2023.04.24(2023.04.28 更新)
【配布資料】今日から始める自然観察「ナラ枯れで更新される雑木林」
観察ノウハウ
専門度:
テーマ:環境教育里山の保全
<会報『自然保護』No.593より転載>
このページは、筆者の方に教育用のコピー配布をご了解いただいております(商用利用不可・抜粋利用不可)。ダウンロードして、自然観察などでご活用ください。
ナラ枯れとは、夏から秋にかけ、急に樹木が枯れてしまう伝染病です。夏はナラ枯れの原因となる菌を拡散するカシノナガキクイムシが木の中から出てくる季節です。ナラ枯れの兆候や樹木が枯れた後に周辺がどうなるのか観察してみましょう。
秋山幸也(相模原市立博物館学芸員、自然観察指導員講習会講師)
ナラ枯れってどんな病気?
ナラ枯れとは、カシノナガキクイムシ(以下、カシナガ)という昆虫がもたらすナラ菌を原因とした樹木の感染症です。カシナガは、雑木林を構成するコナラやミズナラなどのブナ科の樹木の幹の中に穴を開けて生活します。また、カシナガはナラ菌を媒介し、成虫となったカシナガが分散して別の木へ移動し、繁殖することで感染を広げます。
ナラ菌に感染すると、幹の中の水分を通す組織に障害を起こし、ひどい場合は枯れてしまいます。梅雨が明けて真夏を迎えるころ、感染した木は葉が急に茶色くなって症状が目立つようになります。
残念ながら、ナラ枯れを完全に抑え込んだり、防いだりすることはできません。枯死した樹木を放置すると、翌年さらに被害が広がります。
ナラ枯れの被害が多いのはミズナラとコナラ
カシノナガキクイムシ(成虫)体長は約5mm。6月ごろから羽化して樹木から出て分散し、他の木に穿入する。この時、集合フェロモンを出して多数のカシナガが集まり、繁殖する。穴の壁面で増殖した菌類を餌にする。
幹にシートを巻かれたり、粘着剤が塗られたミズナラやコナラを見かけたら、ナラ枯れの予防のために対策している可能性が高い。このような対処療法で、ある程度感染の予防はできるが、地域内のすべてのミズナラやコナラをラッピングするわけにもいかない。一方、公園など人が入る場所で枯死した木は、安全管理のために伐採する必要が生じる。
大木ほど影響がある?
雑木林を歩いて、ナラ枯れにかかる木を見ていくと、大きな古い木ほど被害を受けているように見えます。これはナラ枯れを考える上で重要なポイントです。かつて、エネルギー源としての薪や炭の原料を供給した雑木林が役割を終え、放置されることが増えました。コナラなどが大木化、古木化し、カシナガが大繁殖する環境が整ったのです。つまり、私たちが放っておいた雑木林が、ナラ枯れによって、少し強引に更新されたと見ることもできます。
枯死したり伐採したりした木のまわりは、日の光が林内へ届くため、地表近くの植物が茂るようになります。思わぬ植物が目を覚まして伸びてきたり、別の種類の木の幼木が成長したりするなど、雑木林の様子が急激に変化するはずです。私たちは、そうした変化を把握しつつ、雑木林のこれからを考えていく必要があるでしょう。
ナラ枯れしそうな木にはどんな変化があるか観察しよう
穴から樹液を出すコナラ。樹液が発酵して泡状になっている。
カシナガの開けた穴。直径約2mmで、地表近くから3mくらいまでの高さに多い。
カシナガが大量に繁殖したコナラの幹。樹皮に木くず(フラス)がこびりついている。
カシナガにたくさんの穴を開けられると、木が防衛反応として樹液を出すことがよくある。すると、カブトムシなど樹液食の昆虫がたくさん集まる。
キツツキ類による採食痕。カシナガの天敵はキツツキ類。目ざとく穴を見つけ、カシナガを追って幹を掘り進めたようだ。これも、木にとっては二重のダメージになる。
幹の根元に木くず(フラス)が降り積もる。カシナガ大発生の目印になる。
ナラ枯れした木の周辺ではどんな変化があるか探そう
ナラ枯れによって林内に光が入ることで、キンランやギンランなどの植物の開花が多くなる可能性がある。ただし、ほかの植物も成長の勢いが増すので、放置すれば結果的にヤブ化が進むことになる。
各地でナラ枯れとともに発生しているカエンタケ。ナラ枯れのまん延以前は幻のキノコと言われるほど珍しい種類だった。ナラ菌とカエンタケにはどのような関係があるのだろうか。触るだけで皮膚に炎症を起こすと言われているので要注意。
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