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2021.04.12(2021.04.19 更新)

屋久島・口永良部ユネスコエコパーク 低地照葉樹林の保全を求める要望書提出とその後

報告

専門度:専門度4

▲屋久島照葉樹林ネットワークから環境省屋久島自然保護官事務所の職員に要望書が手渡された(写真:手塚賢至氏提供)

テーマ:ユネスコエコパーク森林保全絶滅危惧種

フィールド:樹林帯

朱宮さん似顔絵生物多様性保全部の朱宮丈晴です。

 
2020年4月、日本生態学会、日本植物分類学会、屋久島照葉樹林ネットワーク、そして日本自然保護協会(以下、NACS-J)が同時期に環境省、林野庁、屋久島町に「屋久島の低地照葉樹林の保全を求める要望書」を提出しました。その後の状況について、現地からのレポートと併せて報告いたします。

(ご参考)生物多様性保全上重要な屋久島の低地照葉樹林の環境保全を求める要望書提出

屋久島の低地照葉樹林、とくに渓流沿いの照葉樹林に絶滅危惧植物や希少植物が多産することは、植物学者の間ではよく知られています。しかし、これまで環境省や林野庁の行政においては、その保全上の重要性が十分に認識されてきませんでした。

要望書の提出後、異例なことですがそれぞれの提出先から対応を協議する旨回答がありました。

林野庁長官からは令和2年5月28日付で、

  • 次期森林計画においても、隣接地で植栽(4ha)は行うものの、立木販売事業、林道事業、治山事業等について計上しない方向で検討していること
  • 渓流沿いの照葉樹林を保護林に編入すること、希少野生生物の保護に関する常設委員会設置等については、他の保護担保措置、例えば国有林野施業実施計画における自然維持タイプへの変更や森林施業に係る配慮事項への記載を含め、九州森林管理局に設置の保護林管理委員会において有識者の意見を聴いた上で適切な措置を講ずることとすること
  • 森林計画樹立の段階から行政機関や専門家、地元の関係者からの意見をこれまで以上に丁寧に聴くこととし、希少植物等に配慮したきめ細かな管理経営に努めていく

との回答をいただきました。

 
その後の動きについて、林野庁の現地視察に立ち会った手塚賢至氏(屋久島照葉樹林ネットワーク)からのメールを元にご紹介します。

手塚氏による活動レポート
(許可を得て、手塚氏のメールを抜粋・一部読みやすいように編集して掲載します)

*****
4月に赴任された林野庁九州森林管理局長は、屋久島へはひとかたならぬ想いをお持ちで良いタイミングでの就任でしたので管内署周りの折に会って直接話しをするのが楽しみでした。しかし、コロナ禍と球磨川の豪雨災害が続き来島が伸びに伸びてやっと9月1日面談が叶いました。

11月に入り屋久島森林管理署より、24日、25日の両日に九州森林管理局による要望書に関する現地視察を行いたいが同行説明して欲しいと連絡がありました。照葉樹林ネットワーク4人で対応、視察地はこちらで設定するとして了承、早急な対応を要望した3流域の中で、視察の時間制約もあり2流域で実施しました。九州局より計画保全部長と課長含む5名、屋久島署と保全センター10人程、環境省の屋久島事務所からも自然保護官(24日:2人、25日:1人)が同行しました。

◆現地視察2日間の様子について:

24日:
一つ目の流域。両岸の原生的照葉樹林に隣接するスギ人工林において、今年も左岸の分収育林地が伐採(ほぼ皆伐)進行中。右岸は昨年施業、次年度も計画あり。
まず、右岸の高台から一帯を望む。流域両岸の原生林と人工林の伐採事業の状況も確認して説明を行う。前岳から尾根状に連なる遺産地域との連続性、垂直分布を種の多様性が極めて高い流域、谷沿いまで含めて連結する保全の必要性を強調する。照葉樹林内に入り、森林内の国内希少野生動植物種に指定されているランの自生地において、種の多様性と菌従属栄養植物などを育むリターの状態、隣接した伐採跡地からの雨水が大雨時に濁流となって流入しリター層を流して生育に打撃を与えていることへの懸念、バッファーゾーンが無いことで乾燥化が進行する事、強風による風倒や枯死木が多く派生して狭い自生地が更にか細くなる危機的な現状などを説明する。見通しの良い川沿いでは多彩な着生ランやシダ植物を観察。
25日:
もう一つの流域。下流から上流の源流域まで3地点で視察を行なった。まず、下流の標高200m〜250mでの両岸の豊富なラン科植物、国内希少野生動植物種に指定されているシダ植物の現況や森林の植生の特色などを観察し、河岸のランなどの自生地が増水時にオーバーフローして頻繁に自生地を洗い流す現状、これは上流域の林道近辺で進行している新たな林道建設、人工林の伐採搬出施業のための作業道開設などにより大雨時に一気に増水することへの懸念があることを指摘した。続いて最上流500〜600mの流域では特異なシダ類の自生地となっており、この流域は低地から高標高まで連続的に国内指定種5種を含む希少種が多数自生していることから下流・中流・上流域まで一帯とした保全の必要性を訴えた。また現在進行中の大規模な自然改変を伴う林道建設現場も視察したが時間があまり取れずに心残りだった。

以上が2日に渡る現地視察の概略ですが、現地では常に意見交換を行い2日目終了時には今後の林野庁、環境省と意見交換しました。

当方としては、今回の要望書の目標は林野庁の保護林指定、環境省の生育地等保護区の指定をステップとして、国立公園への編入、そして最終的には世界自然遺産登録であることを明確にお伝えしました。そして、それに匹敵、または準ずる価値のある森林と認識し、そのためには林野の保護林指定のカテゴリーではより保全のランクの高い「森林生態系保護地域」の指定を強く望むことをお願いしました。

九州森林管理局ではすでに今回の要望書の案件は保護林検討会でも検討が始まっているとのことでしたが、検討委員の中からは希少個体群保護林の指定で良いのではとの意見が出ているとの発言があったので、特に日本生態学会からの林野庁への要望には明確に森林生態系保護地域への指定を謳ってあることを指摘し、この地域の重要性からすれば充分な検討が考慮されることを重ねてお願いしました。

▲林野庁職員などと照葉樹林の視察のようす(写真:手塚賢至氏提供)

NACS-Jからも、低地型照葉樹林を保護林等の保護制度で担保すべきと要望を行いました*1。全国的にも低地型照葉樹林の保護担保措置は進んでいないことが指摘されています(NACS-J 2013、朱宮ら 2013)*2
この屋久島での動向は象徴的な事例であり、他の地域でも我々にとって身近な照葉樹林の保護に向け参照されるモデル的な取り組みになることを期待しています。

 

ご参考

*1生物多様性保全上重要な屋久島の低地照葉樹林の環境保全を求める要望書を提出しました(2020年)

*2照葉樹林生態系を地域とともに守る : 宮崎県綾町での取り組みから(2013年)
朱宮 丈晴, 小此木 宏明, 河野 耕三, 石田 達也, 相馬 美佐子(外部サイトに繋がります)

 

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