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2023.06.28(2023.06.30 更新)

【配布資料】今日から始める自然観察「しゃがんで観てみよう! アリの行動観察」

観察ノウハウ

専門度:専門度2

今日から始める自然観察のページ画像

テーマ:環境教育

フィールド:森林公園住宅地

【今日から始める自然観察】しゃがんで観てみよう! アリの行動観察(PDF/2.2MB)
<会報『自然保護』No.594より転載>
このページは、筆者の方に教育用のコピー配布をご了解いただいております(商用利用不可・抜粋利用不可)。ダウンロードして、自然観察などでご活用ください。

アリは、公園や道の脇、家の庭などにごく普通に見られる生きもの。巣をつくり、その中で女王アリ、働きアリ、幼虫たちが一緒に暮らす社会性昆虫で、面白い暮らし方をしています。今回は、身近で見ることができるアリによる構造物や、アリの行動を中心に紹介します。

寺山 守(東京都立大学大学院 理学研究科客員研究員)、写真:久保田 敏・小川尚文


アリが作った小山

アリの行列が、こんもりとした土の山に続いている光景を時々見かけます。この小さな山は、小型のトビイロシワアリが、セミやミミズなど大きくて単独では持ち帰ることのできない餌を、土や砂で埋めて作ったもの。小山の中で、大きな餌の体液成分だけを取り込み、最後には外側の固い外骨格のみが残されます。この行動は、大型のアリや行列を作る他のアリに餌を奪われないようにするためのものだと考えられています。

この行動を観察したい時は、キャラメルをトビイロシワアリの行列の脇に置きます。すると、アリは最初の数日で、キャラメルをかじりながらも、どんどん土で覆っていきます。一週間ほど経ってから、そっと小山を壊してみると、キャラメルが全て食べられていることが分かります。砂糖水だとどんどん吸い取って巣に持ち帰ってしまい、このような小山をあまり作ってくれません。

トビイロシワアリやクロオオアリ、クロヤマアリのような雑食性のアリの場合は、餌として植物のタネから昆虫の死骸まで何でも集めます。巣に運び入れた餌は、巣内で働きアリが皆で食べます。また、咀嚢という器官に食物を貯め、幼虫や他のアリ、女王に餌を吐き戻して口移しによって栄養分を分け与えます。

ウロコアリなどの捕食性のアリは、動物質の餌を集めます。捕食性のアリは獲物をそのまま幼虫に与える種が多いようです。

また一方で、トビイロシワアリを含む比較的多くのアリが、巣内で死んだ仲間を、巣外に運び出して捨てます。カビが生えやすい巣内の衛生環境を保つために発達した行動でしょう。

身近なアリたちも、ちょっと注意を払って観察すると、いろいろな面白い行動が見えてきます。

死骸の周りの小山は誰のしわざ?

左の写真の小山は、トビイロシワアリが作ったもの。小山をそっと崩してみると、中から昆虫の死骸やあめ玉などが出てきて、働きアリたちが盛んにこれらにかじりついている姿を見ることも多い。トビイロシワアリは、大きくて運べない餌があると、砂や枯れ葉の欠片などを使って、餌をどんどん囲い込み最後は完全に覆ってしまう。

セミの死骸のある小山の写真

ミミズの死骸の入った小山の写真

砂で覆われたセミの死骸(左)とミミズの死骸(右)(写真:若林輝)

木の幹上にあった土製のトンネル道

土中の巣から樹上へ頻繁に行き来するトビイロケアリやハヤシケアリは、自分たちがよく使う木の幹上のアリ道を、土で覆ってトンネル状にする。また、クロクサアリやヒラアシクサアリは、木の根元にある巣のまわりを木の繊維で作った構造物で取り囲む。これらのトンネルや木の繊維でできた構造物は外敵から身を守るためだと考えられる。

木に作られたトンネルの写真トビイロケアリのトンネル道。

山にあった枯れ草の小山

本州中部の山や高原へ行くと、枯れ草や枯れ葉、小枝が集まって小山のようになっていることがある。中には直径30cm以上あるものも! これはエゾアカヤマアリが作ったアリ塚(巣)で、振動を与えると、 中からアリがどんどん出てくる。北海道では平地でも見られる。枯れ草で作ったアリ塚の中は、太陽光を受けて気温よりも暖かい。

枯れ草の小山の写真

なぜ列を作って歩くの?

アリが行列を作るのは、大きな餌を効果的に持ち帰るためか、もしくは引っ越しのため。引っ越しの行列の場合は、餌ではなく、幼虫やさなぎ、羽化して間もない若い個体を大あごで挟んで運ぶ行動が見られる。また、アミメアリは特定の巣をもたず放浪生活をするので、常に行列を作っている。
行列を作るアリは、腹部の先端から出る「道しるべフェロモン」と呼ばれる化学物質を地面に付け、他のアリがこの物質に反応することで行列ができる。
全てのアリが行列を作るわけではない。クロヤマアリやクロオオアリでは長い行列を作らず、働きアリは単独で活動する。

アシジロヒラフシアリの写真アシジロヒラフシアリの行列

女王様の結婚式はいつ?

アリの巣では、一年に一度、翅を持つ新女王とオスが巣から飛び立って行く結婚飛行が見られる。結婚飛行はアリの種によって行われる時期や時間が決まっている。結婚飛行が行われる時は、巣口の周辺に飛び立つ直前の新女王とオスだけでなく、翅のないたくさんの働きアリも見られ、まるでお祭り騒ぎのようだ。

クロオオアリの集団の写真結婚飛行直前のクロオオアリ

観察するには、事前に巣の場所とそのアリの結婚飛行の時期と時間を調べ、時々点検に行くと結婚飛行に出合う確率が上がる。

観察しやすいアリの結婚飛行

種名
観察できる時期と時間
クロナガアリ
4月下旬~5月、午前
クロオオアリ
5~6月、午後
ヒラアシクサアリ
7~8月、夜から明け方
トゲアリ
8~11月(10月が多い)、午前
キイロシリアゲアリ
8月下旬~10月上旬、午後~夜

土製の小山をつくるヒアリ

ヒアリは、南米を原産地とするアリで、強い毒を持つ。アメリカ合衆国に運ばれたヒアリは爆発的に分布を広げ、多くの被害が出ている。近年、日本でも頻繁に港で発見され、定着されないようにと監視が続けられている。

ヒアリの巣とヒアリの写真左:ヒアリの巣、右:ヒアリの働きアリ(名古屋港で発見されたもの)

ヒアリは高さ50cmにもなる富士山型の特徴的なアリ塚を作る。土製のアリ塚には巣口がなく、地下にトンネルがある。日本のアリでこのような巣をつくるアリはいない。このような巣を見かけたら直ちに下記に連絡を!

環境省ヒアリ相談ダイヤル:0570-046-110
※一部の機種では利用できない。つながらない時は06-7634-7300まで


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