2021.03.03(2021.03.10 更新)
【東日本大震災から10年】小泉海岸。子どもたちに伝えたいこと(宮城県)
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▲防潮堤の現在の様子(2021年1月27日撮影)。
テーマ:防潮堤・護岸
フィールド:砂浜海岸
震災時、最大21mの津波が押し寄せた気仙沼市小泉海岸。それから10年。小泉海岸には、高さ14.7m、幅90mという県内最大の防潮堤が建設されました。
震災後、小泉海岸には多くの生き物が戻っていました。もともと砂浜が少ない三陸地域で小泉海岸は海辺の生態系の保全を考える上で重要な砂浜です。
住民の高台移転が進む中、砂浜を埋め尽くす巨大な防潮堤が本当に必要なのか、議論がし尽くされないまま決まった計画でした。防潮堤計画の見直しを求め活動を続けた小学校教師の阿部正人さんに話を伺いました。
――2019年の春、工事がほぼ終わり、市民の方も海岸に立ち入れるようになったそうですね。完成した防潮堤をみて、何を思いますか?
阿部さん:海岸に子どもたちを集めて、防潮堤の上で遊ぶイベントをしたいと思っているんです。まず、14mもの大きな防潮堤の存在に気づいてもらう。そして、10年前はこの防潮堤をはるかに超える津波が来た、という事実を伝えたい。防潮堤があっても津波は来る。地震が起きたらすぐ逃げる。あの場で遊ぶことによって、防潮堤では守り切れない津波が来るという防災意識を忘れられないようにしたいんです。
そして、もともとはこんなコンクリートで覆われた海岸じゃなかったということも伝えたいです。今の子どもたちは、震災後の復興工事でコンクリートで固めらていく街の姿しか知らないわけです。防潮堤建設や河川工事によって大きく改変された海や川を「自然」とみる子どもも多いと思うんです。自然を壊してなぜ作ったのか、という意味も含めて、本来の自然の仕組み、価値、美しさを伝えたいと思っています。今はもう本来の自然の姿がない状態だから、それらを伝えるのが難しくてどうやろうって悩んでいたりしますけど。
――地域の人たちはどう見ているんでしょうか?
阿部さん:復興工事も終わりが見えてきて、生活も再建し、ようやく落ち着いて物事を考えられるようになった状況です。子どもの頃からいろんな川で釣りをしていたという知人は、「これまで全然、釣りとか行けなかった。これからいろんなところに行きたいけど、川はどうなっているんだろう?」と話してます。川や海が実際にどうなっているのか分かるのはこれからだと思います。
震災前にはなかったうれしい動きもありますよ。2019年の夏、小泉海岸の海開きがありました。そして去年は、若い人たちが中心になって、夏場の海水浴だけじゃなく、SUP(スタンドアップパドル)やビーチサッカーなど、一年を通して市民が海辺に親しむ企画をしていたりします。震災を乗り越えて明るく生きていくために、若い人たちが地元を盛り上げようとしているんですよ。
――小泉海岸に砂が戻ってきているそうですね?
阿部さん:自然の回復力ってすごいですね。海岸に入れるようになってからは毎週のように通ってますが、少しずつ砂が戻ってきているんです。最近は、海浜植物も生えてきました。自然を観察し続けることの大切さがよく分かります。
でも、僕も震災前はこうした海辺の生態系についてよく知らなかったんです。海浜植物があっても目に入っていなかった。他の大人たちも同じような感じだったと思います。環境教育とかなかった時代の大人が被災して、防災のために砂浜を埋めて防潮堤を作ることを疑問に思わなかったのも仕方なかったんだな、って今は思います。
この10年は教育の大切さを痛感しました。だから、これからのまちづくりを担う子どもたちに、海辺の自然観察会を開いたりして自然と防災のことをきちんと伝えたいんですよね。
①工事前、2015年7月の小泉海岸。海浜生態系を支える本来あるべき地形になっていた。
②2019年夏の海開き以降、海辺ではさまざまな楽しみ方をするために訪れる人が増えた。③ハマヒルガオやコウボウムギなどの海浜植物も着実に根付いている(2020年6月)。④シギ・チドリなどの海鳥も訪れる。
⑤阿部さんは毎月一日にビーチクリーン活動を開催。この写真は高校生主催のもの。(写真:阿部正人)
特集『東日本大震災から10年~復興と自然の移り変わり~』
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