2021.09.21(2022.08.19 更新)
すべてのこどもに自然を!プロジェクト
募集自然観察指導員報告
専門度:
テーマ:人材育成子育て
☆本プロジェクトについての概要パンフレットを公開しました
本サイトより短くまとめましたので、ぜひご覧ください。自然観察指導員の方はご自身の活動でお使いいただけると幸いです。
すべてのこどもに自然を!プロジェクト概要パンフレット(PDF:981KB)
【2022年8月17日更新】
本プロジェクトと連動した自然観察指導員講習会を2022年10月に開催します。本プロジェクトのメインメンバーが講師を務めます。ぜひお申込みください。
【2022年2月18日更新】
乳幼児との自然観察会について、実践のコツを講義で学び実際に乳幼児に実践練習する「研修会」、を開催しました。詳細はこちらをご覧ください。
すべての子どもに自然を!
自然との豊かな体験は、子どもの感性・知性・心を育み、子どもの成長にとって大切だといわれています。また、自然と人がうまく付き合っている社会を作るためには、幼少期の自然の原体験※1が非常に大事です。(参考記事:【子育てと自然】第1回:子どもに自然とふれあわせるのはなぜ良いのでしょうか?)
しかし、子どもの自然体験はまだまだ低水準に留まっています。また、家庭の境遇によって自然体験格差ができてしまっています。そこで、日本自然保護協会(以下、NACS-J)では通常の自然観察会には参加しにくい境遇の子ども達を含め、すべての子どもに自然の原体験を届けることを目指したプロジェクトを実施します。
子どもの自然とのふれあいは今どなっているの?
◆全国的に子どもの自然体験は低水準
子どもの自然体験についての全国的な調査の結果からは、年々子どもの自然体験が乏しくなっていることが明らかとなっています。子どもが過ごす生活環境自体が変化していて、都市開発のせいか、昔にくらべて身近な自然が少なくなっています。さらに、自然が豊かなはずの地方でも、子どもの自然体験は都市部と大差がないという調査結果が出ています。つまり今の子ども達は、シニア世代や親世代の幼少期よりも自然に触れにくい環境に置かれているのです。
国立青少年教育振興機構「青少年の体験活動等に関する意識調査(令和元年度調査)」より
(2016年度に当会が行った自然観察指導員活動調査より)
「青少年の体験活動等と自立に関する実態調査」(平成22年度調査)より
※小学生、中学生、高校生のアンケート結果をまとめたもの
◆家庭の境遇の格差が子どもの自然体験の格差を広げています
日本では、世帯収入が低い家庭ほど子どもの様々な生活体験が少ない傾向があります。そして教育・体験の差が、学歴の差、そして大人になってからの年収の差にまで影響することがわかっています。このような貧困の連鎖は今大きな社会問題になっています。
幼少期の自然体験も、子どもの自己肯定感や学力に影響する要素の一つです。特に小学校低学年までの自然体験や動植物との関りが、その後の人生に影響を及ぼすことが分かっています。しかし自然体験についても、年収が低い家庭で少なくなっています。
金銭面だけでなく時間的にも精神的にも余裕がない家庭では、「子どもに自然体験をさせたい」と思ってもそれが叶わない場合があるのです。例えば、全国のひとり親家庭の50.8%は相対的貧困※2にありますが、親が家族を食べさせるために毎日働かざるを得ない場合が多々あり、疲れ果ててしまうという深刻な状況もあります。
ひとり親でなくても、両親のどちらかが病気で動けなくなってしまうと、たちまち家庭の状況は変化します。日本では誰でも、いつでもこういった状態になる可能性があると、私たちは感じています。NACS-Jでは、このような家庭の子どもたちが、通常の自然観察会に参加しにくい層の一つだと考えています。
すべての子どもが通う「学校」での自然体験を増やそうとする取り組みもあります。しかし、学校現場は多忙を極めており、よほど意欲的な教師と理解がある学校でない限り、自然体験を増やす余裕はほとんどないのが現状です。そして、コロナで社会が受けたダメージにより、さらに余裕のない家庭は増加することが予想され、家庭の境遇による子どもの自然体験の格差はますます広がる可能性があります。
国立青少年教育振興機構「青少年の体験活動等に関する意識調査」(令和元年度調査)の図を改変
国立青少年教育振興機構「子どもの体験活動の実態に関する調査研究」平成22年度に追記
※2相対的貧困とは、家庭で使えるお金がその国の中央値の半分に満たず、国の文化・生活水準と比較して困窮した状態のことと定義されています。日本は、人口に対して相対的貧困に該当する人を割合にした「相対的貧困率」がOECD加盟国の中で10番目に高い国で、おおよそ7人に1人の子どもが相対的貧困にあります。日本は先進国の中でも所得格差が大きく、長期的にその格差は拡大傾向にあるのが現状です。
◆幼少期の自然との付き合い方が自然保護の実現に直結します
子どもの頃に自然体験が多いほど、自然保護に根差した行動をする人の割合が高くなることが分かっています(図1)。また、NACS-Jが養成している自然観察指導員に話を聞くと、大学・社会人時代には自然とは縁遠い生活をしていても、小さい頃に自然の中で過ごした楽しい思い出がきっかけとなって、その後自然保護活動を始めたという方がとても多く、幼少期の自然の経験の重要性を強く実感しています。
自然の原体験が少ない人が増えると自然を重要視しない社会が形成されやすくなると私たちは危惧しています。そのためNACS-Jは、一般の自然観察会に参加しにくい境遇の子どもであっても参加できるしくみを作り、自然が与えてくれる豊かな体験と学びの場を増やしていきたいと考えています。また、その際には自然から一方的に搾取するような自然体験ではなく、自然のしくみを五感で体感できる工夫がある自然体験こそが自然保護につながると考えています。
図1:自然保護の行動(ここでは里山の自然環境調査)をしている市民と、そうでない一般の方とに聞いた、幼少期の頃の自然体験(NACS-J未発表データ(2016)より)
プロジェクトの内容は?
