2022.12.18(2023.09.20 更新)
ポスト2020生物多様性枠組み(GBF)は政治決断の舞台へ ― 成否を見極める5つのポイント ―
解説
専門度:
▲各国環境大臣等がスピーチする中、ノルウェーは政府団にユースが入っており、環境大臣の見守る中、ユースが発言を行った。
テーマ:生物多様性条約国際
フィールド:国際会議COP15
12月2日に開催された第5回ポスト2020枠組み作業部会(OEWG5)から、あるいは、23年前の、2019年1月に愛知県名古屋のCOP10会場でのアジア地域対話から始まったポスト2020枠組み(GBF)*の交渉は、18日の未明2時のコンタクトグループ*の終了をもって実務者協議が終わりました。成果文書はこちらからPDFが見られます(※英語)。
閣僚級の交渉で決着をつけることが、黄(こう)COP15議長(中国)より宣言されました。愛知・名古屋でのCOP10を彷彿とさせる「2030世界目標」「資源動員」「DSI*」そして報告・レビューメカニズムを議長提案という形でまとめる流れになっています。
現地時間の18日の朝8時(日本時間18日22時)までに議長提案文書(公開されるか不明)が出され、12時ころ(日本時間19日未明2時)に提案への回答を各国閣僚に依頼することを予告されました(この会合が公開されるかどうかもまだ不明)。
18日で大筋決着がつくのか、それとも19日になるのか、全く見通せない状況ですが、合意の成果を測る判断材料(NGO的評価軸)を紹介したいと思います。
*ポスト2020枠組み(GBF): GBF は ” the Post-2020 Global Biodiversity Framework ” の略称。ポスト2020生物多様性世界枠組み。愛知目標の後継目標に位置づけられる、日本と世界の生物多様性に関する共通目標で、今後10年間の生物多様性施策に大きな影響を及ぼします。
*コンタクトグループ:特定議題を集中的に議論するために、関係する国関係者のみで設定される会合。
*DSI:電子化された塩基配列情報の扱い
1.数値目標か、定性的な目標か
愛知目標の反省の一つに、数値目標をもったターゲットが少なく、成果を測れない(分かりやすい数値がないので、努力の方向が一致しない)というものがありました。
ポスト2020枠組み(GBF)での数値目標では、“ 30by30(陸と海の30%を保護地域、または、その他の効果的な手段で管理される場所(OECM)にする)” が有名ですが、その他にも、各行動目標には下記のような数値目標があります。
- 行動目標2「自然再生」 “20%または30%”
- 行動目標6「外来種」 “侵入あるいは定着率の半減”
- 行動目標7「汚染削減」 “過剰栄養塩の半減、農薬半減または3分の2、プラスチック”
- 行動目標8「気候変動」“10ギガトンのCO2吸収”
- 行動目標15「ビジネスへの主流化」 “ビジネスによる影響の半減”
- 行動目標16「持続可能な消費」 “グローバルフットプリントの半減”
- 行動目標18「インセンティブ」 “有害補助金の500億ドル相当の改革”
- 行動目標19.1「資源動員」 “200億ドル/年”
これらの数字の扱いはポスト2020枠組み(GBF)の意欲度にも直結する重要な判断材料です。
オブザーバー(傍聴者)の希望の反映
そして、各国の政府代表や閣僚ではない、このCOP15で決定権を持たないオブザーバー(傍聴者)である、NGOや先住民地域共同体、ビジネスセクターの声が反映されているかどうかも重要な視点です。
例えば、下記の2~5のようなポイントです。
2.先住民に配慮した行動目標3「保護地域」の 30by30
行動目標3「保護地域」では、何を “ 30% ” にカウントするかという議論の中で、先住民や伝統的な領域(Teritory)を “ そのまま ” 30%にカウントしようという提案がありました。途上国から、先住民地域共同体の寄与があるのだから当然との主張だったのですが、先住民地域共同体からは、先住民地域共同体の自己決定無しに(あるいは、先住民への保障や支援策なしに)機械的にカウントして、30by30を満たそうという動きではないかとの懸念の声が上がり「“ 先住民地域共同体に敬意を払った保護地域やOECMを30% ” と修正してほしい」と主張しています。
3.公平な競争環境のための義務的開示を目指して行動目標15「企業や金融活動と生物多様性(企業への主流化)」
行動目標15「企業や金融活動と生物多様性(企業への主流化)」では、国が大企業や多国籍企業に対して、企業活動による生物多様性への影響に関する情報開示をするよう法的施策を打つにあたり、ビジネスセクター側から「情報開示を “ 義務的(Mandetory)” とするべきだ(より意欲的な目標にするべきだ)」という強いメッセージが出されています。それに対して、途上国の一部の国が “ 義務的 ” を強く拒否して、非合意のブラケット*が付されていますが、ビジネスセクターの声を反映した決定がなされるか注目です。
12月13日:行動目標15「企業や金融活動と生物多様性」におけるドラマティックな交渉場面
12月15日:再び議論となった行動目標15「企業や金融活動と生物多様性」
*ブラケット:まだ合意がなされない文言箇所に [ ] をつけること。 “ ブラケットのまま ” は、合意されていない状態のままということ。
4.自然に根差した解決策の推進 行動目標8と11
行動目標の8と11では、IUCNやその加盟団体が推進する「自然に根差した解決策(Nature-based Solutions:略称NbS)」への言及が成されるかが重要な焦点となっています。行動目標8「気候変動」では、共通だが差異ある責任原則を入れないと、NbSを入れるのに同意しないという、あまり論理的とも思えない交渉で、合意が破綻して先送りとなりましたが、ポスト2020枠組み(GBF)でどう記述されるのか、大変注目です。
5.意欲的目標に合わせた「資金」へのコミット
資源動員戦略では、このポスト2020枠組み(GBF)達成のための新たな資金を、既存の地球環境ファシリティ―(GEF)の特別信託基金として設立するかどうか(あるいは、全く新しい基金を設立するか)が、閣僚級の判断にゆだねられています。この重要な課題に確かな道筋をつけられるかどうかも重要な評価材料です。
しかし、仮に可能性の高い地球環境ファシリティ―(GEF)に作ろうという決定になったとしても、地球環境ファシリティ―(GEF)は国からしか資金を受け取るフローがなく、民間からの受け取りには内部手続きの変更が必要で、先進国が求めるような多様なソースからの資源動員にはなりません。
多くの資金が必要とする途上国の主張も妥当ですが、先進国が主張する、多様な資金源からの資金が速やかに生物多様性の保全に回ることを確保することも重要です。地球環境ファシリティ―(GEF)に新しい基金を作るというやり方では、この先進国の主張がすぐには解決しないことから、多様な資金源からの資金確保のためのロードマップをつくることも重要な判断材料と言えるでしょう。
日本自然保護協会 保護・教育部 国際担当
国際自然保護連合日本委員会事務局長
道家哲平
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