2023.08.28(2023.08.29 更新)
鹿児島の照葉樹の自然林で大規模風力発電計画
読み物
専門度:
垂水風力発電事業の計画地
テーマ:里山の保全生息環境保全森林保全
フィールド:再生可能エネルギー
鹿児島県の大隅半島はまだニホンジカの食害も少ないこともあり、林内の構成植物種数は400種を超える照葉樹林のホットスポットと言える場所です。照葉樹林はかつて西日本に広範囲に分布していましたが、スギやヒノキの植林地の拡大などにより、残存エリアは狭くなっています。原生的な照葉樹の自然林は国土の約1.6%と少なくなってしまいましたが、大隅半島には、照葉樹の自然林が比較的多く残っています。
照葉樹林のホットスポットで進む2つの計画
そのような照葉樹自然林を大規模に伐採する、大型陸上風力発電計画2つが進行しています。
一つは、最大出力5万1600kW、高さ150m以上の風車を12基建設予定の「六郎館岳風力発電計画」(肝属郡錦江町/事業者:ジャパン・リニューアブル・エナジー株式会社)です。これは林野庁が設定した「大隅半島緑の回廊」を分断するように計画されており、大隅半島の生態系の連続性が喪失する恐れがあります。
六郎館岳の計画地。緑の回廊が計画範囲に含まれる。
もう一つは最大出力20万kW、高さ150m以上の風車を32基建設予定の「垂水風力発電計画」(鹿屋市・垂水市/事業者:株式会社ユーラスエナジーホールディングス)です。クマタカの生息地であり、サシバの渡りルート上でもあるなど猛禽類への影響が懸念されます。
計画地内は原生的な照葉樹林もあり、絶滅危惧の着生ランや腐生ランなどが多数確認されています。何よりもこの計画が問題なのは計画予定地の約8割が鹿児島大学高隈演習林となっている点です。演習林は言わずもがな学術的教育的に特に重要な場所です。
垂水風力発電計画地の鹿児島大学演習林内
事業者のユーラスエナジー社は、「現地調査などを踏まえて環境保全に十分配慮した計画となるよう検討を進めます」とコメントをしていますが、そもそも脱炭素のために、生態学的にも教育的にも最重要である大学演習林で計画すること自体、ありえないことです。
もしこのような大学演習林内での風力発電計画が認められた場合、全国の大学演習林に波及する可能性があり、本計画は日本の自然科学への挑発にも見えます。OECMや30by30の達成が求められている中、本事業者の自然環境への姿勢は時代に逆行するものであり、全力でこの事業が中止になるように尽力したいと思います。
担当者から一言
リポーター
保護・教育部 若松 伸彦
最近は東北や北海道だけでなく、九州でも自然環境上問題の計画が急増。しっかりと対応していきたいと思います。
この記事のタグ