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2022.11.04(2023.08.07 更新)

浜を読む③ 〜 浜辺のプラスチック〜(前編)

読み物

専門度:専門度4

テーマ:海の保全砂浜ムーブメント

フィールド:海辺海岸

日本は、海に囲まれた島国ですが、砂浜の自然についてはまだまだわからないことが多くあります。シリーズ「浜をよむ」では、最先端の砂浜研究の紹介を交えながら、砂浜の自然とはいったいどんな環境なのかをご紹介しています。

第3回はプラスチックごみのお話です。その課題の大きさにいろいろな研究が急速に増えてきた分野です。今回は海外の研究を中心に、前後編でご紹介いただきす。


浜をよむ③〜浜辺のプラスチック〜(前編)

水産大学校名誉教授
須田有輔

プラスチセン(プラスチック時代 Plasticene)(Haram et al 2020)という新造語も登場し,プラスチックなしの生活など想像もできない時代に私たちは暮らしています。しかし,計り知れない便利さの一方,ごみとなって環境中に放出されたプラスチックは,人間社会そして地球環境に牙をむいています。今や地球上のあらゆる場所,あらゆる生物,あらゆる食品に存在することが明らかとなったプラスチック。とりわけ海と陸の狭間を占める砂浜は,海と陸双方からのプラスチックごみの溜まり場として注目されています。

目次
 
(前編)
1 プラスチックごみの発生
2 海洋プラスチックの多くは沿岸域に~海から浜へ
3 砂浜でみられるプラスチック
4 プラスチックごみの大きさと形状
 
(後編)>>こちら
5 砂浜での分布
6 砂浜でのプラスチックごみの出入り
7 プラスチックの害 ~生物や生態系への影響
おわりに
参考文献

1950年から2017年の間に世界で99億トンのプラスチックが生産され,そのうち29億トンは現在でも使用されています。残り70億トンの廃棄されたプラスチックのうち,10億トン(14%)は焼却処分,7億トン(10%)はリサイクルされましたが,残りの53億トン(76%)はプラスチックごみとなり,埋め立てられたり,処分場に放置されたり,あるいは自然環境中に広がっています(Geyer 2020)。

研究によってかなり大きな開きはありますが,自然環境中に流出したもののうち,7,500万トンから1億9,900万トンが海洋に存在し(UNEP 2021),大きさ5 mm以上のマクロプラスチックごみの約23%は海岸に存在するとされています(Isobe and Iwasaki 2022)。

地球規模のモデリングによれば,海洋プラスチックごみのおよそ8割は,河川や沿岸など陸に起源をもちますが(Chenillat et al 2021; Isobe and Iwasaki 2022; Morales-Caselles et al 2021),海に流出したごみの多くは(54〜80%)外洋まで広がらず,沿岸域にとどまります(Chenillat et al 2021; Onink et al 2021)。しかし,すべてが地元の海岸に漂着するわけではなく,一部のものは沿岸域を数千kmも移動した後に,はるか遠方の海岸に漂着する可能性があります(Chenillat et al 2021)。実際,数々の現場観測では遠隔地からのごみの漂着が確認されています。海洋を漂うプラスチックごみのうち,とくに,浮力が大きく海表面に浮かぶものは,風,波,潮汐の影響を受けて少しずつ岸に向かって運ばれ,やがて砂浜に打ち上げられます(Isobe et al 2014; Morales-Caselles et al 2021; Olivelli et al 2020; van Sebille et al 2020)。海からのプラスチックごみにさらされる砂浜は,海洋環境の中でもとりわけプラスチックによるリスクを受けやすい場所です(Everaert et al 2018)。

浜辺へ行くとさまざまなごみをみかけます。1907年から2022年にかけて発表された,砂浜ごみ関係の631編の学術論文に記された情報を基にした研究によれば(Ansari and Farzadkia 2022),砂浜でみられたごみで最も多かったのがプラスチックごみで61%を占め,次いで,食品(5.9%),流木(5.8%)金属(5.2%),ガラス(5%)の順でした。国や地域によってこの割合は大きく変わりますが,世界的に見れば,プラスチックごみが圧倒的に多いということがわかります。

浜のプラスチックごみは,日用品や砂浜の利用者が捨てていったものなど,私たちの普段の生活にかかわるものが目につきますが,他にどのようなものがあるでしょうか。特徴的なものをいくつかみてみましょう。

