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2023.06.08(2023.06.08 更新)

6月8日は World Oceans Day(世界海洋デー)ネイチャーポジティブ実現に向けた沿岸域の生物多様性の取組

解説

専門度:専門度2

瀬戸内海西部 周防灘の端に位置する上関。アカモクの藻場を住処にするメバル類は地域の名物。産卵期の漁獲圧を減らすために、未利用魚の活用を推進する取組を進めている。

テーマ:海の保全生息環境創出自然資源

フィールド:

今日6月8日は、 World Ocean Day(世界海洋デー) です。

2008年に国連総会で制定され、海や海と人とのつながりに思いを馳せ、海の大切さについて考える日とされています。

ここでは、私たちの生活を支え、文化を創ってきた海に、今起こっていることについてご紹介していきます。

World Ocean Day である今日、皆さんにとっての身近な海を思い浮かべながら、海や海とともにある暮らしを未来につないでいくためのアクションを起こしませんか?


2022年12月に「昆明・モントリオール生物多様性枠組」が採択され、生物多様性の分野で世界が目指す方向性が決まりました。その中で、2030年ミッションとして、生物多様性の損失を喰い止め回復軌道に乗せること(ネイチャーポジティブ)が合意されました(※1)。

日本自然保護協会(NACS-J)の海の活動も、2030年日本の沿岸域のネイチャーポジティブ実現を目指して活動しています。

「沿岸域」は、海岸線をはさみ、陸と海とを包括した概念です。沿岸域の定義は様々で、国によっても、話される文脈によっても異なります(※2)。

雲の間から日が差す焼内湾の写真 奄美大島宇検村の焼内湾と湯湾集落。山から海までの距離が近い、典型的なリアス海岸の地形。

沿岸域は人と自然とが密接に関わり合う場所でもあります。

たとえば、海に面した広い田んぼが住宅地になったとします。海岸沿いには道路ができて、雨水は道路脇の側溝から地下の土管に流れ、土管から海へ流れます。宅地から土砂が流出しないように、地面に基礎が打たれ、水は上下水道管を通って行き来するようになります。

小さな川は暗渠となるか、流れを地下に誘導されて、地下水路から大きな川に合流します。このとき、海に流れ込む水や土砂、それらが運ぶ有機物は量・質とも、広い田んぼがあったときと大きく変わります。

海と人の生活とが近い日本の沿岸域では、何気ない陸上での生活環境の変化が、海中の環境に影響を与えています。私たちの活動では、この陸と海との物質循環や生態系のつながり、人と海との相互関係にも注目しています。

大きな土管から水が流れている写真 海岸沿いの土管から海に流れ込む排水。住宅街や農地等からの水が地下浸透することなく、直接海へと流入している。このような構造は、日本の海岸部では珍しくない。

日本人は、縄文時代から、漁撈活動や海上交通などで海辺の自然を利用してきました(※3、4)。地域で育まれている歴史や文化は自然から影響を受け、その場所の自然も人が継続して利用し続けることで変化してきました。日本の沿岸域の自然環境の多くは、このようにして成立しています。

海に及ぼされる陸からの影響は、陸の自然環境の状態だけでなく、地域の産業構造や社会環境のあり方によって土地利用も異なるため、一つとして同じ場所がないところが、とても興味深く、とても難しいところです。

籠をぶら下げて佇む漁師の写真図 奄美大島北部の佐仁集落北側に広がる礁池でタコを獲る漁師さん。陸上では伝統的な手法で野菜などが栽培されている。

近年、海辺の地域では、地域課題が山積しています。人口減少による人手不足と地域経済の落ち込みから、海の自然を守り・回復させる取組がスタートできない、継続できないなどの状況が起こっています。私たちは、生物多様性保全・回復に関心をもってくださる地域の方々と共に、各地域の課題の解決と海のネイチャーポジティブの実現とを同時に目指す方法を、日本の各地で試行錯誤したいと考えています。

そのために進めているのが、異なる分野の方々とのパートナーシップで行う取組です。各地の漁業者の方はもちろんのこと、地域の伝統文化の継承をされている方、子どもの居場所作りを進めている方、持続可能な観光を目指している方、自然農法にチャレンジする農家さんなどと、それぞれが解決したい課題を持ち寄り、共に解決する方法を模索しています。

一見、海の生物多様性に関係なさそうな取組でも、紐解いていくと、地域の人と自然が抱える共通の課題が見つかります。人と海との距離が近い日本の沿岸域だからこそ、海のネイチャーポジティブの実現のためには、地域社会も元気にする活動のあり方が求められていると感じます。

白い芝生のようになった水田の写真 三重県尾鷲市向井地区の耕作放棄水田。ここでは、子どもたちの遊び場づくりと自然体験、冬に水を張って生物多様性を回復させる取組を予定している。

NACS-Jは、専門家・企業・住民・自治体等異なる主体をつないだり、グローバルとローカルの課題をつないだり、分野や地域を横断してひとびとをつなぎ、2030年ネイチャーポジティブの実現に向けて活動の土台を作る役割を、これからも担っていきたいと思います。

日本の海を大切に次の世代へと引き継いでいくために、ふるさとで、大好きな土地で、いっしょに取り組んでみませんか?

生物多様性保全部 中野

参考文献

※1
道家哲平. “昆明-モントリオール 生物多様性世界枠組みについて”.
https://www.biodic.go.jp/biodiversity/about/treaty/files/3_kmgbf.pdf
※2
翟国方・鈴木武. 総合的沿岸管理に関する基礎的研究. 国土技術政策総合研究所資料. 2008. 473, 1-12
※3
小宮孟. 貝塚産魚類組成から復元する縄文時代中後期の東関東内湾漁撈. Anthropological Science (Japanese Series). 2005. 113-2, 119-137
※4
岩本才次. 昔の日本の船事情. 日本航海学会誌 NAVIGATION. 2006. 164, 24-46

NACS-Jでは 日本の海を守る活動を進めています

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