2023.11.15(2023.11.16 更新)
【連載】遺贈寄付を知ろう「第14回:遺言以外に遺贈の意思を伝えることができる『信託による寄付』」
解説
専門度:
フィールド:活動支援寄付
NACS-Jではここ数年、遺贈寄付に関するご相談が寄せられることが多くなってきました。まだ元気なうちに人生のエンディングの準備を進め、遺産の活かし方をご自身で決める方が増えているようです。
遺贈寄付とは、人生の最後に財産が残った時に、その一部を公益団体などへ寄付をすること。自分の想いを未来に託し、自身亡き後に財産を社会に有効に活かす方法の一つとして、注目が高まっています。
そこで、NACS-Jの遺贈寄付アドバイザーで遺贈寄附推進機構(株)代表取締役の齋藤弘道さんに、遺贈寄付の基礎知識や今すぐ役立つ準備の進め方のポイントをお聞きしました。
【連載】遺贈寄付を知ろう ~ あなたの想いと自然を未来につなげるために
第14回:遺言以外に遺贈の意思を伝えることができる「信託による寄付」
Q.「遺言書を書かないと遺贈寄付はできないのでしょうか」というご相談を受けたのですが、遺言書以外の方法はあるのでしょうか。
A.遺贈寄付をしようと考えたとき、通常は「遺言」を思い浮かべますが、その他にも「死因贈与契約」「生命保険」「信託」などの方法があります。「信託」のしくみを利用すれば、遺言がなくても遺贈寄付を実現することができます。
信託銀行と取引のない方にはあまり馴染みがないかもしれませんが、投資信託を保有している方は多いと思いますし、企業年金も信託の機能を利用しています。そして、信託は公益や福祉のためにも利用されています。
信託は「委託者(財産を預ける人)」「受託者(財産を預かって管理・運用する人:信託銀行など)」「受益者(恩恵を受ける人)」の関係で成り立つしくみです。委託者は、信託目的を定めて受託者と信託契約を結び、財産を受託者に預けます。受託者は、信託された財産を管理・運用しながら、信託目的に沿って、委託者が指定した受益者に財産を引き渡します。
信託を理解する上で重要なポイントが2つあります。
1つ目は、信託された財産の所有権が受託者に移ることです。つまり、元々は委託者の財産だった信託財産は、委託者の手を離れて受託者の名義になるということです。委託者の立場からすると、少し不安に思われることでしょう。
そこで、2つ目のポイントです。信託財産を管理する受託者(信託銀行等)は、信託法や信託業法などの法令によってさまざまな義務が課せられ、監督されていることです。受託者は、大切な財産の所有者となり管理する重い責任がありますので、安全に管理される制度が整っているのです。こうした点から、信託は公益目的とはとても相性がよく、寄付や遺贈寄付にも安心して利用することができます。
Q.遺贈寄付の代表的な方法である「遺言による寄付」と「信託による寄付」のちがいを教えてください。
A.信託による寄付の場合は、財産が受託者に移転して管理されますので、確実に遺贈寄付が実行されますが、遺言による寄付の場合は「意思を紙に書いた」ところまでです。死亡時に寄付しようと思っていた財産を別のことに使ってしまう、あやまって遺言書を失くしてしまう、受遺者が遺贈を放棄するなどの可能性があるため、確実に遺贈寄付が実行されるとは限りません。
信託による寄付は、商品化された金融サービスを利用するため、予め受託者が用意した申込書や契約書等に記入するだけで、簡単に手続きが完了します。これに対して、遺言の場合は、ひな型に沿って書いたとしても、家族構成や財産内容は人それぞれですので、正確で円滑に手続きができる遺言書を作成することは、専門家のサポートがないとなかなか難しいものです。
信託による寄付 | 遺言による寄付 | |
---|---|---|
作成する書面 | 契約書 | 遺言書 |
寄付する意思の伝え方 | 寄付先と契約を交わす | 一方的に遺言に書く |
手続きの難易度 | 比較的簡単 | 手間がかかる |
意思決定時の財産 | 受託者に所有移転 | 遺言者が所有したまま |
意思決定後の財産 | 受託者が管理・運用 | 遺言者が自由に使用 |
死去時等における手続き | 受託者が受益者に引渡し | 遺言執行者が手続き |
手続きに必要な手数料 | 有料と無料のものがある | 公正証書遺言は有料 |
ちなみに、「遺言信託」という言葉を聞かれたことがあるでしょうか。名称に「信託」とあるので、信託のしくみのように見えますが、実は違うものです。少し紛らわしい感じもしますが、遺言信託は遺言書の作成・保管・執行を行うパッケージの契約サービスで、銀行、信託銀行、証券会社等の金融機関が取り扱っています。
遺言で財産配分等の意思表示をしますので、信託のように財産は受託者に移転せず、信託機能はありません。遺言者(委任者)は受託者(受任者)と、遺言書の保管や遺言の執行などに関する契約は結びますが、預けるのは財産ではなく遺言書という「書類」だけです。
遺言信託は、寄付先や金額を自由に選ぶことができ、不動産の遺贈も可能です(寄付先に受遺可能かどうか要確認)。契約時の申込金、遺言書保管料、遺言執行報酬などは、金融機関ごとに定められています。
Q.遺贈寄付に使える信託商品にはどのようなものがあるのでしょうか。
A.遺贈寄付に利用できる代表的な信託商品には「遺言代用信託」「特定寄附信託」「生命保険信託」「公益信託」などがあります。それぞれのサービスのしくみ・特徴・手数料を簡単にご紹介しましょう。
(1)遺言代用信託
金銭を信託し、死去後に受益者に交付するしくみです。遺言に類似する機能がありますが、遺言書を作成する必要がありません。
