2023.08.04(2023.08.07 更新)
浜を読む⑤ スリーエス(3S)~優れた砂浜の合言葉 いま・むかし~
専門度:
図1 旧来の3Sから思い描かれる理想の砂浜像
テーマ:海の保全砂浜ムーブメント
フィールド:海海辺
水産大学校名誉教授
須田有輔
新型コロナウイルス感染に対する規制が大幅に緩和され,今年の夏,各地の浜は久しぶりに本来の賑わいを見せることでしょう。
1.理想の砂浜像 〜これまでの3S
さて,優れた砂浜を意味する”Sun, Sand and Sea(太陽,砂,海)”(並び順が異なることもある)という合言葉があります。3語の頭文字をとってスリーエス(3S)とも呼ばれています。この言葉からイメージされるのは,「燦々と照りつける太陽,輝く白砂,青く澄み切った海」と,ビーチリゾートのパンフレット写真のような光景です。多くの人が抱く理想の砂浜像も,このイメージと重なるのではないでしょうか(図1)。
実際,3Sはツーリズムの世界で使われてきた言葉なので(Alipour et al 2020; Cameron and Gatewood 2008; Mendoza-González et al 2018; Mestanza-Ramón et al 2020; Monioudi and Velegrakis 2022; Phillips and Jones 2006),理想の砂浜とは,砂の表面が完璧にきれいにされ,魅力を損ねる要因が何もないように管理されるべきものとなります(Lynch 2022)。したがって,見た目が悪いものや浜へのアプローチの邪魔になりそうなものは,排除や改変すべき対象となります。
たとえば,砂浜生態系にとって不可欠な栄養供給源である漂着海藻類(ラック)は醜く不衛生なごみとして,砂丘や浜の安定化に役立っている植生は人の通行を邪魔する雑草として取り除かれるでしょう。また,生息環境の多様性を生み出している砂浜地形の複雑な起伏(たとえば,砂丘,浜堤,ハンモック)も,人の往来を妨げるからと削り取られ整地されるかもしれません。砂の表面も日常的にグルーミングが行われるでしょう。
加えて,レストラン,カフェ,土産物店,ホテル,プロムナード,駐車場,トイレなどの施設,それらの施設や浜を波,高潮,侵食などから守るための護岸や防波堤などは,クオリティの高い3Sの要素として当然のことながら組み込まれていると言えます(図2)。
しかし,世界中で広がるこのようなツーリズム視点の3S砂浜観が,本来の砂浜生態系の姿を見失わせてはいないでしょうか。従来のツーリズム視点の3Sには砂浜の自然の息吹が感じられず,それどころか,便利さや快適さを追求するあまり,砂浜生態系の劣化を助長してきたようにも思えるのです。
図2 自然の砂浜(上) vs 旧来の理想の3Sビーチ(下)
自然の砂浜は地形的な多様性に富み,植物をはじめ多くの生物が存在する。海からはラックのような砂浜生態系にとって欠かせない栄養源も供給される。一方,ツーリズム視点の3Sビーチは,観光客やビーチゴアーの快適さや利便性などコマーシャルベースのメリットを最優先した形に作り変えられている。
ラック(wrack):浜に打ち上げられた海藻や海草。ラックは砂浜生物の餌や隠れ家になり,分解物は砂浜の一次生産にとっての養分になる。また,ラックと砂が絡み合うことで浜や砂丘の安定化にも寄与している。しかし,観光地や海水浴場の砂浜ではごみとして扱われているのが現状。一方,大量に漂着する場所では,観光や漁業などに影響が出ているほか,人命や健康も脅かされている。「浜を読む③」参照。
浜堤(ひんてい,beach ridge):波の作用で,砂や礫が浜に積み上げられてできたすじ状の隆起。
ハンモック(hummock):風で飛ばされた砂を海浜植物が捉えることでできた小さな砂の隆起。「浜を読む①」参照。
グルーミング(grooming):熊手のような道具や作業機械を使って,砂表面のごみを回収したり,砂表面を整地すること。レーキング(raking)ともいう。ブルドーザーのような重機を使って大々的に砂を押し広げたりする工事はスクレーピング(押し土,scraping)と呼ばれる。
2.新たな3S
このようなツーリズム視点の砂浜観に対する危機意識は,2000年に入った頃から砂浜生態学者の間でみられるようになり,徐々に高まってきました(Brown and McLachlan 2002; Costa et al 2020; Defeo et al 2009, 2021; Defeo and Elliott 2021; Rangel-Buitrago et al 2015; Schlacher et al 2007)。そのような中,旧来の3Sに代わり,自然の砂浜の姿に立脚した新たな3Sが登場しました。それが,”Sand, Space and Species(砂,空間,生物種)”です(Lynch 2022)。早速,新しい3Sの力点を見てみましょう。