漁業系ごみ

生活関連のごみに次いで多くみかけるのが,漁業や養殖業など水産業に関わるごみでしょう(図1)。場所によっては生活用品より多いかもしれません。今や漁業系のプラスチックごみは,海岸,海面,海底かを問わず,地球規模の深刻な海洋環境問題の一つとなっています。海洋ごみの2割が,漁業や海運など海上での活動によるものだとされています(Chenillat et al 2021)。

漁業系のごみの写真

漁業系のごみの写真

図1 砂浜に漂着した漁業系のごみ(撮影NACS-J)

ゴーストフィッシング

意図的に投棄したり事故で流出して海洋に放置された,漁網,ロープ,釣り糸,かごなどの漁具はゴーストギア(ghost gear)と呼ばれ,それらに魚介類,海産哺乳類,ウミガメ,海鳥が絡まったり閉じ込められたりするゴーストフィッシング(ghost fishing)の問題が,古くから知られています。ゴーストフィッシング(幽霊漁業)というのは,海に流出した持ち主のいない漁具に,人が操作しないのに魚が掛かってしまうことから名付けられた言葉です。研究が進むにつれてその深刻さに対する人々の関心が高まり,今では地球規模の海洋環境問題として扱われています(FAO 2016; Stokstad 2022; Vitorino et al 2022; WWF 2020)。全世界では年間でこのような漁具の消失が,全漁具平均では1.82%,刺し網では0.81%(2,963km2),まき網では1.51%(75,049km2),トロール網では3.57%(218km2),はえ縄では3.33%(739,583km),かごでは0.74%(2,500万個以上)あると推定されています(Richardson et al 2022)。

洋上を漂う日本製漁具

漁業系のごみは海洋プラスチックごみの多くの割合を占め,ゴーストフィッシングにとどまらず,海洋生物や生態系にとって大きな脅威となっています(図2)。北太平洋に広がる巨大なごみの集積域,太平洋ごみベルト(Great Pacific Garbage Patch)(Lebreton et al 2018; Moore et al 2001)に集まるプラスチックごみの由来を分析した研究によれば,破片となって由来が特定できなかったものが33%を占めていましたが,漁業系のプラスチックごみがそれに次いで多く,26%を占めていました(Lebreton et al 2022)。これらの漁業系ごみの割合について,表記されている言語や製造メーカーのロゴなどを頼りに生産国を調べたところ,日本(34%),中国(32%),韓国(10%),米国(7%),台湾(6%)という結果が得られました。これらはいずれも漁業が盛んな国です。漁業系ごみの問題は,日本国内でも以前から問題視されてきましたが,改めて,日本の水産界をあげて取り組まなければならない,深刻な課題だということに気づかされます。

漁業系ごみの写真図2 海洋を漂う漁業系のごみ(撮影NACS-J) 

養殖ごみ

漁業と同じく無視できないのは,養殖業由来のプラスチックごみです(図3)。日本でも,カキ養殖をはじめ養殖関係の資材がごみとして海岸に漂着することは,以前から知られていましたが,漁業以上にデータや研究例が少ないのが現状です。ヨーロッパの北海沿岸の海岸では,打ち上げられたプラスチックごみのうち12.4%が漁業・養殖資材でしたが,養殖資材に限定すれば,北東大西洋全域でわずか0.13%に過ぎませんでした(Skirtun et al 2022)。しかし,フランスのノルマンディー地方で行われるムール貝の木杭養殖(ブショー養殖)に使われる資材が,遠く離れたベルギー,オランダ,ドイツの海岸でも見つかっており,遠隔地汚染が心配されます。また,ノルウェーでは毎年25,000トンものプラスチック製養殖資材が海に投棄されており,この値を参考に北東大西洋域に拡大すれば,年間50,000トン以上にもなり(Skirtun et al 2022),その一部が海岸に漂着することは間違いありません。

資材ごみの写真図3 砂浜に漂着したカキ養殖資材ごみ(撮影NACS-J) 

海のちりに

漁具・養殖資材とはっきりわかるもの以外に,操業時のロープのこすれや砂浜に漂着後の劣化により発生する,二次的なマイクロプラスチックも無視できません。船舶ではロープを使う機会がたいへん多くありますが,とりわけ漁船では,ロープや網を巻き揚げる,ラインホーラーをはじめとする巻き揚げ器具とのこすれが長時間続くため,破片が発生しやすくなります(Napper et al 2021)。イギリス南西部の,漁業が盛んな海域に面した海岸では,打ち上げられたロープ,漁網,釣り糸から二次的に発生したマイクロプラスチックが,多く発見されています(Wright et al 2021)。

