2023.11.21(2023.11.22 更新)
【連載】遺贈寄付を知ろう「第15回:できるところからエンディングノートを書いてみよう!」
解説
専門度:
フィールド:活動支援寄付
NACS-Jではここ数年、遺贈寄付に関するご相談が寄せられることが多くなってきました。まだ元気なうちに人生のエンディングの準備を進め、遺産の活かし方をご自身で決める方が増えているようです。
遺贈寄付とは、人生の最後に財産が残った時に、その一部を公益団体などへ寄付をすること。自分の想いを未来に託し、自身亡き後に財産を社会に有効に活かす方法の一つとして、注目が高まっています。
そこで、NACS-Jの遺贈寄付アドバイザーで遺贈寄附推進機構(株)代表取締役の齋藤弘道さんに、遺贈寄付の基礎知識や今すぐ役立つ準備の進め方のポイントをお聞きしました。
【連載】遺贈寄付を知ろう ~ あなたの想いと自然を未来につなげるために
第15回:できるところからエンディングノートを書いてみよう!
Q.最近、お子さんがいない方から遺贈寄付による財産の活かし方についてご相談が増えています。そうした方が、お元気なうちに備えておくべきことを教えてください。
A.相続分野の用語では、お子さんがいない単身の方のを「おひとりさま」、ご夫婦の方を「おふたりさま」などとお呼びしています。「おふたりさま」はご夫婦のどちらかが亡くなれば、残された方が「おひとりさま」になりますので、「おひとりさま」予備軍とも言えます。おひとりさまやおふたりさまは、高齢や病気で判断能力が減退したときや死亡したときに備えて、必要な手続きについて、第三者に何らかの形でお願いしておくと安心です。その伝え方の一つとして「エンディングノート」があります。
急な病気や事故で入院したとき、ふだんは自分でしている身の回りのこと、家のことなどができなくなってしまいます。私自身も入院した経験が何度かありますが、保険の請求やお金の管理などが心配になりました。家族は私の財産など把握していませんし、もし頼れる家族がいなければ、もっと困った状況になりそうです。特に、自分の意思を伝えることが困難な場合や意思能力が失われるような場合は、伝えること自体が難しくなります。
この状況になってから、誰かに頼んでおけばよかったと思っても、後悔先に立たずです。先ほど「第三者に何らかの形で依頼しておく」とお伝えしましたが、「知人に頼んでおく」「専門家と契約する」などの方法があります。依頼や契約をする前に、自分はどんなことを誰に頼んでおきたいのかを整理するとよいでしょう。このときに便利なのがエンディングノートです。
Q.エンディングノートは、おひとりさまやおふたりさまに限らず、誰でも書いておくとよさそうですが、書くことがたくさんありますよね。
A.エンディングノートは、さまざまな項目を整理して記入できるようになっていて、考え方のガイドのような機能も備えています。最初にお伝えしておきたいのは、エンディングノートは「完成を目指さない」ということです。エンディングノートの認知度は約9割と高いのに、実際に作成している人はそのうちの約1割と少ないのが現状だと言われています。エンディングノートの記載項目は多いので、これらを全部書くのは大変です。ですから、「全部書こうとせずに必要な項目だけを書く」くらいの気持ちで臨んだ方が気楽に書けるのではないでしょうか。どんなことを書けばよいのか、項目別に見ていきましょう。
●財産について
まず心配なのが、治療費や入院費などの支払いの問題です。当面は誰かに立て替えてもらうかもしれませんが、いずれ精算するときに引き出せる財産を整理しておきましょう。具体的には、生命保険や損害保険の情報(保険の種類・保険会社・証券番号・証券の保管場所・連絡先など)、預貯金の情報(金融機関名・支店名・種類・口座番号・通帳やカードの保管場所・連絡先など)を、記載欄に沿って書いていきます。認知症に対応する代理出金機能などが付いた預金や信託商品がある場合は、その旨も補記しておきましょう。
記入するのが面倒な場合は、保険証券・カード・通帳などのコピーを入れた「終活ファイル」を用意しておくことをおすすめします。エンディングノートには「終活ファイルを参照」と書いておけば、一つずつ書く手間が省けます。
●医療情報について
次に心配なのが、持病がある場合の薬や治療の問題です。持病とは別の病気や事故で入院した場合や、認知症で施設に入所した場合に備えて、医療情報(病名・病状・病院・主治医・連絡先・薬剤名・投薬のタイミングと数量・保管場所など)を記入しておきます。おくすり手帳などをお持ちであれば、保険証とともにその保管場所を記しておくとよいでしょう。
さらに心配な方は、介護の希望(場所・施設・費用・食べもの・生活スタイルなど)や、終末医療の希望(病名と余命の告知・最期の場所・延命措置など)について記入することもできます。
●連絡先リスト
もしもの時に連絡してほしい親戚・知人・専門家などについて記入しておきます。リストには、連絡先情報(氏名・自分との関係・住所・電話・メールアドレスなど)とともに、どんな場合に連絡してほしいか(入院時・危篤時・死亡時など)も記しておくとよいでしょう。
