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2020.10.02(2020.10.02 更新)

NACS-J市民カレッジ シリーズ88「生物多様性、次の10年のキーワード」を開催!ご質問への回答も紹介します

イベント報告

専門度:専門度2

テーマ:国際生物多様性条約

こんにちは。自然のちから推進部の岩橋大悟です。

新型コロナの影響で休止していた大人気の市民講座「NACS-J市民カレッジ」がオンラインで復活しました。復活第一弾はNACS-Jの職員で、IUCN-Jの事務局長でもある道家哲平を講師に、大きく変わりつつある生物多様性の世界の最新動向を皆さんと一緒に学びました。

募集定員を大きく上回る150名近い皆さまにお申込みをいただき、当日もたくさんの皆さまにご参加いただきました。どうもありがとうございました。

事務局の私たちもオンラインでの開催にはまだまだ不慣れなことも多く、ご迷惑をおかけしてしまうこともあるかと思いますが、温かく見守っていただけたら幸いです。

NACS-J市民カレッジは、これからも、だいたい1か月に1回を目途に開催をする予定です。ぜひご注目ください。

最後になりますが、シリーズ88回を実施した当日、時間の関係でお答えすることのできなかった以下の質問につきまして、講師の道家からの回答を記載させていただきます。タイムリーにお答えすることができませんでしたこと、どうかご容赦ください。

 

ご質問 その1

「生き物の多様性がどうして大切なのか」を<自然に全く興味のない人>に 、どうすれば「分かり易く、説得力を持って、簡潔に」説明できるかについて 、道家さんの考えを教えて下さい。

道家からの回答:
多くの人に伝えられる一つの方法(One fits allという慣用句で言ったりします)はないと考えています。IUCNのコミュニケーションに関する委員会に入って、時々世界の人と情報共有しますが、まだ見つかっていません。

生物多様性条約やラムサール条約などの考え方をご紹介すると、まず、<自然に全く興味のない人>を知ることが大事とされています。そして、そもそも、<自然に全く興味のない人>に説明して、どうしたいのかを考えることも大事とされています。

金儲けのために、自然に興味なく、自然破壊している人がいたとしたら、「あなたの行動は、いずれ大損をもたらす(捕まる、儲けの種そのものが失われる)」という説得をするでしょう。<自然に全く興味のない人>で、自然に悪影響を特にもたらしていない人なら、必死に説明する必要はありません。

真面目なんだけれど、自然に全く興味なく、自然破壊につながる行動をする人がいれば、その人に響く説明をします。「自然破壊で苦しむ人々、生き物がいる。将来の子供のため、あなたのことは知らないけれど、沢山の恵みを地域の人にもたらす自然を壊さない方法を考えて欲しい、一緒に考えましょう。自然を壊さずにあなたの目的達成できる方法もありますよ」などなど。

一方で大事なこととして、「幼少期にポジティブな自然体験をしている」「身の回りに、自然を守る大切にするロールモデルがいた」「思い出とか、何となく好きな風景とか、自分につながっていると感じる場所(場所の感覚、場へのつながり感)がある」と人は自然を大切にする行動をとるようになるという科学論文が生物多様性条約の会議でも注目されました。日本自然保護協会が要請している自然観察指導員が増え、活躍することで、<自然に全く興味のない人>が、少しでも減っていくことになると信じています。

 

ご質問 その2

「生物多様性条約」では、冒頭に「人類は地球生態系の一員として他の生物と 共存しており、、、」と高らかに宣言しておきながら、その最終目的は 「遺伝資源の利用から生ずる利益の公正かつ衡平な配分」となっています。この目的がいかにも人間至上主義的な事柄に聞こえて、違和感を感じています。

今日のお話とこの最終目的との関わりについて、考えをお聞かせ下さい。

道家からの回答:
遺伝資源の利用から生じる利益の公正かつ公平な配分は、条約の理念としても重要な目的であると思っています。

1970年後半から、遺伝子工学につながる研究開発が先進国中心に拡大し、医薬品・化粧品や健康産業などでの製品化し、市場規模も拡大しています。この際に重要なのは、商品になるかもしれない、未知の生物種を守り、保持している国=通常、発展途上国が多いこと。有用な成分があること先住民地域共同体が知り、守ってきたということも多々あります。

それらの知識を“時に奪いながら”利用してきた先進国という歴史が存在します。途上国からすれば、貴重な自然を守れと国際会議で先進国が言うのは「自分たちの産業の種を守れ」というように聞こえるかもしれません。

「遺伝資源の利用から生じる利益の公正かつ公平な配分」という目的条項には、人と自然が共存し、ささやかながらも得ていた恵みや知恵を、不公平に奪われない国際社会のルールを作るのだという、途上国が勝ち取った思いがあります。

国際交渉では、そういった国や先住民地域共同体の声などが、ちゃんと聴いてもらえるようになったのは、ここ10~20年程度でのことです。

 

ご質問 その3

愛知目標は殆ど失敗だったとのことですが、次の目標は「昆明目標」* として完結することになるのでしょうか?

道家からの回答:
「昆明目標」と呼ぶかどうかも協議されていないので、まだわかりませんが、愛知目標は昆明目標(仮)ができたら、置き換わりますので、過去の目標ということになります。

ただ、「愛知目標が達成できなかった、別の目標立てて頑張ります。」という「僕、宿題終わらなかったから、とりあえずなしにしてもらって、今度は頑張る。」などということはなく、愛知目標の上に要素や意欲度(例えば、保護地域面積を広げるという要素はそのままに、目標値を増やすといった)の追加となるように、NGOも監視しながら、次期目標の議論が行われています。

*昆明(こんめい)とは、2020年、生物多様性条約COP15が開催される予定だった中国の都市の名前。COP15は新型コロナウイルスの世界的感染拡大の影響を受けて、2021年に開催が延期されました。

 

ご質問 その4

自然保護がビジネスとして儲かる仕組みができると、一気に自然保護が進むと思いますが、誰が自然保護にお金を支払うかと考えると、とても難しい気がします。

道家からの回答:
世界経済フォーラムなどが想定している(と思われる)ものは、農業=食べ物を作り、人に売るという点はそのままに、食べ物を作る過程、作る空間が、自然を守ることにもつながっているというビジネスモデルをお輿し、広げていくということではないかと思います。その意味で、お金を払う人は、食べ物を買う人という構図です。

あるいは、ある建築物を作るときに、「カッコいい家建てられます」という業者Aと、「自然に配慮した家を建てられます」業者Bがいたら、業者Bに仕事が依頼されるという社会です。あるいは、国土交通省が道路建設の業者を選定するときに、「自然配慮できれば、入札時に追加点」ではなく、そもそも「自然配慮型の道路を建設できる事業者の皆様、応募してください」として発注する社会です。

この社会に進むためには、決して簡単ではありません。ですが、不可能ではなく、ビジネスと雇用拡大のチャンスがあるものとして、ポジティブかつ必要なこととして、報告書などで描かれているというのが大事な点だと思います。


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