オリックス銀行のかんたん相続信託の場合、100万円から利用可能で、中途解約もでき、申込手数料や管理報酬はかかりません(寄付先は自治体と一部の公益法人に限ります)。
https://www.orixbank.co.jp/personal/trust/inheritance/account.html
そのほかに、三井住友信託銀行の「未来への寄付」(寄付先:13大学)、十六銀行の「想族あんしんたく」(寄付先:岐阜県内の自治体等)、南都銀行の「<ナント>安心とどける信託 寄附コース」(寄付先:奈良県内の自治体)、肥後銀行の「ひぎん安心つなぐ信託」(寄付先:提携先団体)など、新たなサービスが少しずつ生まれています。
なお、遺言代用信託ではないので余談になりますが、三井住友信託銀行では200超の非営利団体と遺贈寄付に関して提携しており、提携先一覧をwebサイトに公表しています。これは、銀行がお客様に特定の団体への寄付を勧めるものではなく、あくまでお客様が検討の参考にするための案内ですが、日本自然保護協会も自然・環境保護分野のひとつとして提携されていますね。
https://www.smtb.jp/personal/entrustment/succession/bequeath/list/
(2)特定寄附信託
信託銀行等が契約した公益法人等の中から寄付先を指定する方法で、信託した金銭を分割して定期的に寄付します。委託者が途中で死去した場合は残額が一括寄付されます。三菱UFJ信託銀行の場合、10万円以上10万円単位で利用可能で(上限500万円)、中途解約は不可、信託報酬はかかりません。
https://www.tr.mufg.jp/shisan/tokuteikifu_03.html
(3)生命保険信託
生命保険に加入するとともに、信託契約を締結するというものです。死亡保険金の受取人を信託銀行等に指定し、信託金を分割して定期的に受益者に交付します。受益者(または残余財産の帰属権利者)に公益団体を指定すれば、遺贈寄付にも利用できるというわけです。月々少額の保険料で、大きな金額の寄付ができるのが特徴です。プルデンシャル信託で分割交付の場合、契約事務手数料は5,000円、分割交付の管理報酬は年間20,000円、保険金支払時の信託報酬は保険金の2%です(いずれも消費税別)。
https://www.pru-trust.co.jp/trust/
(4)公益信託
篤志家が公益目的のために財産を信託する方法です。信託時には受益者の定めがなく、信託期間中に定期的に運営委員会が助成先を選考して受託者に推薦し、受託者から助成金が給付されます。信託財産は数千万円以上で、委託者の生死に関係なく助成され、諸費用はすべて信託財産から支払われます。
信託による寄付は、「財産額が大きくないと利用できない」「利用手数料が高額」というイメージがあるかもしれませんが、実際は比較的少額から利用可能であり、手数料も無料か低廉なものが多いです。遺贈寄付を検討するとき、一つの選択肢として考えてもよいでしょう。
Q.「信託」で遺贈寄付するときに注意すべき点があれば教えてください。
A.信託による寄付でも、遺言による寄付と同じように、寄付した財産は遺留分(兄弟姉妹以外の法定相続人に最低限保証された遺産取得分)の計算対象になります。信託した時点で、財産の所有権は委託者から受託者に移転しますが、相続財産の一部であるとみなされて遺留分計算されるのです。遺留分を侵害するような多額の信託で遺贈寄付をすると、寄付を受けた団体が相続人から遺留分侵害額請求を受ける可能性がありますので、注意しましょう。
相続税申告でも、信託財産は相続財産とみなされますので、申告の対象となります。ただし、寄付した信託財産は相続財産から控除できますので、結果的に相続税はかかりません。相続税がかからないから申告不要という訳ではありませんので、注意が必要です。
また、信託で寄付する契約をした後に、不測の事態でお金が必要になったとき、信託を中途解約して信託金を取り戻せるものと、中途解約できないものがありますので、信託契約する際は、将来の施設入所や入院・治療などにかかる費用を考慮して設定しましょう。
信託による寄付はその特徴を活かして、寄付者が信託契約した時点で、受益者である非営利団体が寄付者に感謝状などを贈呈するしくみを組み込んだ商品があります。遺言による寄付ではなかなかできないサービスで、寄付者にとっても嬉しいことではないでしょうか。かつては、寄付をしても公言しないなど奥ゆかしい風潮がありましたが、これからは善い行いに対して積極的に褒め称えることで、遺贈寄付がもっと身近なものとして普及することを期待しています。
ご相談やお問合せは、どうぞお気軽に以下のEメールまたはTELまで。ご案内資料の送付を希望される場合は、ご住所とお名前をお知らせください。
公益財団法人日本自然保護協会(NACS-J) 遺贈・遺産寄付担当(芝小路、鶴田)
E-mail memory@nacsj.or.jp/TEL 03-3553-4101(代表受付、平日10:00~17:00)
【回答者プロフィール】
遺贈寄附推進機構(株)代表取締役一般社団法人全国レガシーギフト協会理事 齋藤 弘道(さいとう ひろみち)
信託銀行勤務時代に1500件超の相続相談や10,000件以上の遺言受託審査に対応。2014年に弁護士・税理士らとともに、遺贈寄付希望者の意思が実現されない課題を解決するための勉強会を立ち上げた(現:全国レガシーギフト協会)。2018年に遺贈寄附推進機構株式会社を設立。多ジャンルのNGOに、遺贈寄付推進の助言指導を行っている。
コラム「遺贈寄付を知ろう」 連載目次ページ
https://www.nacsj.or.jp/news/2023/10/37315/