2020.07.22(2020.08.02 更新)
メディアも報じなかったある「数字」(IUCNレッドリスト2020解説-3)
解説
専門度:
テーマ:環境教育絶滅危惧種
日本自然保護協会は、国際自然保護連合日本委員会(IUCN日本委員会)の事務局を1988年から担っています。
2004年より、15年以上事務局担当をしているベテランスタッフの道家によるIUCNレッドリスト2020の解説をご紹介します。
評価種数12万種(120,372種)を超したというニュース
IUCNレッドリストは、2020年3月にも更新されていました。その時の評価種数は、116,177種。今回の更新までの約4カ月の間に4195種も新規評価が行われたことになります。IUCNのレッドリストは、野生生物の絶滅リスクを、感覚的ではなく、数的に把握しながら判断します。危機の状況を分析する性質上、過去と現在を比較することで個体数や生息範囲を把握していなければ評価はできません。
ゴリラやパンダなど注目を浴びる生物はもうすでに評価されています。その中で“新規評価”ということは、つまり、世間からあまり注目を浴びないような生き物も対象に、過去の分布データも収集しながら、世界中の研究者やNGOが協力して、4000もの生物種の状況を調べた結果が反映されたことにほかなりません。
この地道だけれど大事な数字について、ぜひご注目いただきたいと思います。ちなみに、1年前の2019年7月のリリースの時は105,732種で、1年間で、15,000種弱の評価が新たに加わりました。
評価数の急増の背景に、日本企業の貢献
▲IUCNレッドリスト評価種数の変化
さらに評価種数についていえば、急増傾向にあるという点にも注目して欲しいと思います。図表の黒線が評価種数の推移ですが、2004年前後で急増しているほか、2010年、2017年で評価種数の増加傾向(評価種数の拡大)に変化があります。2010年は、生物多様性条約締約国会議(COP10)が日本の愛知県・名古屋市で開かれ、生物多様性愛知目標(以下、愛知目標)が設定されたことに起因します。
2017年の変化のきっかけを作ったのは、2016年に行われた「トヨタ自動車とIUCNのパートナーシップ協定」です。2014年、愛知目標達成の基盤となるIUCNレッドリストについて、IUCNは、5万種程度だった評価種数を、2020年までに16万種を評価するという公約を掲げました。
この公約に、トヨタ自動車がサポートを表明。協定締結の前年2015年には、国連持続可能な開発目標(SDGs)が採択され、レッドリストから作成されるレッドリストインデックスが、SDGs15(陸の豊かさを守ろう)の達成指標の一部となりました。これは、現在、SDGsへの取り組みとして幅広い活動を展開しているトヨタ自動車において、そのアクションの先駆けとしても捉えられる出来事でした。
レッドリストは、政府でも企業でもないIUCNが50年以上にわたって、研究者やNGOの自発的な協力を得ながら、科学的に基づく評価を行ってきました。このような仕事は税金で行われるべきかもしれません。しかし、良くも悪くも政治化されるのを避けるため、多様な資金源からの支援を獲得してきました。
世界の生物多様性の保全状況をみる物差しとなるIUCNレッドリストの作成に、日本や日本企業が様々な形で貢献していることも、この機会に知っていただきたいです。
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IUCNレッドリスト2020解説
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