漁業・養殖系プラスチックごみの対策には,漁業者や水産関係者の意識の改革が不可欠です(Wootton et al 2022)。日本でも行政による指導,業界団体による自主規制,漁具のリサイクル,生分解性漁具の開発など,漁業系プラスチックごみの削減に向けた取り組みが行われていますが,より一層の取り組みが必要です。

【用語】
ラインホーラー:ロープを巻き上げる時,ロープを通す回転式の漁具。

ナードル/レジンペレット

ナードル(nurdle)とは,プラスチック製品の中間原料であるレジンペレット(resin pellet)という小さな粒のことです(図4)。大きさからいえばマイクロプラスチックに分類されるものです。ナードルは輸送や製造の過程での取り扱いミスや事故などにより環境中に流れ出し,世界の浜辺にも打ち上げられ,海岸環境への大きな脅威となっています(Ohgaki et al 2021)。2021年5月,スリランカ沖でシンガポール船籍のコンテナ船X-Press Pearl号が火災を起こして沈没した事故では,積み荷のナードルが大量に近辺の海岸に漂着したことが大きな話題となりました(de Vos et al 2021; Sewwandi et al 2022)。

レジンペレットの写真

レジンペレットの写真

図4 砂浜に漂着したレジンペレット(撮影NACS-J)

船舶から転落したコンテナ貨物

スニーカー,お風呂用おもちゃ,ポテトチップス,プリンタのインクカートリッジなどなど,ごみと呼ぶには抵抗がある,思いがけない未使用の製品が流れ着いたという記録が,世界各地から報告されています(Frey and DeVogelacre 2014; Turner et al 2021b)。これらのほとんどが,航行中のコンテナ船からのコンテナの転落事故によるものです。事故(荒天,不十分な固定,など)による航行中の船舶からの貨物用コンテナの転落は,2008年から2021年の間に平均で年間1,629件発生しており,けっして少ないものではありません(World Shipping Council 2022)。それにより,コンテナ内の積み荷がごみとなって海面を漂い,あるものは海底に沈み,一部は砂浜にも流れ着いていたのです。

災害漂着物

津波や豪雨などによって海に流出した物が,海岸に漂着したり港にたまって,新たなごみ問題を引き起こすことがあります。たとえば,東日本大震災の大津波では500万トンものがれきが漂流したと言われ,それらは海流に乗り長い時間をかけて太平洋を渡り,北米大陸の海岸に漂着しています。この大津波で海洋に流出したがれきはJapanese Tsunami Marine Debris(JTMD,東日本大震災起因海洋漂着物)とも呼ばれ,がれきのみならず,多くの外来生物を運ぶ原因ともなっています。津波発生後6年の間に,米国沿岸には16門289種の日本産生物がJTMDとともに運ばれてきました(Carlton et al 2017)。JTMDにより運ばれ,北米やハワイで確認された北西太平洋産の海洋生物を記録したデータベースがあります(Nelson et al 2016)。津波以外にも,近年猛威を振るう豪雨,ハリケーン,熱波による氷河の融氷(Mallapaty 2022)などは,陸から海に流れ出るがれきを増大させ,砂浜環境にとって大きな脅威となっています。

被覆肥料

農業分野では,肥料をプラスチック製の被膜で覆った被覆肥料あるいは緩効性肥料(coated fertilizer,controlled release fertilizer)と呼ばれる肥料が重宝されています。徐々に肥料成分が溶け出すという特徴をもち,肥料の投入に無駄がなくなることで,環境への負荷も抑えることができるからです。一方で,肥料成分が溶け出した後のプラスチックの殻が川から海に流れ出し,新たな海岸のマイクロプラスチックごみとなっています(図5;Katsumi et al 2020)。農林水産省でもこの問題に取り組んでいますが,2022年1月には国内の肥料に関わる関連団体が,2030年には被覆肥料に頼らない農業を目指すとして,「緩効性肥料におけるプラスチック被膜殻の海洋流出防止に向けた取り組み方針」を公表しています。

プラスチック製の殻の写真図5 砂浜に漂着した被覆肥料のプラスチック製の殻(撮影NACS-J)