Sand(砂)
旧来の3Sでは,砂は美的な面から論じられ,観光客やビーチゴアーに,見た目の不快感を与えるようなものがない砂が理想とされてきました。したがって,砂浜の生態系にとって不可欠なラックも,これまでの3Sでは美観を損ねるごみでしかありません。
一方,新しい3Sでは,美的なことより砂浜にとってはもっと根本的なこと,つまり,その砂浜が将来にわたって存続できるだけの砂の供給があるのか,ということに着目しています。そのためには,その砂浜への自然の砂の供給プロセス,つまり,砂の供給源はどこなのか,どれだけの量がどのように運ばれあるいは流れ出ていくのか,などをしっかり理解し,過度に人の力に頼らずとも浜が維持されるのかを見極める必要があります。もし,自然の供給では賄えないとなれば,どうしても養浜やコンリート構造物など,大量に砂を必要とする人工的な手段に訴えざるをえなくなります。
・Sand Wars
しかし,現在,世界は極めて深刻な砂不足に直面しています(Jouffray et al 2023; Pilkey et al 2022; UNEP 2019, 2022)。一見,なんでもないような砂ですが,水に次いで地球上で2番目に多く消費されている天然資源であり,3位の金属類を3倍以上も引き離しています(OECD 2018)。実際,コンクリートの骨材,養浜・埋め立て材料,半導体原料,ガラス原料,浄水場の濾過材,研磨剤,シェールガスやシェールオイル採掘時の岩盤の亀裂支持材(プロパント)などとして,現代社会に不可欠な天然資源です。
世界では年間400-500億トンの砂(礫や砕石を含む)が採掘されていますが,およそ半分の250-300億トンが建設用の骨材として使われており(UNEP 2019),骨材としての需要が極めて高いことがわかります。新興国の経済発展に伴う建設ラッシュにより,2030年には骨材需要が600億トン程度まで増加するだろうといわれています(UNEP 2019)。世界の砂の採掘量は毎年6%の割合で増加しており,もはや持続不可能な状態と呼べ,国連は,その危機に国際社会が緊急に対処すべきだと勧告しています(UNEP 2022)。
このような状況のため,用途を問わず,砂の採掘や入手をめぐっては,熾烈な砂の争奪戦が世界各地で繰り広げられ,その凄まじさから”Sand Wars”(Delestrac 2013)とも呼ばれています。その一端を描いたNHKのドキュメンタリー『世界を巻き込む砂の争奪戦』(NHK 2022)が昨年の暮れに放送されたので,ご覧になった方もいると思います。合法違法を問わず,砂の採掘地では深刻な環境破壊が引き起こされ,そればかりか,サンドマフィア化した砂業者による闇ビジネスが幅を広げ,それに絡んだ殺人事件も多発しています(Beiser 2018)。
ビーチゴアー(beachgoer):浜を訪れる人。1回限りの観光客というよりも,日頃からたびたび浜を訪れる人というニュアンス。
養浜(beach nourishment, beach replenishment):他所で入手した砂を投入して,砂浜を維持する工法。日本でも盛んに行われている。長期にわたって砂浜を維持するためには継続的に砂を投入しなければならず,経費の問題がある。
骨材(aggregate):コンクリートやアスファルト道路の強度や耐久性を高めるために,セメントやアスファルトに混ぜる砂,礫,砕石。
プロパント(proppant):新しい天然資源といわれるシェールガスやシェールオイルを,水圧破砕法という技術によって採掘する際に使われる,岩盤内の亀裂(フラクチャー)の支持材。これらの天然資源を採掘する際は,ガスやオイルが含まれる岩盤内にジェル状の流体を高圧で流し込んで岩盤を砕き,ガスやオイルの汲み出しを容易にする亀裂を発生させる。しばらくするとジェルが分解して岩盤に浸み込み,亀裂がふさがってしまうので,亀裂を保持するための支持材を注入する。プロパントには,粒径や形状がそろい,機械的な強度をもった砂が使われる。水圧破砕によってガスやオイルを採掘する方法をフラクチャリング(hydraulic fracturing)(通称フラッキング,fracking)という。
Space(空間)
近年注目されるようになった,「自然のプロセスとともに生きる(working with natural process)」や「自然を基盤とした解決策(NbS)」という考え方を実践するには,それらのプロセスが機能するのに必要な空間が確保されていなければなりません。
