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2023.06.30(2024.06.19 更新)

防災と渓流環境復元の両立を目指した治山事業の報告書が完成しました!

報告

専門度:専門度3

治山施設の比較図

渓流の連続性を確保した治山施設(:No.2ダムの撤去に伴い、防災上のリスクを担保するため、No.2の下流側に設置した保全工、:新設した段差のないNo.5-1ダム)

テーマ:生物多様性地域戦略川の保全

群馬県みなかみ町で進める「赤谷プロジェクト」では、2005年より、茂倉沢(延長約3km)にて渓流環境の復元に取り組んできました(以下、茂倉沢治山事業)。

2022年度末、その成果をまとめた「茂倉沢における防災と渓流環境復元の両立を目指した治山事業」総括報告書が完成しました。

赤谷プロジェクト20周年成果集(関東森林管理局ホームページ)

群馬県みなかみ町の約1万haの国有林「赤谷の森」を対象に、地域住民、林野庁、NACS-Jが協働して、生物多様性の復元と持続的な地域づくりを進めるプロジェクト。

17年に及ぶ渓流復元の取り組み

茂倉沢における渓流環境の復元を目指した工事を、2009年から開始し、2013年に完了しました。本流にあった治山ダム全8基のうち、4基が老朽化で底が抜けてしまったため、1基は撤去、1基は中央部を撤去、2基は倒壊した状態のままにすることで、渓流の連続性を確保しました。また、防災機能を保つため、既存のダム残り4基のうち2基を補修、渓流の連続性を確保した治山施設を新たに3基設置しました。

茂倉沢治山事業の効果を、防災と渓流環境復元の両面から評価するために、定点撮影、土砂移動量、瀬淵・倒流木、渓畔林分布、水生生物(カワネズミ・底生動物)などのモニタリング調査を工事完了後も継続してきました。2019年10月と2020年9月に茂倉沢治山事業を開始して初めて10年確率(10年に1度の割合で発生しうる大雨)を超える、30~40年確率の日雨量を観測したことから、17年間に及ぶモニタリング調査に基づく総合評価を行いました。

評価の結果、防災と渓流環境復元の両立を目指した茂倉沢治山事業は、その狙い通りに防災機能を発揮しつつ、本来の渓流環境を復元していると評価できました。特に中央部を撤去したNo.2ダムの上流側(区間3-2)では、活発な土砂移動により、淵の形成と消失が繰り返し発生し、多様な瀬淵構造が復元しており、その発生状況は治山ダムのない自然渓流と同程度でした(グラフ⑤)。

防災機能においても、No.2ダムの下流や、新設した保全工付近で土砂が堆積する傾向が確認されており、No.2ダムで残した袖部や保全工によって土砂移動を抑制していると評価しています。

茂倉沢治山事業で、渓流の勾配、集水域の森林の状況、下流域の保全対象などを総合的に評価することによって、既設の治山ダムを改修する際に、渓流環境に配慮した治山施設が整備できる実例を示すことができました。今後、この実例を広く発信することにより、渓流環境復元の取り組みを広げていきたいと考えています。詳しく知りたい方は、ぜひお問い合わせください。

No.3ダムの撤去前・後の比較写真①撤去前のNo.3ダム(2005年撮影)→②No.3ダム撤去後(2021年10月29日撮影)

ダムの位置を示した地図の画像③茂倉沢の人工構築物の位置

No.2ダムの写真④中央部撤去後のNo.2ダム

区間別新規淵形成数のグラフ⑤区間別期間別新規淵形成数(100mあたり)
淵の存在は魚類の生息状況、密度や現存量に重要な役割を果たしている。新たに形成された淵の数を100mあたりに換算し、区間毎に比較したグラフ。自然渓流(区間1と6-2)と、中央部を撤去したNO.2ダムの上流(区間3-2)は、2018年と2020年の両方、安定して淵が形成されている。

防災機能と渓流環境保全の評価の考え方をまとめた図⑥防災機能と渓流環境保全の評価の考え方

担当者から一言

出島さんの顔写真

リポーター
生物多様性保全部 出島誠一
今年の森林林業白書の特集は「治山対策」です。残念ながら茂倉沢の事例は記述されていませんが、治山の歴史がまとまっています。防災に、生物多様性保全を入れ込む取り組みはまだまだこれからです。

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