新手のプラスチック

一般的に,海岸のプラスチックごみといえば,原型をとどめているかあるいは細かく砕けたものを指しますが,最近それとは異なる新しいタイプのプラスチックの存在が注目されています(Corcoran and Jazvac 2020; Corcoran et al 2014; De-la-Torre et al 2021; Domínguez-Hernández et al 2022; Ellrich and Ehlers 2022; Fernandino et al 2020; Gestoso et al 2019; Santos et al 2022; Turner et al 2019)。

これらの新手のプラスチックは,当初はごく限られた場所から報告されていただけでしたが,世界各地の海岸での発見が相次いでいます。発見が新しいこともあって,生物や生態系への具体的な影響は不明ですが,一般的なプラスチックごみと同様の影響は及ぼすでしょうし,それに加えて,熱による変性を受けたり,タールや他の化学物質と接することで,想定外の毒性を持つようになっているかもしれません。また,浜や海底,岩の表面を覆うことで,付着動物や内在動物の生息場所に悪影響を及ぼすかもしれません。

【用語】
付着動物:岩,構造物,海藻・海草などの表面に生息する動物。
内在動物:砂や泥の中に潜ったり,巣穴を作って生息する動物。二枚貝,多毛類が典型的。

アントロポキナ(anthropoquina)

プラスチックをはじめとする人工物が取り込まれた堆積岩のことです(Fernandino et al 2020)。砂浜では,ビーチロック(beachrock)に,プラスチック,レンガ,ガラス,鉱滓が取り込まれていたことが確認されています。名前の「アントロポ」は「人間の活動に起因する(anthropogenic)」,「キナ」は貝殻片から構成される堆積物「coquina」にちなんでいます。

【用語】
堆積岩:砂や泥が溜まってできた岩。
ビーチロック:炭酸カルシウム分を多く含むサンゴ由来の砂がセメント化して岩のようになったもの。サンゴ礁が多い主に熱帯~亜熱帯地方で見られる。
鉱滓(こうさい):金属を製錬するときに発生するくず。スラグとも言う。

パイロプラスチック(pyroplsatic)

焼けたプラスチックが溶けて固まったものです(Turner et al 2019)。浜辺での焚き火やキャンプファイヤーなどで発生します。2021年5月のコンテナ船X-Press Pearl号の火災事故では,積み荷のナードルが燃えてパイロプラスチックとなり,生のナードルと共に近辺の海岸に漂着しました(de Vos et al 2021; Sewwandi et al 2022)。「パイロ」とはギリシア語で「火」の意味です。

プラスチグロメレート(plastiglomerate)

パイロプラスチックの一つのタイプですが,プラスチック成分だけから構成されるパイロプラスチックとは異なり,溶けたプラスチックが周りの砂や岩屑,ごみなどを取り込んで固まり,あたかも岩石のような質感と大きさをもつようになったものです(Corcoran and Jazvac 2020; Corcoran et al 2014)。野外での違法なごみの焼却処分やキャンプファイヤーなどが大きな発生源になっています。しかし,海岸リゾートを抱える発展途上国では,プラスチックごみ処分システムが不備なこともあり,海外からの観光客が残した大量のプラスチックごみを,浜で焼却処分せざるを得ないという実情があります。「グロメレート」とは塊状になったものを意味します。プラスチグロメレートのうち表面が滑らかでシルク状の光沢をもったものはプラスチストーン(plastistone)とも呼ばれます(Santos et al 2022)。

プラスチクラスト(plasticrust)

プラスチックが岩とこすれて岩の表面にこびりついたものです(Gestoso et al 2019)。岩石海岸に流れ着いたプラスチックごみが,波によって繰り返し岩とぶつかったりこすれたりするうちに,こびりつくと考えられています。

プラスチタール(plastitar)

漂着した石油のタールにマイクロプラスチックが混ざったものです(Domínguez-Hernández et al 2022)。海岸の岩にこびりついたり,砂と絡まって砂の中に埋め込まれていきます。

COVID-19

今般のCOVID-19で,使い捨てマスクやフェイスシールドなど個人使用の感染防護具が,新たなプラスチックごみとなっています。ごみの中のマスクがCOVID-19以前に比べて80倍以上も増えたという調査結果もあり(Roberts et al 2022),海岸への影響が懸念されます(De-la-Torre and Aragaw 2021)。ケニアの海岸で,最初のCOVID-19感染が確認されてから100日後に行われた調査では,COVID-19関連のごみが16.5%を占めていました(Roberts et al 2022)。

