2023.10.30(2023.11.29 更新)
洋上風力発電の新しい環境影響評価制度が議論されています。
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テーマ:自然環境調査環境アセスメント海の保全
フィールド:再生可能エネルギー海
地球温暖化対策として、化石燃料発電から、再生可能エネルギーへの転換が急務となっています。特に洋上風力発電は、2022年末時点で稼働中の事業が約19万kWであるのに対し、第4期海洋基本計画(2023年4月閣議決定)では、2030年までに1000万kW、その後は年平均100万kWの導入目標が政府から示されています。
そのような中、洋上風力発電の環境影響評価について検討会が開かれ、日本自然保護協会(NACS-J)はオブザーバーとして出席してきました。国が責任を持って自然環境の影響を評価する新しい制度の策定方針がまとまり、来年の国会で議論されることが予想されます。
現在の評価制度
洋上風力発電事業は、「再生エネルギー海域利用法」に基づいて行われます。現在は、都道府県からの情報提供により国(経産省と国交省)が、領海内で促進区域を指定し、公募で事業者選定する仕組みで進められています。促進区域を決める際に、環境省が環境配慮の観点から情報提供、意見提出を行います。
一方で、事業者には環境影響評価法に基づくアセス手続きが必要です。選定前に複数の事業者が、同一海域で環境アセスメント手続きをそれぞれ行い、最終的には1海域に事業者は1社しか選定されません。
洋上風力発電の現地調査は、船舶で行う必要もあり、先行事例・研究が少なく、渡り鳥に及ぼす影響や、杭打ち音による海生生物への影響などへの科学的知見は十分でありません。NACS-Jは、国が責任を持って自然環境の評価を実施し、また、義務ではないため、風力発電事業者がほとんど実施してこなかった稼働後のモニタリングを実施するように主張し、働きかけてきました。
新たな評価制度の検討
今年5月より、環境省主催の「洋上風力発電の環境影響評価制度の最適な在り方に関する検討会」が開かれ、NACS-Jもオブザーバーとして出席してきました。この検討会で、事前の自然環境の現地調査を環境省が実施し、自然環境の影響を評価する新制度の策定方針がまとまりました。来年の通常国会で法案が審議されることが予想されます。また、稼働後のモニタリングも環境省が選定事業者と協力して実施する方針も示されました。これにより、今まで不十分であった風力発電による自然環境への影響の科学的知見の蓄積が期待されます。
一方で、これら手続きは自治体が情報提供した有望区域内に留まります。日本の領海および排他的経済水域全体で自然環境への影響が少ない場所に洋上風力発電が導入される仕組みにはなっていません。自然環境上、適切な場所に洋上風力発電を導入するためには、日本の海の生物に関する基礎データを早急に整えていく必要があります。
環境省資料よりNACS-J改定
担当者から一言
リポーター
保護・教育部 若松 伸彦
洋上風力発電事業に限ったことではないですが、事業者による環境影響評価には疑念があります。その点、環境省が評価する新制度には、より期待が持てます。また今後は、住環境や景観の面からも、より沖合に離して洋上風力発電施設を計画する必要があると考えています。
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