たとえば,砂浜のサーフゾーンは,沖から入ってきた波が徐々に砕けることによって波を弱める機能をもち,それにより岸に到達する時には穏やかとなり,浜を削り取る力が小さくなります。しかし,この機能が働くには,ある程度沖合まで緩勾配の海底が続くサーフゾーンが広がっている必要があります。
また,高潮や津波の影響を弱める効果をもつ海浜植生は,それが生えることができる広さが必要です。しかし,砂丘が人為的に削り取られ,浜のすぐ後ろまで道路などの構造物が迫っているような場所では,海浜植生が十分に生育するだけの広さが確保できません。そうなれば,飛ばされた砂を植物が捉え,それを浜に蓄えるだけの空間がなくなり,自然の力だけで浜を維持することが難しくなります。
・コースタルスクイズ
自然状態の砂浜は,その時の環境条件に応じて,浜が狭くなったり,逆に広くなったりする柔軟性をもつことで保たれています。ところが,市街地・都市,農地,海岸林(松林)など陸域の開発が海岸まで広がり,一方,海では気候変動に伴う海面上昇や海岸侵食によって海岸線が後退すると,浜がしだいに狭められていきます。最近,このような現象をコースタルスクイズ(coastal squeeze)と呼ぶようになりました(Defeo et al 2021; Cooper et al 2020; Gittman et al 2015; Leo et al 2019)(図3)。「スクイズ」とは「狭まる」という意味です。元々は海岸背後の塩性湿地を対象に使われていた用語でしたが(Doody 2004; Pontee 2013),現在では砂浜や海岸砂丘に広く用いられています。
日本では,松林の造成,市街地化,農地化など,内陸から海側に開発が広がったことが,砂浜が減った大きな原因だと言われています(由良 2014; 由良・開発 2008)。開発の過程で,自然のバリアの働きをする海岸砂丘や自然の植生が削り取られてしまえば,土地,建物,インフラを守るために,海岸線がコンクリート構造物で固められてしまうのは当然の結果と言えるでしょう。そうなれば,砂浜が本来持つ柔軟性が失われ,砂浜の減少が一層加速します。旧来型の理想の3Sビーチは,護岸,海岸道路,プロムナードなどの構造物で海岸線が固められていることが普通なので,常にコースタルスクイズの危機にさらされています。
コースタルスクイズ状態に陥れば,自然の力だけでは砂浜が維持できなくなり,その結果,これまで以上に人工構造物や養浜に頼った海岸保全策に力を注ぐか,あるいは海岸部の住宅,施設やインフラそのものを内陸に移転する,「管理された後退」(de Schipper et al 2021; Siders 2019)を現実的な選択肢として考えざるを得なくなります。
図3 コースタルスクイズのイメージ
コースタルスクイズとは,都市,農地,海岸林など陸域の開発が海際まで広がることと,海面上昇や海岸侵食によって海岸線が陸方向に後退することによって,砂浜が狭められていく現象。砂浜の背後に広がる海岸砂丘には,自然のバリアとしての働きがあるが,開発によって削り取られてしまえば,土地や建物を守るためにコンクリート構造物で海岸線を固めざるを得なくなる。そうなれば,海岸線が後退してもそれ以上には後退できなくなり,浜は徐々に狭まり,最後は消失し,構造物に直接波が当たるようになる。
自然を基盤とした解決策(nature-based solution):自然に本来備わっている機能を,人間社会の諸問題の解決に活用しようという考え方。英語の頭文字をとってNbSと記される。とくに,防災・減災に役立てようという考え方は,生態系を活用した防災・減災(ecosystem-based disaster risk reduction: Eco-DRR)と呼ばれている。リビング・ショアライン(Living Shoreline)(Bilkovic et al eds 2017)と呼ばれる,カキ殻,ヤシ殻,塩性湿地植物など自然物を活用した海岸線防護もNbSやEco-DRRの一つである。
護岸(sea wall):海岸部の陸地やインフラを波や高潮などから守るために,壁状に建設された構造物。
管理された後退(managed retreat):海岸侵食が続く海岸部で,侵食による土地の消失から逃れるために,住宅,施設,インフラなどを内陸に移転すること。災害時の緊急的な避難という考え方ではなく,海岸管理計画や地域計画の一環として行われるもの。米国,英国,オーストラリアなどの一部の地域で実施された例もあるが,住み慣れた土地を離れることの拒否感,資産,移転地の確保,費用などの問題が大きく,まだ十分に理解を得られた手段とはなっていない。
