2022.12.07(2023.09.20 更新)
難航する合意交渉:OEWG5(第5回ポスト2020枠組み作業部会)の振返り
報告
専門度:
テーマ:国際生物多様性条約
フィールド:COP15国際会議
この12月、2年越しの開催となる「第15回生物多様性条約締約国会議(COP15)」が開催されます。
それに先立ち、12月3日から5日にかけて、COP15の最重要議題である「ポスト2020生物多様性世界枠組み(GBF)」の議論を進めるため、予定外で「第5回ポスト2020枠組み作業部会(OEWG5)」が開かれました。
会議の成果があったかというと、期待ほど進まなかったと言えます。非常に多くの宿題をCOP15に先送りした形となりました。
- GBF(ポスト2020生物多様性世界枠組み):the Post-2020 Global Biodiversity Framework
- OEWG5(第5回ポスト2020枠組み作業部会):5th meeting of the Open-ended Working Group on the Post-2020 Global Biodiversity Framework
再びブラケットだらけとなった交渉文章
条約締約国会議では、各国の思惑が行き交い、合意すべき文章に、それぞれのこだわりの文言を入れたい(または外したい、表現を変えたい)という交渉がなされます。この交渉の間に使われる国際会議用語が「ブラケット」といいます。まだ合意がなされない文言箇所に [ ] をつけることを指します。
例えば、
例:私たちは生物多様性を守るために2030年までに[必ず]絶滅危惧種を半分に減らす[努力をする]。
この場合、[必ず][努力をする]が合意されていない文言で、現実的な表現をしたい国と、より高い目標をかかげたい国で意見がわかれて交渉をしていくようなイメージです。
最終的に、全ての文言においてブラケットが外れ、合意がなされることで、その条約締約国会議として文章が採択されるわけです。
しかし、今回のOEWG5では、今年9月に開かれた非公式グループが整理した交渉文書(IGテキスト)の時点で417個にまで減ったブラケットの数が、713 個にまで増えてしまいました(それでも、6月のOEWG4のブラケット箇所が910個だったので前進したとも言えます)。
*それぞれ該当の文書に検索を行って出した数字。IUCN-J調べ
ほとんどの行動目標が、せっかく小グループで内容を精査したにも関わらず、“(装飾がたくさん施された)クリスマスツリー”と揶揄されるほどブラケットだらけの目標案を作るだけに終わってしまいました(行動目標1~8あたり)。クリスマス直前に開催されるCOP15で大量のクリスマスツリーの飾り取りから交渉を始めなければいけないのは色々皮肉なことです。
会議の様子を見ると、よく言われる「先進国と途上国の対立」ではなく、直前の今回ですら各国がそれぞれの国の視点からの希望をいうだけで、地球全体の目標・合意できる未来を探らなかっただけとも言えます。共同進行の会議裁きが不十分だったせいもあります。2050年ゴールの検証も、あるべき未来ではなく、「条約がこれまで使ってきた言葉で整理する」といった作業が行われました。
合意がなされた目標と合意されなかった目標22(ジェンダー対応)
他方、目標20(情報へのアクセス)と目標21(意思決定への参加)は合意がなされました。仮訳を最下部に示しています。
本当はここに目標22(目標達成におけるジェンダー対応)が“合意された”ものとして入る予定だったのですが、最終の本会議でロシアにひっくり返されました。ロシアの主張は、交渉官がビザの発行が出来ず、オンラインでの参加や、参加出来ない事態があったためとの論拠です。ロシア一か国での反対で、合意されない事態が生じたことが残念です。まさしくこれが、「世界共通目標づくり」に対する各国交渉官の立場が象徴されているようにも思います。
とはいえ、個人的な経験ですが、2010年のCOP10の事前会合の際に「men には women が含まれるから、ジェンダーや women というキーワードをわざわざ入れる必要はない」という発言で会場を物凄く白けさせたアフリカの男性の交渉官が記憶に残っているので、ほぼ合意直前の2022年は、2010年時点からすれば隔世の感があります。他方で、この行動目標は、日本にもたくさんの課題があって解決しなければならない目標だと思います。
目標15(企業の主流化)についての議論
類似のことは、企業の主流化を進める目標15でも見られました。
生物多様性の損失は、経済活動の半分(世界GDPの半分)に影響を与えるとされ、現在のマクロ経済が自然資本を正しく認識したルールが構築されていない(それを正さなければいけない)との経済団体や専門家の指摘が常識となりつつある現在において、ポスト2020枠組み(GBF)の2030年の行動目標が、「大企業」あるいは「非常に多くの数の大企業(100%は目指さないとの限定)」のみに摘要されるような狭める意見や、”政府に権限がないから”義務的開示は無理だというネガティブな意見が出るなど、今の状況・今の緩やかな延長の想定の範囲で、(意欲的な目標ではなく、無理をせずに)2030年の行動目標を決めようという空気が一部の先進国からも出されていました。
日本のような、世界目標があるとそのままの数字を国内レベルで適用しようとする発想に陥りがちな国(GBFは枠組みなので、国内目標を大きく設定してもかまわない)としては、あまり良くないサインだなと感じたOEWG5(第5回ポスト2020枠組み作業部会)でした。
これから開催されるCOP15には10000人以上の登録がされていると聞いています。世界のリーダーが集まるこの会議で、世界共通の目標GBFが無事合意されるよう、日本や世界のNGOと連帯していければ良いなと思います。
「今、ここモントリオールで開かれている国連生物多様性会議にリーダ達が集っている」とショーアップされたモントリオール国際裁判所のライトアップ(WWF主催)
