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2020.07.22(2020.08.02 更新)

レッドリストとグリーンリスト、ウナギの未来(IUCNレッドリスト2020解説-1)

解説

専門度:専門度2

テーマ:環境教育絶滅危惧種

日本自然保護協会は、国際自然保護連合日本委員会(IUCN日本委員会)の事務局を1988年から担っています。

2004年より、15年以上事務局担当をしているベテランスタッフの道家によるIUCNレッドリスト2020の解説をご紹介します。


マツタケ、遠くへ

「マツタケ、遠くへ」(朝日新聞2020/7/10)という秀逸な見出しも躍った今回のIUCNレッドリストの発表。ヨーロッパハムスターやキツネザルなど報道各社それぞれの視点で、このニュースを伝えています。

元になったものは、キツネザル類の約3分の1とタイセイヨウセミクジラが「深刻な危機(CR)」 に-IUCNレッドリストという7月9日21時に報道解禁されたIUCNニュースです。

IUCNレッドリスト」とは、野生動物の生息生育状況や危機要因などをもとに、絶滅リスクが評価された生物とその情報が掲載されているデータベースです。国際自然保護連合(IUCN)が1964年から作っています。IUCNの組織内にある種の保存委員会(7500人加盟)を中心に、世界中の生物の一種一種について、研究論文や調査結果をもとに絶滅の危機状況を評価し、それらの絶滅リスクを、絶滅危惧を含む8つのカテゴリーに分類します。

専門家グループによる評価作業は世界中で日々行われ、その結果を年に2回程度(初夏と冬)の頻度でデータベースに反映し、主な変更や新規の評価を取りまとめたものがニュースとして発信されます。IUCNレッドリストに掲載されることで、直ちに法律上規制が行われることはありませんが、法規制の「参考情報」となっています

IUCNレッドリストは、絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約(ワシントン条約)の参考資料となっています。

今回のリリースは、暗い話題ばかり

「絶滅の危機について報じるのだから、暗いニュースや、ネガティブな情報ばかりだろう」と思われるかもしれませんが、IUCNレッドリストは科学的評価ですので、保全状態が改善に向かえば、ダウンリスト(危機ランクが下がる、例えば絶滅危惧から準絶滅危惧になる等)も生じます。

ダウンリストは、これまでもありました。例えば、ジャイアントパンダ。2008年の評価で、危機(EN)に分類されていましたが、2016年に危急(VU)にダウンリストされました。保全活動は、無力ではなく、各地で着実に成果を出しつつあります。過去のIUCNのリリースでは、積極的に成功事例を発信してきました。

しかし、今回のIUCNレッドリストの改訂では、そうした成功事例の紹介がゼロでした。「暗い話題ばかりがなぜ“ニュース”なの」という意見もあるかもしれませんが、これは非常に残念ながら、現在の世界中の野生生物がおかれた状況を伝える、重要なニュースとみるべきでしょう。

ハムスターの写真

▲今回「CR(深刻な危機)」と評価されたヨーロッパハムスター ©European hamster Cricetus cricetus – Mathilde Tissier (IPHC–LIFE Alister)

まだ、つかめない、ウナギの未来

2014年に、絶滅危惧と分類され大騒ぎとなった二ホンウナギの再評価が行われていました。今回は、前回の評価から5年後となる再評価ですが、「シラスウナギ、キウナギ、ギンウナギの各データが、24年間で50%以上減少している」という理由から、危機(EN)の評価を据え置きました。

ランクは変わらなかったものの、生息や個体数、危機状況などの記述が具体的な数値とともに充実し、評価の参照となった論文量が2倍に増えました。レッドリストにおいて「絶滅危惧」という警告音が鳴らされたために、研究の充実などの成果が生まれていることが分かります。

ただ、個体数を増やせるような明確な措置はいまだ取られている状況とはいえず、今後、ニホンウナギの絶滅リスクを下げるためには、過剰漁獲への対策、国際協力に加え、生息地である河川環境の改善など総合的な対策、そのためのウナギの生態の普及営発といった地道な活動が必要と考えられます。

今年、日本自然保護協会では、ニホンウナギ減少の問題を解決へと導くためには、ステークホルダーによる状況の正確な理解が欠かないと考え、2020年土用丑の日を前に、「ウナギいきのこりすごろく」を発表しました。

◆7月21日は土用の丑の日!なぜ絶滅危惧種に?遊んで学べるウナギすごろくを発表:

https://www.nacsj.or.jp/media/2020/07/20931/

グリーンリストの策定へ

IUCNやIUCNを構成する加盟政府や団体は、世界各地で数多くの保全活動を展開しています。現場の保全活動を進めるためにも、IUCNでは、レッドリストと対をなすグリーンリスト(“The IUCN Green List of Species”)を開発し、個体数の回復や、保全の成功度合いを測定する手法を研究しています。

いつか、世界中で保全活動が充実し、各地で生物多様性が豊かに保たれ、IUCNレッドリストよりも、IUCNグリーンリストのリリースのほうが割くページ数が多い、という未来を、IUCN加盟団体でもある日本自然保護協会も作り上げたいです。


IUCNレッドリスト2020解説

1.レッドリストとグリーンリスト、ウナギの未来
2.マツタケは遠きにありて思うもの?
3.メディアも報じなかったある「数字」

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