2020.12.04(2020.12.07 更新)
四国ツキノワグマと「クマ剥ぎ」
報告
専門度:
テーマ:絶滅危惧種
フィールド:森林
こんにちは!広報会員連携部の後藤ななです。
日本自然保護協会(以下、NACS-J)では、2017年より絶滅寸前となっている四国のツキノワグマの保護を目的に、日本クマネットワーク、四国自然史科学研究センターとともに活動を進めています。
四国のツキノワグマの保護活動3年間の活動報告 ~剣山系付近にのみ16~24頭生息~
今回、10月14日~16日に、これからの四国のツキノワグマの活動をどのように発信していくか検討するために、徳島県、高知県にまたがる生息地付近に行ってきました。
この視察では、現地で活動を進めている四国自然史科学研究センターの安藤喬平さんにご案内いただき、地域で活動されている様々なセクターの方にお会いすることができました。その様子を、4回に分けてご紹介します!
クマ剥ぎの現場
3日目には、「クマ剥ぎ」がみられた現場に向かいました。
ツキノワグマたちは、初夏の季節に「クマ剥ぎ」という行動をします。これは、木の表皮を前足や口を使って剥き、現れた形成層の部分を前歯(門歯)で削り取る行為です。
ツキノワグマにとって、冬眠時期を除く活動期間のうち、春先は山菜、夏から秋には木の実やどんぐり等が成りますが、食糧が最も少なくなるのは初夏なのだそうです。
一説には、食糧が少なくなる初夏に、クマ剥ぎを行って腹の足しにしていると考えられています※。
※ 補足:ツキノワクマがなぜクマ剥ぎを行うのかは諸説あり、まだ詳細はよくわかっていません。
しかし、この「クマ剥ぎ」は林業との軋轢を生みます。クマ剥ぎをされた木は、その部分だけ成長が止まってしまうため、傷のついた木材として価値が下がってしまいます。
昔から林業が盛んだった四国では、害獣としてツキノワグマの駆除が行われました。1970年代まで駆除の報奨金までありました。
その結果、1980年代には、ツキノワグマの目撃も林業被害も減少し、一転して「幻のクマ」となりました。
個体数が減少した今も、一部地域でクマ剥ぎが報告され、その状況を四国自然史科学研究センターの皆さんが確認作業をされています。
今回は、そのクマ剥ぎの現場をじっくり見させていただきました。
現場に行くと、はじめに、登るために手で枝などを掴まないといけないくらい急斜面であることに驚きました。ツキノワグマたちにとっては、この程度の傾斜は朝飯前のようです。
写真のものは、今年の6月頃に確認されたものだそうです。ツキノワグマは、1か所木を見つけると、列状に次から次へとクマ剥ぎをしていくそうで、同じ場所には何本ものクマ剥ぎ跡がみられました。
間近でみると、クマの門歯の跡がわかります。面白いことに、このクマ剥ぎには、右下のほうに小さく斜めに門歯で削った跡があり、この個体の「サイン」のようでした。こうした行動のクセも、個体ごとに異なっているのだそうです。
戦前・戦後から拡大造林が進み、ツキノワグマとの軋轢が深まった時代を経て、現在においては、ツキノワグマは「幻のクマ」と言われるまでに減少し、一方で人工林の放置なども進んでいます。
このように、人間と森の関わりあいが変化するなか、ツキノワグマも暮らせる豊かな森を取り戻していくためにも、四国のツキノワグマの現状把握と保全を進めるとともに、地域の方々にとっても、「ツキノワグマがいてもいい」「ツキノワグマがいることも地域にとって大切なことだ」と思ってもらえる状況を生み出していくことが大事になると思います。
現地でご案内いただいた皆さま、本当にありがとうございました。
今後も、日本自然保護協会は、地域の方々とともに四国のツキノワグマの保全のために取り組んでいきたいと思います。
NACS-Jでは、日本クマネットワーク、四国自然史科学研究センターと協力して「四国ツキノワグマ保護活動」を進めています。
世界で最も小さい島に生息するツキノワグマを守り続けるために、皆さまからのご支援をよろしくお願い致します。
★おまけ:今年、四国では、本州と異なりブナやミズナラが豊作なのだそう。四国のクマたちはしっかりどんぐりやブナを食べて冬眠の前の冬支度ができたのでしょうか。