2022.12.17(2023.09.20 更新)
生物多様性の危機的状況を「交渉の敗者」にしてはいけない:COP15(12月14日)の進行
報告
専門度:
テーマ:生物多様性条約国際
フィールド:国際会議COP15
カナダ・モントリオールで開催中の生物多様性条約COP15は、後半戦の2日目、翌日(15日)から閣僚級会合の開催を控え、行政担当官による交渉の佳境を迎えました(12月14日時点)。
周辺では、生物多様性条約締約国会議史上初めて金融に特化した「金融デー」と銘打ったイベント群が開かれ、各種サイドイベント、リオ3条約パビリオン、プラスケベックでは先住民地域共同体デーなど、様々なイベントが展開されています。
第1作業部会と第2作業部会の進捗
主にポスト2020枠組み(GBF)*について議論する第1作業部会関連では、「能力養成」のコンタクトグループ*と、指標に関する議長の友会合(FoC)、そして午後には、ポスト2020枠組み(GBF)の行動目標10、19、3、16の議論、「DSI」、「資源動員」のコンタクトグループなどが開かれました。第2作業部会では、「健康と生物多様性」、「気候変動」、「合成生物学」のコンタクトグループが開催されました。
*GBF:the Post-2020 Global Biodiversity Frameworkの略称。ポスト2020生物多様性世界枠組み。愛知目標の後継目標に位置づけられる、日本と世界の生物多様性に関する共通目標で、今後10年間の生物多様性施策に大きな影響を及ぼします。
*コンタクトグループ:特定議題を集中的に議論するために、関係する国関係者のみで設定される会合。
交渉の勝者と敗者
少しずつL文書*が揃ってきました。締約国の中には、自国の主張を勝ち取った、あるいは、勝ち取れなかったということも出てきているところでしょう。
*L文章:Limited CirculationのL。決定案で、法的チェックや文法チェックなどを残すのみとなった文章
NGOの視点から言えば、自国の主張が通るのも大事かもしれませんが、勝ち取れなかった敗者は誰かということを考えたいと思います。
国際条約というのは、条約に加盟することで、自国の主権を一部国際ルールに委ねるという意味で、自国の自由の制限を受け入れることになります。
しかし、そうしてでも加盟するのは、もっと大きな利益である国際社会や地球全体の利益、地球益とも呼べる成果が、長期に翻って自国の国民や、自国の将来世代にとって価値があるからだと思います。
この交渉の場面は、生物多様性という、自然が持つ「変動に合わせて変化できる力(変異性=Variabilit)」を世界各国がそれぞれ保ち、そこから恵みを受け続けられるようにするという地球全体の利益と、自国の利益、その両方を得る(あるいは、不利益を避ける)ための調整・交渉とも言い換えられます。
交渉が過熱すると、国益対国益の戦いに陥っているように思えるシーンが見られます。その行きつく先は、それぞれの国益が優先されて、地球益がなおざりにされ、生物多様性の損失が続き、回復への道筋が遠ざかることです。
15日から、閣僚級会合が始まり、閣僚レベル(国民が選挙で選んだ人々)の交渉が行われます。
自国の意向を国際社会で通せた政治家を評価することはやめて、地球益を、生物多様性の危機的現状を「交渉の敗者」にしない決断を下す政治家こそ評価することが大事だと思います。
引き続き、交渉の様子をお伝えしたいと思います
日本自然保護協会 保護・教育部 国際担当
国際自然保護連合日本委員会事務局長
道家哲平
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