2022.02.28(2022.07.07 更新)
狩場山周辺の森林生態系保護地域が現在の13倍以上に拡充します
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▲狩場山山頂
テーマ:生物多様性地域戦略
北海道南部、渡島半島の付け根に狩場山地はあります。ここは、日高山地と並び「秘境」と呼ぶにふさわしい山々の連なりで、尾根につけられた数少ない登山道以外は歩き回ったり縦走したりは難しく、主峰の狩場山(1519m)の森林限界より上部のササ原や草原は、ヒグマたちの良好な採食地です。
狩場山の一角には須築川が流れ、その源流部が狩場山地須築川源流部森林生態系保護地域(2732ha)となっていました。この保護林が、昨年11月に開かれた林野庁北海道森林管理局の保護林管理委員会で面積が現在の13倍以上にも拡充され、「狩場山・大平山周辺森林生態系保護地域(仮称)」(3万6542ha)となることが決まりました。(図1)
注目点は、この地域の山麓には多くの大径木を含む原生的なブナ林が広がり、北海道なのに見かけは東北地方の森とよく似ている自然の北端地域であることです。北限の最もまとまりを持ったブナ林地帯が、特殊な地質の山々と共に森林生態系保護地域に含まれることになりました。
❶図1:狩場山・大平山周辺森林生態系保護地域 (仮称)範囲図(北海道森林管理局保護林管理委員会資料からNACS-J作成)
拡大まで足かけ8年の道のり
この拡大のための準備は、2015年から始めました。林野庁は2015年に保護林制度を変え、7種類(区分)であった保護林を3種類に再編することを決定。北海道森林管理局でも、2016年に保護林の設定や保全管理を審議する保護林管理委員会を開き、狩場山地須築川源流部森林生態系保護地域と、隣接する狩場山雪田植生希少個体群保護林を統合することを決めました。
その議論の中で、大きくまとまりを持った原生的なブナ林を広く含めるとともに、狩場山地東側の石灰岩地帯に特殊で希少な植生が広がることで有名な大平山を含む、狩場山地全域への拡大を発議しました。上記のような特筆すべき自然環境に加え、本州では残念ながら観察されなくなってしまった、ブナ林にすむクマゲラの最も大きな生息・繁殖地であることや、道南のクマタカの最も優良な生息地である可能性もあるからです。
2017年に下準備のための現地視察を行い、2019年に保護林管理委員会としての周辺一帯の視察につなげました。森林管理局はコンサルタントに依頼し、狩場山地一帯の広域なデータ収集と希少種分布などの現地調査、GISによる重ね合わせ作業を行いました。その成果を基に2回の拡大範囲の検討を保護林管理委員会で行い、約13倍の面積へと拡大させ、2022年4月に再設定することを決めました。足掛け8年をかけた作業でした。
【2022年3月24日追記】「設定は2022年4月の予定」とありましたが、事務手続き上の都合により2023年の予定となりました。訂正します。
❷北限地域のブナ大径木/❸狩場山登山道案内図/❹山頂近くの池塘、親沼
保護林の面積と内容を飛躍的に拡大・充実させた方法
今回の保護林拡大は、北海道森林管理局が保護林管理委員会と以前から進めてきた方法論で実現しました。調査に行けない場所でも、地域の自然性のポテンシャルを広域に評価して行う方法です。要素としては、高山植生の広がりやブナ林のまとまり、大径木の分布やクマゲラ・クマタカなどの希少種の良好な生息環境の広がり、希少種の分布や特殊地質の分布など広範にわたります。
指定から時間の経った保護地域を見直し、生物多様性の保全にとって必要な範囲を十分含む保護地域に生まれ変わらせることに有効です。
担当者から一言
リポーター
参与 横山隆一
狩場山は標高としては高くない山ですが、海からいきなり立ち上がるため、道からの標高差は1500m。沢に一度降りたら急峻で元の場所には戻れません。高校時代に登ってからようやく今、保護林に含めることができました。