砂浜のプラスチックごみは大きさも形もまちまちです。製品としての形状を保ったままのものもあれば,細片化して元は何であったのかわからないものもあります。

大きさ

大きさによってプラスチックごみは,ナノプラスチック(<0.001 mm),マイクロプラスチック(<5 mm),メソプラスチック(5〜25 mm),マクロプラスチック(25 mm〜1 m),メガプラスチック(1 m<)に分けられています(GESAMP 2019)。もう少しラフな分け方が使われることもあります。海洋プラスチック問題が報じられるようになった初期の頃は,大型の海洋生物によるプラスチック製品の誤飲・誤食や絡まりのように,目で見てはっきりわかる大きさのプラスチックが注目されていましたが,その後マイクロプラスチックへの関心が急速に高まってきました。

一次・二次マイクロプラスチック

IUCN(国際自然保護連合)によれば,マイクロプラスチックは,海洋環境に流入する前にすでに小さくなっている一次マイクロプラスチックと,海に入った後に細片化して小さくなった二次マイクロプラスチックに分けられます(Boucher and Friot 2017)。

一次マイクロプラスチックには,ナードル,被覆肥料,研磨剤などのように,最初から微粒子製品として作られたものと,自動車タイヤと路面とのこすれや衣類の洗濯によって生じた微小な繊維(マイクロファイバー)など,製品としての使用過程で発生した破片があります。海洋マイクロプラスチックの起源の35%が洗濯時の合成繊維の微小繊維,28%が自動車タイヤの摩耗片だという報告があります(Boucher and Friot 2017)。1回に6 kgの衣料の洗濯によって,70万個ものマイクロファイバーが発生するとも言われているので(Napper and Thompson 2016),海には莫大な量のマイクロファイバーが存在するのでしょう。実際,砂浜では繊維状のマイクロプラスチックが多いという報告が多数あります(Aslam et al 2020; Harris 2020; Lots et al 2017; Perez and Wang 2022; Pérez-Alvelo et al 2021; Rangel-Buitrago et al 2021)。たとえば,世界各地の海洋堆積物中のマイクロプラスチックの文献調査を行った研究によれば(Harris 2020),砂浜に存在するマイクロプラスチックの70〜90%近くが繊維状のもので占められていました。マイクロファイバーは,塊やペレット状のものに比べると大きさに対する表面積が大きいことから,海面に浮きやすく,このことが浜に繊維状のマイクロプラスチックが多く流れ着く理由ではないかとされています。

一方,二次マイクロプラスチックは,海に入った後の経年劣化や風食・侵食によって細片化したものです。とくに砂浜では,砂や岩とのこすれによる摩耗,紫外線による細片化が,新たなマイクロプラスチックの発生のしくみだと言われています(Andrady 2011; Chubarenko et al 2020; Critchell and Lambrechts 2016; Efimova et al 2018; Isobe et al 2014; Zhang 2017)。たとえば,礫浜(大きさ4〜6 cmの礫)の波打ち際を模した室内実験では,波打ち際の物理的な作用により,大型のプラスチックが破砕され,マイクロプラスチックが発生することが確かめられています(Chubarenko et al 2020; Efimova et al 2018)。

【用語】
礫浜(れきはま):砂より大きな堆積物(2 mm以上)で覆われた海岸。礫は大きさにより,小礫(2~4 mm),中礫(4~64 mm),大礫(64~256 mm),巨礫(256 mm以上)に分けられる。

ナノプラスチック

最近,マイクロプラスチックよりさらに小さいナノプラスチックへの関心が高まっています(Gigault et al 2018)。あまりにも微小であるため検出することが困難で,海洋での存在が初めて報告されたのは2017年のことでした(Halle et al 2017)。北大西洋の北大西洋亜熱帯循環と呼ばれる,海流大循環の西域で採取されたサンプルに基づいた研究です。それからしばらく経って,カリブ海小アンティル諸島の一つグアドループ島から,砂浜では初めてのナノプラスチックが,砂の中の間隙水から発見されました(Davranche et al 2020)。研究が進めば,世界各地の砂浜からナノプラスチックの報告が増えるでしょう。砂浜のサーフゾーンでは,海底の砂とマイクロプラスチックがこすれあうことで,さらに微粒子化してナノプラスチックが生じる可能性が指摘されています(Kerpen et al 2020)。

>>後編に続く


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