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話題の環境トピックス

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2023.04.07(2023.04.08 更新)

【期間限定公開記事】1から知りたい環境アセスと自然保護

解説

専門度:専門度3

テーマ:生息環境保全モニタリング森林保全自然環境調査環境アセスメント

昨今、風力発電や太陽光発電など再生可能エネルギー事業の推進により、私たちの身近な自然に開発が入る機会が増えています。事業者は自然環境への影響をどのように対応するのか?

私たちはどのように関われるのか? 開発事業に伴う環境アセスについて、1から学んでみたいと思います。(会報『自然保護』2022年3-4月号特集より抜粋)


環境アセスを1から知る Q&A12

環境アセスについて理解を深めるための基本を環境アセスの専門家である錦澤滋雄さん(東京工業大学准教授)にお聞きしました。

Q1:そもそも環境アセスってなに?

A:開発事業を環境に配慮してより良いものにするための手続きです。

環境アセスメント(略して環境アセス)とは、環境に著しい影響を及ぼすおそれのある事業などの人間活動について、その影響を事前に予測・評価して環境配慮する手続きです。法律や条例上の整理としては許認可法ではなく手続き法に属するものであり、事業自体を規制するものではなく、あくまでも事業をより良いものにするために行われるコミュニケーションとしての手続きとなります。

イラスト:江崎善晴

Q2:環境アセスって、どこの誰がやるの?

A:事業者が自ら行います。

国や自治体が定める基本的事項や技術指針などを参考に事業や地域の特性を踏まえて事業者自らが調査・予測・評価します。アセスが適切に行われているかは行政の担当部局がチェックします。

調 査

  • 既存の資料などを集めて整理する
  • 実際に現地に行って、測定や観察を行う

予 測

  • コンピューターなどで各種の予測式に基づいて計算
  • 景観などでは3D動画や合成写真を作成

評 価

  • 実行可能な最大限の対策がとられているか?
  • 環境保全に関する基準や目標などを達成しているか?

Q3:環境アセスをしない開発事業もあるの?

A:事業種や規模で不要とされる事業もあります。

開発事業はその規模により、国による環境影響評価法(アセス法)に基づいた「法アセス」と、自治体が制定した条例に基づいた「条例アセス」を行うことが定められています。規模によっては法アセスや条例アセスを行う必要のないものもありますが、その際も事業者が自主的に環境アセスを行う「自主アセス」が勧められています。

太陽光発電における環境アセスの適用例

Q4:環境アセスは開発事業を止められる?

A:環境アセス自体は事業を止めるものではありません。

法アセスや条例アセスは、法律や条例でその事業を認めて良いか否かを判断するものではありません。事業を進める上で「このような手続きを踏まなければならない」と義務づける仕組みです。ですから定められた手続きを事業者が適切に進めれば、事業に反対する人や団体がいたとしても環境アセスの手続きが完了することはあります。ただ、アセス手続きの中に設けられる環境大臣意見や知事意見において、事業に対して厳しいコメントが出されることがあり、事業によっては中止の判断を迫られる場合もあります。環境アセス自体は事業を止めることが目的ではなく、「環境配慮」というアプローチで事業をどのように良くしていくのかという仕組みなのです。

イラスト:江崎善晴

Q5:では環境アセスで自然は守れない?

A:守る方向には働いていると思います。

何をもって「自然が守られた」とするのかは難しいところがありますが、社会環境と自然環境の双方に配慮してより良い決定をするのが環境アセスの精神ですから、生態系や生物多様性を守る方向に働きかける役割は果たしているかとは思います。また、環境配慮に加えて住民とのコミュニケーションに重きを置いていることも環境アセスの特徴です。例えば、ある場所の森林を守っていきたいという地域住民の思い入れや要望が強ければ、それはより重視すべき意見として扱われるケースが多いということです。ただ、事業者の自主的な判断に委ねられる部分がありますから、住民が納得するような形で守られることもあれば、不十分なケースもあります。丁寧なコミュニケーションを通してこのギャップを埋めていくことが大切です。

風力発電や太陽光発電などの再エネ開発事業は今後、ますます私たちの身近な自然環境に及ぶ可能性が高まっている。大切なことは環境アセスを正しく知ること。

Q6:実際に誰がどんな調査をするの?

A:調査の責任主体は事業者ですが、多くの場合、

環境コンサルタントに依頼されます。
法アセスで定められている環境要素の区分は下表の通りですが、絶対にこれをやらなければならないというものではなく、あくまでも参考項目として国が示しているものです。自治体による条例アセスは、地域特性に応じてより柔軟に項目を立てられる仕組みとなっています。例えば「交通安全」や「文化遺産」への影響など、さらに独自に項目を加える場合もあります。また、多くの事業者は自分たちで調査できる能力を持っていませんので、ほとんどの場合は環境コンサルタントに依頼して調査を行っています。調査の期間や範囲は事業や地域の特性を踏まえて個々に検討され、住民の意見に応じる形や各分野の専門家が集まる審査会を通じてチェックされることにより、足りないと判断された場合には善処する形となります。

イラスト:江崎善晴

Q7:自主アセスに決まりはあるの?

A:やり方は定められていません。

環境省や各自治体、事業団体などが参考になる環境配慮ガイドラインを作成しています。それらに沿ってセルフチェックしていくことができると思います。私は環境省の出した太陽光発電における環境配慮ガイドラインの作成に関わりましたが、簡素化できるところは簡素化する一方、土砂崩れが起きないよう土地の安定性については厳重にチェックするようにするなどメリハリのある仕組みとしています。また1ページ目で事前の自治体への相談や地域住民への説明会や意見収集などコミュニケーションをとる重要性についても記してあります。

錦澤さんも作成に関わった環境省による「太陽光発電の環境配慮ガイドライン」(2020年3月公表)。特に大切な要点が分かりやすく整理され、自己診断できるチェックリストも付いている。

Q8:事業の実際の稼動前に予測するだけじゃ環境配慮として不十分じゃないの?

