2023.08.30(2023.11.06 更新)
【連載】遺贈寄付を知ろう「第8回:遺言書に遺言執行者を定めておくことはなぜ大切?」
解説
専門度:
フィールド:活動支援寄付
NACS-Jではここ数年、遺贈寄付に関するご相談が寄せられることが多くなってきました。まだ元気なうちに人生のエンディングの準備を進め、遺産の活かし方をご自身で決める方が増えているようです。
遺贈寄付とは、人生の最後に財産が残った時に、その一部を公益団体などへ寄付をすること。自分の想いを未来に託し、自身亡き後に財産を社会に有効に活かす方法の一つとして、注目が高まっています。
そこで、NACS-Jの遺贈寄付アドバイザーで遺贈寄附推進機構(株)代表取締役の齋藤弘道さんに、遺贈寄付の基礎知識や今すぐ役立つ準備の進め方のポイントをお聞きしました。
【連載】遺贈寄付を知ろう ~ あなたの想いと自然を未来につなげるために
第8回:遺言書に遺言執行者を定めておくことはなぜ大切?
Q.「遺言」は誰が執行するのでしょうか。
A. 遺言書には法的効力がありますが、誰かが遺言書にもとづいて相続手続きを執行しないと、いつまでたっても財産はそのままの状態です。相続財産を第三者に分け与える「遺贈」を実現するために、財産の権利移転手続きや現物財産の換価、財産の引渡しなどを実行する義務を負う者を「遺贈義務者」と言い、次のような人が該当します。
- 原則として「相続人」。
- 包括遺贈の場合は「包括受遺者」。(参考:連載第5回)
- 遺言書の指定や家庭裁判所の選任がある場合は「遺言執行者」。
- 相続人がいない、もしくはいるかどうか明らかでない場合は、家庭裁判所で選任された「相続財産清算人」。
遺言書で指定された「遺言執行者」は、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他の遺言に必要な一切の行為をする権利義務を有しています。したがって、遺言執行者が指定されていれば、「相続人」や「包括受遺者」が遺贈義務を負うことはなく、「相続人」や「包括受遺者」の手を煩わせることなく、遺言の執行がスムーズに進められることになります。
さらに、相続法の改正により、「遺言執行者がある場合には、相続人は相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができない」という民法第1013条に、第2項として「前項の規定に違反した行為は無効とする」という条項が追加され、相続人が勝手に相続財産を移動させるのは無効であることが明文化されました。こうした点からも、遺贈を確実に実行するためには、遺言書に遺言執行者を定めておくことが大切です。特に遺贈寄付の場合は、円滑な遺言執行を行う上で、相続人に丁寧な説明をすることが求められますので、遺言執行者の役割は重要です(参考:連載第1回)。
Q.「遺贈義務者の責任」にはどんなことがあるのでしょうか。
A. 「遺贈義務者」が負う義務には、権利移転の手続きや財産の引渡しなどがあるとお伝えしましたが、具体的には預貯金の解約換金、有価証券の名義変更、不動産の相続登記、動産の引渡しなどがあります。これ以外にも、「引渡義務」を負います。相続法の改正により、従来の「不特定物の遺贈義務者の担保責任」が2020年4月1日から「遺贈義務者の引渡義務」に変わりましたので、この点について少しお話しましょう。
改正前の「不特定物の担保責任」ですが、まず「不特定物」とは、たとえば米10キロ、りんご100個、馬10頭などのように、種類と数量のみを指定し、代替がきく物を指します。「担保責任」とは、その物に欠陥や不具合があった場合に給付した人が負う責任のことです。不特定物を遺贈するときに、その不特定物が相続財産の中にないなどの不具合が生じた場合は、遺贈義務者は何らかの方法で同様の不特定物を調達して遺贈しなければならないということです。実際の遺言では「〇〇の土地」とか「△△の株式」などと財産を特定して遺贈することが普通なので、不特定物の遺贈は少ないのですが、この担保責任は結構重い責任です。
これが相続法の改正により、不特定物かどうかに関係なく、「相続開始の時の状態で引き渡し、又は移転する義務を負う」に変わりました。相続開始の状態で引き渡せばよいことになり、遺贈義務者の負担が軽減されました。
Q.遺言執行者を指定する際、どのようなことに注意すればよいでしょうか。
A. 遺言執行者がいない場合、相続人や包括受遺者が遺贈義務者となります。逆に、遺言書で遺言執行者を指定すれば、相続人・包括受遺者以外の第三者が遺贈義務者になることもあり、その場合は遺贈義務者として権利移転義務や引渡義務を負うことになります。
遺言執行者の権利義務は、遺贈義務者と同じではなく、次のような権限や責任が定められています。
- 遺言執行者の任務を開始したときに、遺言の内容を相続人へ通知する。
- 遺言の内容を実現するため、遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務がある。
- 遺産目録を作成して、相続人交付する。
- 善管注意義務、報告義務、受取物の引渡義務、費用等の償還請求権など。
遺言執行者は、相続人や受遺者に優先する強力な権限を持っている代わりに、重い責任を負っていますので、友人などに安易に頼まない方がよいでしょう。また、同年代の人は自分と同じように年齢を重ねていきますので、自分より歳が若い人にお願いする方がよいと思います。
遺言の執行は、遺言者の意思が書かれた遺言内容を実現することですので、すべての相続人の利益を満たすことはできず、時には相続人と対立する場面もあるかもしれません。また、法律や税務の知識や経験も必要です。こうした点からも、多少の費用はかかっても弁護士や信託銀行などの専門家に依頼して、遺言書に遺言執行者を明記しておくことをおすすめします。遺言執行にかかる報酬は、遺言執行時に遺産から差し引く形で支払うことになりますので、生前に支払う必要はなく、実質的な負担感は少ないでしょう。
ご相談やお問合せは、どうぞお気軽に以下のEメールまたはTELまで。ご案内資料の送付を希望される場合は、ご住所とお名前をお知らせください。
公益財団法人日本自然保護協会(NACS-J) 遺贈・遺産寄付担当(芝小路、鶴田)
E-mail memory@nacsj.or.jp/TEL 03-3553-4101(代表受付、平日10:00~17:00)
【回答者プロフィール】
遺贈寄附推進機構(株)代表取締役一般社団法人全国レガシーギフト協会理事 齋藤 弘道(さいとう ひろみち)
信託銀行勤務時代に1500件超の相続相談や10,000件以上の遺言受託審査に対応。2014年に弁護士・税理士らとともに、遺贈寄付希望者の意思が実現されない課題を解決するための勉強会を立ち上げた(現:全国レガシーギフト協会)。2018年に遺贈寄附推進機構株式会社を設立。多ジャンルのNGOに、遺贈寄付推進の助言指導を行っている。
コラム「遺贈寄付を知ろう」 連載目次ページ
https://www.nacsj.or.jp/news/2023/10/37315/
あなたの想いを日本の自然のために遺す、遺贈・遺産・生前のご寄付のご案内