登録免許税・みなし譲渡所得税などさまざまな費用・課税がかかります。換価して寄付する場合、売却額から費用を差し引かれるため、差引額の方が多くて寄付金が残らない!などということも起きかねません。遺言書の案を作成する段階から、ご本人、遺言書作成をサポートする専門家、遺贈寄付を受ける公益団体の間で十分に意向を確認し、実現可能な遺贈寄付となる遺言書にすることが大切です。
特にひとり暮らしの場合、自分が亡くなった後の自宅を「引き取り手がいないから寄付したい」と考える方が多いようですが、受遺団体が直接の活動に活用・管理が可能、もしくは受遺団体自身が売却可能と判断できる不動産以外は、受け取れないことがほとんどです。自分の人生を振り返り、自分に大きな影響を与えた経験・できごと・人物・理念などを思い浮かべ、これに関係する団体や活動を応援したいと願う気持ちが大切です。「私はなぜ遺贈寄付したいのか」をじっくり考えて、ふさわしい支援先を見つけましょう。
また、遺贈寄付を確実に実行するためには、遺言執行者の存在が欠かせません。遺言執行者の使命は、逝去されたご本人の財産に関する細かな手続きを進め、もし遺贈寄付に不満を持つ法定ではない相続人がいたりした場合も、交渉しながら遺言の執行を完遂することです。そのためには法律の知識や手続きの経験が必要ですので、遺言執行者はプロに任せるのがよいでしょう。
結局この男性の場合は、手紙や電話でお話しをお聞きするだけでは確かな状況がわからなかったため、誕生から現在までの戸籍謄本や不動産登記簿を取り寄せてご相談し、不動産の名義を亡妻からご本人に変更し、遺言執行者への逝去通知者を姉とし、遺言書の作成も自筆証書から公正証書に変えることをお薦めしました。その結果「ご自宅不動産のみ特定して換価し清算寄付する特定遺贈」とする遺言書を無事に作成することができました。
遺贈寄付や相続財産からのご寄付は、法務・税務・終活等の専門家と連携し、丁寧かつ慎重にご相談を重ね、最適な形で実現するためのサポートを行っています。どうぞお気軽にご相談ください。
お問合せは以下のEメールまたはTELまで。ご案内資料の送付を希望される場合は、ご住所とお名前をお知らせください。
公益財団法人日本自然保護協会(NACS-J) 遺贈・遺産寄付担当(芝小路、鶴田)
E-mail memory@nacsj.or.jp/TEL 03-3553-4101(代表受付、平日10:00~17:00)
コラム「遺贈寄付を知ろう」 連載目次ページ
https://www.nacsj.or.jp/news/2023/10/37315/