Species(生物種)
ツーリズム視点で捉えられた旧来の3Sには,砂浜が持つ生態系サービスという観点が抜け落ちているように思えます。そこから想像される砂浜像は,リゾートホテルの敷地内に作られた人工ビーチのように,機械的な印象を与えるものです。しかし,新しい3Sは,生物が暮らしていける砂浜こそが,ツーリズム視点からみても健康な砂浜の証だとしています。これは,砂浜の自然を考えればごく当たり前のことですが,あえてふれなければならないほど,生物の存在というものが,これまでの砂浜の保全や管理において軽視されてきたことの表れではないかと思います。実際,砂浜は生物に乏しい不毛な場所だという先入観が,専門家の間にさえみられるので,海岸管理者や海岸事業者であればなおさらのことでしょう。まずは,自然の砂浜には,多くの生物が暮らしているという事実を理解することが大事だと,新しい3Sは強調しているように思えます。
・砂浜の生態系サービス
砂浜には,砂の堆積促進,波の減衰,海水濾過,魚介類の生息,観光をはじめ,いくつもの生態系サービスの機能があるといわれてきましたが(Defeo et al 2009),国際的な生態系サービス区分(Common International Classification of Ecosystem Services: CICES)に基づく最新の研究では,56種類にも及ぶことが示されています(Harris and Defeo 2022)。そのうち半数以上の35種類のサービスが,生物の存在があってこそ成り立つものであり,生物の存在がいかに大切かということがわかります。CICESでは,大きく3つのサービス,調整・機能サービス(Regulation and Maintenance),供給サービス(Provisioning),文化的サービス(Cultural),に区分されています。それぞれ例をみてみましょう。
この,植物による減災効果について,最近より関心が高まっています。気候変動に伴う海面上昇,高潮の頻発,嵐の強大化による沿岸域の被害が,連日のように報道されるようになった昨今,コンクリート製の硬構造物に頼ったこれまでの海岸保全策の限界が見えてきたのかもしれません。しかし,減災効果が発揮されるには,単に植物が生えていればいいわけではなく,植物の地上部・地下部の形状や株の分布パターン(Figlus et al 2022; Lammers et al 2023; Woods et al 2023),土壌中の微生物との共生関係(Farrer et al 2022)など,細かな点に注意しなければなりません。実際の砂浜を使って植生の効果を調べた研究では,人工的に海浜植物を移植した実験区では,植物が発達するにつれて小動物が増えたばかりか,植生を取り去り整地した対照区に比べて,海岸侵食からの回復力が高まる傾向が観察されました(Johnston et al 2023)。一方,砂浜への植物の移植は,一般市民による砂浜保全活動としてもよく行われるものですが,移植したばかりで根の発達が不十分な場合,大波によってかえって侵食にさらされる恐れがあることもわかってきたので(Feagin et al 2023),安易な植栽には注意が必要です。
供給サービス:砂浜の供給サービスの一つに,漁業資源があります。日本では,古くから地曳網漁業が代表的な砂浜の漁業として全国で行われてきましたが,漁獲量は年々減少し,平成19年からは国の漁業統計(漁業養殖業生産統計年報)にも,個別では計上されなくなりました。しかし,海外では,砂浜での貝類の採取などが地元の主要な生活の糧となっている地域があり,砂浜は重要な漁業資源供給の場所となっています。
文化的サービス:砂浜には健康の増進や保養の効果があります。実際,海岸砂丘を登り,緑の砂丘の草原越しに,青色の海が広がる一瞬は,実にすがすがしいものです(図4)。植生の緑と海の青との自然のコントラストが,爽快感を一層かきたてるのでしょう。さらに,生物も含めた自然の砂浜の存在そのものが,後世へ残すべき価値をもっています。
図4 砂浜の生態系サービス:健康増進・保養効果
砂丘植物の緑と海と空の青のコントラストが,爽快感を一層かきたてる(鹿児島県 吹上浜)。
