2021.12.24(2021.12.27 更新)
愛知知多半島のエキノコックス
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▲図:エキノコックスの生活環の模式図と知多半島での感染状況
テーマ:外来種獣害問題
フィールド:感染予防
近年、愛知県の知多半島でエキノコックスという寄生虫が引き起こす病気が危惧されています。
知多半島での感染状況、野生動物や人間への影響について、麻布大学の塚田氏に紹介していただきます。
麻布大学獣医学部
塚田英晴
知多半島でエキノコックスが確認されたのは、2014年3月のことです。阿久比町で捕まえた野犬の糞から検出されました※1。この発見を契機に、その後も野犬での感染確認が相次ぎ、2015年に隣接する常滑市※2で、2017年には少し離れた南知多町3と半田市※2で、2018年に知多市※3と美浜町※2で、2020年には武豊町※2でも確認されました。このように現状では、知多半島の広域でエキノコックスが定着したと考えられています。
エキノコックス症はこれまで北海道固有の病気と考えられてきました。北海道では、主にキタキツネに成虫が寄生し(終宿主と呼びます)、タイリクヤチネズミなどの野ネズミに幼虫が寄生しています(中間宿主と呼びます)。キツネが中間宿主の野ネズミを捕食して感染し、終宿主となったキツネから排泄された糞中の虫卵(寄生虫の卵)を野ネズミが摂取して中間宿主になります。このように両者で“食う―食われる”関係が繰り返され、エキノコックスの生活環が維持されます[上図参照]。
https://www.niid.go.jp/niid/ja/id/979-disease-based/a/echinococcus/idsc/iasr-in/4817-kj4132.html
※2 国立感染症研究所の調査による(森嶋康之博士,私信)
※3 愛知県衛生研究所の調査によるhttps://www.pref.aichi.jp/uploaded/attachment/264003.pdf
人間への影響は?
人は中間宿主となり、幼虫が主に肝臓に寄生して、肝臓の腫大、腹痛、黄疸、腹水貯留などの症状を引き起こします。無治療では致死率が90%以上にも達する恐ろしい病気です。その一方で終宿主となるキツネや犬では下痢程度の軽い症状しか引き起こしません。虫卵の大きさはわずか0.03㎜ほどです。人は、終宿主から排出された虫卵を知らぬ間に経口摂取することで感染します。
そのため、終宿主の糞で汚染された物や場所を避け、虫卵の誤摂取を防ぐことが感染予防には重要です。野外活動をされる方は、野犬の糞との接触は避け、靴や衣服についた土やホコリを屋外で払い落とすようにしてください。また、生で食べる果実や野草は必ず洗浄し、寄生虫の卵を無意識に摂取しない心がけが重要です。
知多半島では、野犬のみでエキノコックスが確認されており、感染源となる中間宿主動物は分かっていません。また、北海道で主な終宿主となるキツネは、知多半島にも生息しますが、今のところ感染は確認されていません。しかし、キツネは野犬と同所的に生息しており、今後も注意が必要です。
北海道ではエキノコックス対策に駆虫薬が野外散布され、一定の効果をあげています。新興流行地となった知多半島でも、こうした取り組みの導入による積極的な対策が期待されます。