●葬儀・お墓・遺産相続など
おひとりさまにとっては、死去時や死去後の手続きも大きな心配事です。費用はかかりますが、専門家と死後事務委任契約(遺体の引取り、葬儀・埋葬の手配、諸々の行政手続き、医療費・公共料金の清算など)を結んでおき、そのことをエンディングノートに書いておくと安心です。
遺産相続については、エンディングノートよりも遺言書を作成しておくことをおすすめします。もし財産を渡したい親族などがいなければ、社会課題の解決に取り組む非営利団体に遺贈寄付することもできます。人生の最後に、使い切れなかった「遺りもの」から少しだけ社会に恩送りすることにより、生きた証を残し、未来に大きな福をもたらすことができるでしょう。
Q.手書きの冊子は入手も記入も手間がかかりそうですが、パソコンやスマホで手軽に作成・保管できるものはありますか。
A.ここ数年、デジタルエンディングノートを作成する多くのアプリが提供されています。ですが、使い勝手やセキュリティーに問題のありそうなサービスも散見されます。信託銀行などが提供する保管サービスはセキュリティー強化をうたっていますので、比較的安心して利用できそうですね。それぞれのサービスによって登録できる内容や機能に違いがあり、利用料がかからないものもありますので、自分に合ったものを選択して利用するとよいでしょう。
エンディングノートに記入する内容は、極めて重要な個人的な情報です。こうした情報が漏洩しないよう厳重に管理する必要がありますが、その一方で必要なときに必要な人に確実に伝わるような工夫も必要です。信頼できる人にだけエンディングノートの保管場所を伝えるという方法もありますが、こうしたデジタルサービスにデータの保管と提供を管理してもらうのも一つの方法です。
●三井住友信託銀行「未来の縁-ing(エンディング)ノート」
「おひとりさま信託」の機能の一つとして提供されています。銀行が電子媒体で保管するため、データ紛失の恐れがありません。
●みずほ信託銀行「未来への手紙」
「プライベートデータ信託」として21項目のプライベート情報を銀行に預け、相続前・相続後に分けて指定した受取人に情報が渡されます。
●三井住友銀行「SMBCデジタルセーフティボックス」
資産やIDパスワードの情報を登録でき、情報の受取人を最大10人まで指定できます(3親等内のご親族)。
●三菱UFJ信託銀行「わが家ノート」
スマホに専用アプリをインストールして使います。エンディングノートの作成のほか、健康管理や見守りの機能もあります。
製本されたエンディングノートやデジタルエンディングノートもよいですが、手軽に書けることを目指して、私が代表を務める遺贈寄附推進機構ではPDF版のエンディングノート「ご縁ディングノート」を用意しています。おひとりさまの困りごとをすべて専門家との契約で解決することは金銭的にも大変ですので、互いに支え合うことも必要でしょう。そこで、人生における「ご縁」を4つに分類し、ご縁のある人物を書き出せるように工夫しました。記入できる項目は一般のエンディングノートよりも多く、伝える情報も幅広くカバーしていますが、自分に必要な部分だけをプリントアウトして書けるようになっているのでおススメです。
日本自然保護協会版のものには、これから行ってみたい自然や、思い出深い自然や、好きな動植物など、自然とのつながりの記録もできるようになりましたね。
※日本自然保護協会に、遺贈に関する資料請求をくださった方で「ご縁ディングノート」をご希望の方には、「わたしと自然のご縁ディングノート」PDF版をプレゼントします。こちらの遺贈パンフレットお取り寄せフォームよりお申込みください。
ご案内
誰でもかんたんにはじめられる「エンディングノートの書き方」オンライン講座
人生をよりよく過ごすための「保険」のようなものとして、ご自身の不安をなくし、あなたの想いや希望を安心して確かに伝えるために、気軽にエンディングノートを書く練習をしてみませんか。講座お申込みの方にはもれなく「わたしと自然のご縁ディングノート」PDF版をプレゼント!
ご相談やお問合せは、どうぞお気軽に以下のEメールまたはTELまで。ご案内資料の送付を希望される場合は、ご住所とお名前をお知らせください。
公益財団法人日本自然保護協会(NACS-J) 遺贈・遺産寄付担当(芝小路、鶴田)
E-mail memory@nacsj.or.jp/TEL 03-3553-4101(代表受付、平日10:00~17:00)
【回答者プロフィール】
遺贈寄附推進機構(株)代表取締役一般社団法人全国レガシーギフト協会理事 齋藤 弘道(さいとう ひろみち)
信託銀行勤務時代に1500件超の相続相談や10,000件以上の遺言受託審査に対応。2014年に弁護士・税理士らとともに、遺贈寄付希望者の意思が実現されない課題を解決するための勉強会を立ち上げた(現:全国レガシーギフト協会)。2018年に遺贈寄附推進機構株式会社を設立。多ジャンルのNGOに、遺贈寄付推進の助言指導を行っている。
コラム「遺贈寄付を知ろう」 連載目次ページ
https://www.nacsj.or.jp/news/2023/10/37315/