参考:合意された目標20と21、そして合意されなかった目標22の仮訳
参考までに、合意された目標20と目標21、そして、合意に至らなかった目標22の仮訳を紹介します。
目標20(Target20):啓発、教育、研究により、伝統的知識を含む質の高い情報の生物多様性管理への利用の確保
Ensure that the best available data, information and knowledge, are accessible to decision makers, practitioners and the public to guide effective and equitable governance, integrated and participatory management of biodiversity, and to strengthen communication, awareness-raising, education, monitoring, research and knowledge management and, also in this context, traditional knowledge, innovations, practices and technologies of indigenous peoples and local communities should only be accessed with their free, prior and informed consent , in accordance with national legislation.
(仮訳)生物多様性の効果的で公平なガバナンス、統合的で参加型の管理を導き、コミュニケーション、啓発、教育、モニタリング、研究、知識管理を強化するために、意思決定者、実務者、一般市民が利用可能な最善のデータ、情報、知識にアクセスできるようにする。また、この文脈において、先住民や地域社会の伝統知識、革新、実践、技術は、国内法に従って、自由意志に基づき、事前に十分な情報を与えられた上での同意によってのみアクセスされるべきである。
目標21(Target21):生物多様性に関連する意思決定への衡平な参加、先住民族、女性、若者の権利確保
Ensure the full, equitable, inclusive, effective and gender-responsive representation and participation in decision-making, and access to justice and information related to biodiversity by indigenous peoples and local communities, respecting their cultures and their rights over lands, territories, resources, and traditional knowledge, as well as by women and girls, children and youth, and persons with disabilities and ensure the full protection of environmental human rights defenders.
(仮訳)先住民地域共同体の文化や、土地、領土、資源、伝統的知識に対する権利を尊重しつつ、先住民地域共同体および女性や少女、子どもや若者、障害者が、意思決定への完全、衡平、包括的、効果的かつジェンダーに対応した表明と参加や、生物多様性に関する司法と情報へのアクセスを確保し、かつ、環境人権保護者の完全保護を確保すること。
目標22(Target22):目標達成におけるジェンダー対応
Ensure gender equality in the implementation of the framework through a gender [responsive] approach where all women and girls have equal opportunity and capacity to contribute to the three objectives of the Convention, including by recognizing their equal rights and access to land and natural resources and their full, equitable, meaningful and informed participation and leadership at all levels of action, engagement, policy and decision-making related to biodiversity.
(仮訳)すべての女性と女児が、土地と自然資源に対する平等な権利とアクセス、生物多様性に関連する行動、関与、政策、意思決定のすべてのレベルにおいて、完全、公平、有意義かつ情報に基づいた参加とリーダーシップを認めることを含め、条約の3つの目的に貢献する平等な機会と能力を持つ[ジェンダー対応アプローチ]を通じて、枠組みの実施におけるジェンダー平等を確保すること。
会員限定動画「COP15開催前に知っておきたい注目ポイント」をチェック
日本自然保護協会(NACS-J)では、会員の方に限定で、道家がCOP15の詳細を解説したNACS-J市民カレッジ107「COP15開催前に知っておきたい注目ポイント」(2022年10月28日開催)のアーカイブ動画を公開しています。
下記ページからご覧いただけます。
【会員・支援者限定サービス】NACS-J市民カレッジ(Nカレ)アーカイブ動画
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