2021.05.07(2021.05.07 更新)
【配布資料】今日から始める自然観察「光で会話するホタルを見に行こう」
観察ノウハウ
専門度:
テーマ:自然観察ツール
フィールド:森林河川湿原
<会報『自然保護』No.581より転載>
このページは、筆者の方に教育用のコピー配布をご了解いただいております(商用利用不可)。ダウンロードして、自然観察などでご活用ください。
よく話題に上るゲンジボタルの光の乱舞が見られるのは、神奈川では5月下旬から6月上旬。日没後30分~1時間が光の多い時間帯。この時間帯に真上に月が輝かず、風のない、雨上がりの曇った日がおすすめです。
(高橋孝洋 自然観察施設くずはの家所長)
ホタルは、きれいな水の流れる川の水辺にすむ生き物、というイメージがあります。世界にはおよそ2700種のホタルが生息していますが、このうち幼虫が水中に生息する種類は10種類ほどしか確認されていません。
つまり、99%以上のホタルは水中に生息しない、陸生の昆虫だと言うことです。たまたま日本(本州)で身近に見られたゲンジボタルやヘイケボタルが、水生という珍しい生態のホタルだったので、ホタルは水中にすむといった誤ったイメージが定着してしまいました。
ゲンジボタルの生活史
私のゲンジボタルの観察は、桜の開花するころから始まります。神奈川県の平地では、3月下旬の温かい雨の降る夜、終齢幼虫が尾端を光らせながら上陸します。上陸は3月下旬から4月上旬にかけてが多いものの、5月に入っても散発的に続き、1カ月以上観察できます。地中で前蛹・蛹の期間を約2カ月過ごし、5月下旬、成虫が飛翔し始めます。成虫は水以外餌を取らず寿命は1週間程度。卵は約1カ月で孵化し、幼虫が水中生活を始めます。
メスは地中から出るとすぐ、地表付近の草の上で発光し、オスを呼んで交尾する。オスは4秒に1回(西日本では2秒に1回)明滅し、最盛期はオス同士光るタイミングを合わせる。光るペースは気温により変わる。
卵は0.5mmほどの楕円形で、川岸の水面より上の苔などに1匹のメスが500~1000個ほど産卵。
孵化したばかりの幼虫。孵化後、水中へ。5回ほど脱皮して成長し、翌年の初夏に成虫になる。餌が不足すると、2~3年かけて成虫になる場合もある。
巻貝のカワニナを食べる幼虫。サカマキガイを食べた観察例もあるが、ほぼカワニナだけを食べる。
幼虫は土の中に数cm潜り、身体から出した粘液で周囲の土を固めて“土繭(つちまゆ)”を作る。
光のコミュニケーション
また、ホタルといえば、明るく光を発する昆虫と思われがちですが、日本国内で見られるおよそ50種類のホタルのうち、成虫がよく発光するものは10種類ほどで、残りは、全く発光しないか、発光してもほとんど目に見えないような、ごく弱い光しか出さないホタルなのです。ただし、全ての種類のホタルは幼虫の時期にははっきりと発光します。
成虫が発光するホタルは、繁殖行動の際に光を使ったコミュニケーションを行います。光で会話をするのです。オスとメスは光の交信によって出合い、交尾をします。さらに産卵行動にも光のサインを用います。西日本のゲンジボタルや、沖縄県久米島のクメジマボタルは、産卵中のメスが一定のリズムで明滅する光を使って、他のメスを産卵場所に呼び寄せ、集団で産卵をします。
光でコミュニケーションをするホタルにとって人工的な光は大敵です。水路を照らす街灯などはホタルの生息の大きな障害になります。また、観察に際しては、明るいうちに現地に着き、危険な場所など無いか十分に確認した上で、懐中電灯の使用はできるだけ控え、点ける場合は、ホタルに光が向かないように注意してください。
卵も幼虫も光る!
産卵直後の卵は、全体がわずかにぼんやり光っています。その後発光器が作られてくると、発光器が点状に光るようになり、孵化直前は強く光ります。幼虫は普段水中ではあまり光りませんが、蛹になるために上陸する雨の夜に、強く発光します。幼虫の発光は外敵に対する威嚇と考えられています。
孵化が近い卵
上陸した幼虫
有名な3種のホタルの違い
※成虫は神奈川県では6~7月中心に見られるが、地域により違う。
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