2022.10.31(2023.09.20 更新)
増加する陸上風力発電事業計画 豊かな自然が残るエリアも次々と対象に!
読み物
専門度:
▲陸上風発計画の風況調査のために倒された樹齢350年のブナ大木(福井県美浜町)
テーマ:生息環境保全森林保全環境アセスメント国立公園
フィールド:エネルギー問題
再生エネルギー(以下、再エネ)の推進は、地球温暖化を抑制し、気候変動により甚大化している災害の軽減や生態系保全につながることから、歓迎されるべきものです。しかし、多くの陸上風力発電事業計画(以下、陸上風発計画)が、災害リスク高め、森林の生物多様性を喪失させる可能性があることが、環境アセスメント図書(以下、アセス書)の解析から明らかになりました。
近年、再エネの一つである風力発電事業計画が増加しています(図1)。中でも陸上風発計画は、毎年、環境アセスメント法対象事業の中で、最もたくさん提出されています。特に東北地方や北海道での計画が大半を占めています(図2)。
数年前までは、牧場跡地など人工改変地での計画が多かったのですが、近年は森林に覆われた奥山の尾根上での計画が急増しています。このような場所は既存の林道が十分に整備されていないことが多く、50階建てのビルに相当する高さ約150~200mの風車建設のためには、新たに林道の整備が必要となります。そのため、風車が建つ場所以外にも広範囲に森林伐採や土地改変などを行う必要があります。
図1:年毎の事業種別環境アセスメント開始件数
増加する陸上風発計画の状況。(2022年は8月末日までを対象。2013年3月までは方法書、同年4月以降は配慮書が対象。2012年9月までは陸上風発計画は環境アセスメント対象外)
図2:陸上風発計画の環境アセスメント段階別の進行状況件数
東北地方では100件以上もの陸上風発計画が環境アセスメントの手続き中や稼働準備中となっている。(2022年9月現在)
90%近くが保安林を含めて計画
アセス書のデータによると(2022年9月現在)、全国の環境アセスメント法対象事業の陸上風発計画の90%近くは、流域保全上重要な水源かん養や、土砂流出を防止するための土砂流出防備などを目的とした保安林を含んでいます(図3)。
環境省の植物群落の自然性を示す一つの指標で、「植生自然度9」は、国土の18%程度しか残されていない原生林に近い森林です。ところが、50%以上の事業が植生自然度9の地域を含めて計画しています。
また、大型風車の稼働は鳥類を衝突死のリスクにさらすことになります。しかし、全事業の25%がイヌワシの生息域を、51%がクマタカの生息域を含めて計画されています。特に東北地方では45%の計画がイヌワシの生息域を、近畿地方では89%の計画がクマタカの生息域を含んでいる状況です。
現在の陸上風発計画は、事業者任せの立地選定を行っているため、風況や送電網への接続など採算性が優先されています。まずは自然環境を考えた立地選定を行わないと、たとえ2050年にカーボンニュートラルが達成できたとしても、日本の自然環境が取り返しのつかない状況になります。NACS-Jは今後も、重要な自然環境へ多大な影響を及ぼすと予測される陸上風発計画に対し、計画の初期段階でアセス書を精査し、改善を求め意見していきます。
図3:陸上風発計画の中で重要な自然環境が含まれている割合
環境アセスメント手続き中の陸上風発計画(287件)の中で重要な自然環境が含まれている割合(2022年9月現在環境アセスメント手続き中、評価書発行後で完成前の陸上風発計画(10MW以上)を対象)
▲大型風車搬入のために強度に剪定された国立公園内の国道
▲事業実施想定区域の80%に鹿児島大学の演習林を含めた計画も出ている。演習林は生物多様性が高く、照葉樹林のホットスポットと言える場所。クマタカやサシバなど希少猛禽類などの生息への影響など自然環境面、土石流発生のリスクを高めるなど防災面で重大な懸念がある。
担当者から一言
リポーター
保護・教育部 若松伸彦
カーボンニュートラルを達成するために生物多様性を蔑ろにすることはあってはなりません。しっかりと脱炭素と生物多様性保全の両立を図るべきです。