A:そこが環境アセスの課題だと言えます。

建設段階に加えて稼働時も含めた事後のモニタリングをしっかり行い、問題があれば対策を講じる仕組みをアセス法に盛り込むべきだと思います。特に風力発電の鳥への影響や洋上風力の海洋生態系への影響などは稼働後でなければ分からないことも多々あります。現在のアセス制度は公害問題での後追い行政の反省から、事業実施前の対策に重きが置かれていますが、今後は、再エネを主力電源にしていく上で、「事後」のモニタリングや対策の仕組みを考えていくことも必要不可欠と感じています。

風力発電施設のブレードに鳥が衝突するバードストライクは、実際に稼働してみるまで分からない。影響を測るには事後のモニタリングが不可欠だ。

環境アセスメント(法アセス)一連の流れ

配慮書・方法書・準備書・評価書・報告書、など環境アセスの中で事業者が作成する書を「環境アセスメント図書(アセス図書)」と呼ぶ。(▲画像をクリックすると大きくなります)

アセス図書は後から見ることができない!?

日本では現在、配慮書や方法書、準備書などアセス図書の縦覧には期間が設けられている。世界的にはアメリカなどアーカイブ化している国も多いが、日本の場合は事業者に著作権があるため、公開期間を延ばすかどうかも事業者の判断に委ねられる。住民などからの意見反映の確認や事後のモニタリングの観点からもアセス図書はアーカイブ化することが望ましいが、現状は限られた期間で、なおかつ事業者によってはダウンロードもプリントアウトも禁じていることもあることを覚えておきたい。

アセスにアクセス!私たちにできること

ここでは国の枠組みである法アセスの流れに沿って地域住民として、また自然保護団体の一員としてできることを錦澤さんに教えてもらいます。

Q9:地域住民の私たちにできることは?

A:まず何よりも参加することです。

1999年の環境影響評価法(アセス法)施行以前に行われていた閣議アセスの時代は、配慮書も方法書もなく準備書の段階でアセス図書の縦覧と説明会が行われ、その後に住民意見を提出しても事業者が十分対応せずに進んでしまうことが少なくありませんでした。アセス法以降、方法書が生まれ、住民は調査・予測・評価が行われる前に意見を伝えることができるようになりました。そして2011年の法改正から、方法書の前に配慮書が加わり、地域住民は配慮書、方法書、準備書の段階で内容を知って意見を述べる機会を得たわけです。環境アセスはあくまでも手続きであり、合意形成が必ずしも必要とされているわけではありませんが、アセスを通して住民は事業の内容をあらかじめ知り、事業者とのコミュニケーションをとるきっかけとなる仕組みであると思います。

何ができる?

  • アセス図書を見たり説明会を聞いて内容を知る
  • 住民として心配事や意見を伝える
  • 住民だからこそ知る地域の情報やアイデアを提供する
  • 最終的な事業者の判断を評価する

Q10:意見を伝える際によくある誤解は

A:事業の可否を問う声が多いです。

「事業をすべきではない。事業に反対」という事業の可否を問う意見が多く集まりがちですが、それはアセスとはなじまない意見です。「すべきではない」だけではなく、どのように配慮して改善をすれば良いのかを伝えることが大切です。事業者が必要な環境への配慮を行うのが難しいと考えた時、事業が止まることはあるかもしれませんが、あくまでも可否を問う場ではないということを意識した方が有効な意見を伝えることができると思います。

意思を伝える要点

  • 可能な限り、早い段階で意見を伝える
  • 自然環境そのものだけでなく、住環境や暮らし、生業とのつながりを説明する
  • 準備書段階で計画の変更を求めるには新知見が必要
  • メディアや地域の自然保護団体などとの連携を図る
  • 事業者の立場も尊重して相互の理解を探る

Q11:自然保護団体の役割は?

A:地域住民の気付かない自然環境の価値を伝えることではないでしょうか。

地域住民はまず自分たちの生活に影響が出る心配をします。風力発電なら騒音、太陽光発電なら土砂災害や反射光など。もちろん身近な自然環境や生きものへの影響も気になるとは思いますが、第一は住環境でしょう。自然保護団体は自然環境や生態系のスペシャリストであり専門家ともつながりのある団体ですから、地域の希少な生きものたちの利用する場所への影響などについて意見を述べる役割があると思います。地域住民でも気付いていない自然の価値を知る立場からの意見は非常に重要だと思います。また、自然環境への影響を地域住民や専門家との連携で整理した意見書を事業者に提出するとともに、メディアなどに伝え広く知らせることも役割だと感じています。

Q12:配慮書の段階が特に大切と聞きましたが本当ですか?

A:最も事業を動かしやすいのはこの段階。複数案の提案を促しましょう。

事業計画が進む前の配慮書の段階で住民としての意見をしっかりと伝えることで、事業者も計画に組み込みやすくなります。特に複数案の要求は事業をより良くする意味でも良いと思います。配慮書では位置や規模・配置・構造について原則複数案を出すこととされています。海外、特にアメリカのアセスは立地も含めてしっかりとした複数案を比較検討することでより良い事業計画へ練り上げるプロセスが重視されています。民有地の多い日本の場合、アメリカのように立地についての複数案を挙げるのは難しいかもしれませんが、配置や構造に関しては複数案を挙げて比較検討されるべきですから、そこを求めるのは良いと思います。

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