ところで,どのような生態系サービスにしろ,生物の生存に必要な環境条件が整っていなければなりません。ですから,ツーリズム目的であろうとなかろうと,人工的に砂浜に手を加える時は,そのことに十分配慮しなければなりません。たとえば,護岸のような硬構造物が設置されると,ハマトビムシやスナホリムシなど砂浜生物の個体数が減ることは,いくつもの研究で明らかにされています(たとえば,Jaramillo et al 2021)。また,養浜は天然の砂を撒くだけなので,一見,生物にやさしいと思われがちですが,生物への配慮を欠いた蒔き方(材質,投入する時期,範囲,厚み,頻度,工事用車両の移動,など)をすれば,押しつぶしたり,移動を妨げるなど,生物の生活を大きく脅かし(de Schipper et al 2021; Paris et al 2023),生態系サービスの質を著しく低下させます。
このように,生物が存在することはツーリストビーチにとっても好ましいことですが,生物の存在を手放しでは喜べない場合もあります。それは,人に害を及ぼす危険性がある生物との遭遇による事故で,とくに,海水浴場や観光客が多く訪れる砂浜では,重大な問題となります。クラゲやサメについては,日本でも海水浴シーズンには注意が払われ対策がとられていますが,最近カリフォルニアでは,浜へ上陸したアシカによる人への攻撃が報じられました。赤潮プランクトンがもつ神経性の毒素(ドウモイ酸)が食物連鎖を通してアシカに蓄積した結果,神経系に支障が生じて荒くなった個体に,人が不用意に近づいたことで噛みつかれたようです(Lin 2023; NOAA Fisheries 2023; Studley and Sottile 2023)。また,同じく米国では,近年の温暖化が一因だと考えられる,砂浜や海岸砂丘への毒ヘビの増加が報告されています(Leatherman and Rangel-Buitrago 2023)。
3.新たな3Sへのシフト
改めて,新しい3Sのポイントを示すと次のようになります。
ところで,大事なことは,新しい3Sを一般の人々向けのスローガンとして終わらせるのではなく,ツーリズムの質の維持と両立させながら,実際の砂浜の管理戦略に組み込むことです。しかし,そう簡単なことではないでしょう。たとえば,「ラックが存在しつつも楽しめる海水浴場を運営するには?」,「多少の不便さは我慢してもらっても砂丘や植生を越えて海辺にアプローチするには?」,「足をチクチク刺す小さな虫がいても,生態系のために我慢して!」などなど。いずれも,従来のツーリズム視点からは受け入れがたいことでしょう。でも,事業者側が嫌がるこれらのストレートな問いを,まずはステークホルダー(利害関係者)間で共有することがとても大切です。
コロナ禍による現代社会の大々的な活動停滞(アンスロポーズ)によって,世界中の観光は下火になり,砂浜生態系では一時的にオーバーツーリズムの影響が軽減されるという効果もみられましたが(Costa et al 2022; Lewis et al 2022; Soto et al 2021),大幅な規制緩和に伴い,観光需要は急激に盛り返しています。すでに,日本ではコロナ以前から観光立国が成長戦略の重要な柱の一つとされており,砂浜については,地域に根ざし,グローバルに拓けた,体験型コンテンツを充実させた総合的なビーチリゾートの創出が謳われてきました。しかし,それらの施策に描かれている砂浜のイメージは,旧来の3Sそのものであるばかりか,ポストコロナ・ウィズコロナの時代には,コロナ禍による遅れを取り戻すため,事業の推進に一層の拍車がかけられそうな予感がします。都市部の砂浜や,すでに高度に観光地化した砂浜では難しいことかもしれませんが,ツーリズム視点の旧来の3Sフィルターを通して築いてきたこれまでの砂浜観を,見直す時がきているのではないでしょうか。
アンスロポーズ(anthropause):COVID-19に伴って世界的に生じた現代社会の活動停滞現象を表す造語(’anthropo-‘ 人類 + ‘pause’ 停止)として,Rutz et al (2020)によって提唱された。アンスロポーズにより,世界規模でさまざまな社会活動や経済活動などが停滞したが,一方で,自然環境にとっては人為的な圧力が一時的にでも弱まるという効果があった。
オーバーツーリズム(overtourism):過度な観光客の集中により,交通渋滞,騒音,治安,風紀,環境汚染,環境破壊,野生生物への悪影響,過度なインフラ整備など,自然環境や社会環境に悪影響が現れること。観光公害とも呼ばれる。
シリーズ「浜を読む」
- 浜を読む① ~砂浜という環境の多様性~
- 浜を読む② ~サーフゾーンの魚たち~
- 浜を読む③ ~浜辺のプラスチック~(前編)
- 浜を読む③ ~浜辺のプラスチック~(後編)
- 浜を読む④ ~波の花~
- 浜を読む⑤ スリーエス(3S)~優れた砂浜の合言葉 いま・むかし~
関連リンク
【参考文献】
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