2020.09.25(2024.08.31 更新)
海の保護の課題に迫るジンベイザメ博士(の卵)からの質問
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テーマ:海の保全絶滅危惧種
フィールド:海
広報会員連携部の道家哲平です。
日本自然保護協会(NACS-J)は、国際自然保護連合(IUCN)の日本委員会の事務局を務めています。IUCNといえば絶滅危惧種のレッドリストが有名で、時折、レッドリスト関連の問い合わせを受けることがあります。メディアの方、研究者の方、企業の方。いろいろな人からの問い合わせに答えています。
なかには、テレビ番組のバラエティーのクイズで生き物を扱いたいからとか、誰でも調べられる仕組みのはずなのに「XXという生き物は絶滅危惧種でしょうか」といったものもあります。
この9月、そんな質問とは一線を画した “ジンベイザメを大切に思う” 小学6年生からお問い合わせをいただきました。
ご質問の内容は「海の魚がレッドリストに初めて記載されたのはいつ?」というもの。思いがけない質問に、過去発行されたレッドリスト(古い時代は、レッドデータブック)を調べて何とかお答えしたのですが、、、、。
冷や汗かきながら情報探しつつ、お話を続けていると、海洋生物の保護における日本の課題が浮き上がってきました。この度、やり取りの内容を公開しても良いとご快諾をいただき、こちらでご紹介いたします。
彼は、小学1年生から6年生の今まで、ずっとジンベイザメを調べ続け、時に「図書館をつかった調べる学習コンクール」で表彰されたこともある博士の卵だったようです。IUCNレッドリストでジンベイザメが絶滅危惧種であることも、2016年に危機ランクが上げられたこともすでにご存じでした。
冒頭の質問を投げかけることになった経緯を聞くと、
- 「世界では危機ランクが上がっているのに、なぜ日本では絶滅危惧種に分類されていないのか?」
- 「海の生物の保護は、陸の生き物と比べて遅れているのではないか」
- 「それはなぜ?魚だから?」
- 「調べたら、淡水の魚は早い段階(1979年)でレッドデータブックができているぞ」
- 「では、レッドリストで初めてサメが掲載されたのはいつ?そして、それは遅いのではないのか」
と、疑問と予想と調査とを重ねながら、最初の質問に行き当たったそうです。
NACS-Jに問い合わせる前に、地元の図書館で1時間以上司書の方と様々な文献を読み探しても、答えに行きつかず、これはIUCNに問い合わせるしかないと結論付けて、私たちの事務所にお電話がかかったのでした。
彼が、今一番心配しているのは「日本が海洋に棲む魚類の保護について関心が低いこと」。
気候変動による海水温上昇にともなって、ジンベイザメの生息域が北上して、日本の沿岸域と重複するようになったのに、日本における海の保護が不十分で、ジンベイザメが守れないのではないかと危惧しています。なぜなら、日本の海洋生物のレッドデータブック(2017発表)にも、絶滅危惧種と認識されていないから、と。
やり取りを進めるなかで、「日本のレッドデータブックで、他の絶滅危惧のサメはリスト化されているのに、なぜジンベイザメがリストに入っていないのか?」という質問がありました。しかし、残念なことに、日本のレッドデータブックは、IUCNのレッドリストとは異なり、①評価していないのか、②情報不足で評価できないのか、③評価したけれど絶滅危惧種でないと判断したのか、そうした情報がなく、お答えすることができませんでした。
重要な着眼点であるにも関わらずこの問に答えることができない現状のレッドデータブックの仕組みの課題についても、改めて気づかされました。
小学生6年生の彼とのやりとりは40分にわたり、ジンベイザメからレッドデータブックの課題、海の生物の保護が遅れている問題などに迫るものでした。
温暖化で追いやられた先が、海の自然保護が十分ではない国で、そこに生息する海洋生物が心配という視点は、とても大事な感性であり、その現状に改めて心が痛みました。やりとりを通じて、私自身、気づきの多い時間となりました。
これからも、彼の問題意識と探求心が健やかに育まれ、いつかこれらの課題を一緒に解決できる日を望むばかりです。