2021.10.25(2021.10.29 更新)
【配布資料】今日から始める自然観察「あなたのそばのクリスマスツリーは?」
観察ノウハウ
専門度:
テーマ:自然観察ツール
フィールド:森林
<会報『自然保護』No.584より転載>
このページは、筆者の方に教育用のコピー配布をご了解いただいております(商用利用不可)。ダウンロードして、自然観察などでご活用ください。
クリスマスツリーと言えば、三角コーンのような円錐形の樹形の「もみの木」です。もみの木って、いったいどんな木なのでしょうか?
(若松伸彦 NACS-J保護部専門は植生地理学)
サンタクロースの故郷にモミの木はない?!
クリスマスツリーの「もみの木」には、いわゆる「モミ」やモミの仲間のマツ科モミ属樹種に限らず、円錐型の樹形のいろいろな木が使われています。
実際にサンタクロースの故郷である北欧のフィンランドにはモミ属樹種は自生していません。ヨーロッパでモミ属が自生するのは、ドイツ南部以南です。そのため北欧でクリスマスツリーとして使われるのは、主にトウヒ属のドイツトウヒです。
一方で、イエスの生誕地ベツレヘム周辺や、南欧のギリシャ、イタリア、トルコなどには何種類かのモミ属が自生しており、クリスマスツリーにはシルバーモミなどが使われます。北米では、モミ属のバルサムモミがツリーとしてよく使われます。
▲トドマツ林(北海道利尻島)トドマツがあるのは、日本では北海道のみ
▲公園でもよく見かけるドイツトウヒ
ドイツトウヒは成長がとても早く、ヨーロッパではよく植林されています。トウヒの仲間は葉の先が針のように尖っていますが、モミの仲間は葉先が2つに割れているのが特徴です。またトウヒの球果が垂れ下がるのに対して、モミの仲間は上向きに付きます。エゾマツはトウヒの仲間です。(円内:ドイツトウヒの葉)
▲偏形樹
森林限界付近のオオシラビソは、冬季の季節風の影響で、風上側の葉が無くなった旗型の樹形をした樹が目立ちます。(円内:オオシラビソの実)
モミ属は北半球にのみ40~50種ほどが分布し、日本には5種が自生しています。そのうちモミ、ウラジロモミ、シラビソ、オオシラビソの4種は日本固有種で本州以南に分布しています。残りのトドマツは日本の北海道、それに樺太と千島列島にも分布しています。いわゆる「モミ」は九州にも生えており、モミ属の中で最も暖かい場所に生えているのです。
また、オオシラビソを除く4種はユーラシア大陸のモミ属樹種と分子系統的に近い一方、オオシラビソだけはバルサムモミなどの北米モミ属樹種と近縁で、系統が異なっています。
日本でもクリスマスシーズンに花屋さんなどの店頭に並んでいるクリスマスツリーは「モミ」そのものであることはまれです。ウラジロモミか、ほとんどがドイツトウヒです。ゴールドクレストという糸杉の仲間のこともあります。お花屋さんに並んでいるクリスマスツリーが何の樹種なのかを観察してみましょう。
観察のポイント
どこで見つけた?
葉の付き方は?
▲かまぼこ型は、枝の上にも下にも満遍なく葉が付きますが、扁平型は葉の上側にはあまり葉が付いていません。(写真はオオシラビソ)
葉は硬い? 柔らかい?
▲モミの葉は硬くて痛い(写真)。シラビソは柔らかい。
気孔帯は目立つ?
▲葉裏面の白い2つの筋が気孔帯(写真はオオシラビソ)。モミのみ目立たない。
モミの仲間
日本のモミ属は5種。見た目だけでなく味にも違いがある!
葉の特徴 ①付き方 ②触感 ③葉の先 ④気孔帯 ⑤葉の味
年齢の数え方
モミの仲間は1年で1節だけ枝を伸ばします。上の写真で葉先が明るい緑の部分は今年の春に新しく伸びた部分です。左側の写真は岩木山に唯一ある高さ80cmくらいのオオシラビソです。樹齢を数えると40年ほどです。
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