NACS-Jには、自然の魅力を伝えたいと願う、自然観察指導員の仲間が全国に約8000人います。このプロジェクトは、全国の自然観察指導員と一緒に下記のような活動を広めていくことを目指します。
1.乳幼児に届ける
自然とふれあう時間を工夫することで、乳幼児の心身を成長させ、自然と共生できる見方を育み、子どもの人生をより豊かなものにすると私たちは考えています。そこで、NACS-Jは、乳幼児にも自然の原体験を届けることにしました。
従来の「観察会を開いて待つ」方法では、余裕がない家庭や親の関心が高くない家庭の子は参加が難しいでしょう。そこで、すべての子どもに届けるべく、多様な家庭の乳幼児が利用する「保育園・こども園」を中心に自然の原体験を届けることを目指し、下記の取り組みを行います。
②乳幼児との活動テキストの作成
NACS-Jには「ネイチュア・フィーリング」など、多様な個性の方と、五感を使って自然のしくみを体感するノウハウがあります。また全国の自然観察指導員は多岐にわたる活動を長年精力的に実施しています。そういった経験と専門的な知見と合わせて、乳幼児を豊かに育むためのコツや考え方をまとめたテキストを2022年度に作成する予定です。
③保育園やこども園等に自然観察指導員が出向く支援
たくさんの人と自然の不思議やしくみ、魅力を共有してきた自然観察指導員が園に出向き、外遊びやお散歩に同行する活動を支援します。一部地域で2022年から試行をはじめて徐々に全国に拡げていく予定です。
☆自然観察指導員と活動したい園の方や、既に園で活動されている自然観察指導員の方、園で活動したい自然観察指導員の方はぜひNACS-Jにお知らせください。
④保育士・幼稚園教諭を目指す学生さんへの研修
学びの期間である学生さんに、NACS-Jが長年の教育活動で養ったノウハウを学べる研修会を各地で開催していきます。保育士や幼稚園教諭を育てる大学や専門学校との共催開催を徐々に増やしていく予定です。
☆本研修を共催いただけるという養成校の方は是非お知らせください。
⑤現役保育士や幼稚園教諭への研修
現場の皆さんが身近な自然をもっと保育や教育に活かせるコツをお伝えしたいと思っています。
☆NACS-J関係者による研修や実習をご希望の園はいつでもお知らせください。ご希望を随時承っております。
2.小学生に届ける
全国で自然観察指導員による小学生との自然観察会が各地で活発に行われています。小学校と連携した活動を組織的に進めている指導員のグループや、こども食堂・フリースクールと一緒に活動している方もいます。NACS-Jもこれまでに『小さな自然かんさつ―こどもと楽しむ身近な自然 (フィールドガイドシリーズ)』を発行したり、指導員向けの研修を開いてきました。ただ、これだけ全国的に盛んに活動があっても小学生の自然体験が伸び悩んでいるため、今後さらに多くの小学生に届けられるように、活動を行っていく必要があります。乳幼児向けの活動から着手するため、具体的な活動は未定ですが、下記はこれまでと同様に継続していきます。
①自然観察指導員の紹介
小学校や地方自治体・企業等の要望に応じた、地域の自然観察指導員の紹介を継続します。
☆自然観察指導員の紹介をご希望の方はいつでもNACS-Jにお知らせください。
②すべての子どもに届けるための指導員活動支援
こども食堂や養護施設、フリースクールといった、多様な家庭の子どもが集まる場に指導員が出向く支援も実施予定です。
☆上記のような施設関係者の方で自然観察指導員と一緒に活動を希望される方はNACS-Jにお知らせください。
③小学生との自然観察会を行う指導者向け研修会
共催希望をいただいた団体と共に研修会を開催してきましたが、今後も引き続き募集しています。
☆研修会の共催団体を随時募集しています。また自然観察指導員以外の方を対象としたものでも、講師派遣等のご要請を承っていますのでご希望の方はNACS-Jまでお知らせください。
このプロジェクトはまだ始まったばかりです。上記以外でも、一緒に取り組みたいという個人の方や団体の方を常に歓迎していますので、関心をお持ちの方はぜひお知らせください。
これまでのプロジェクトの実施状況
①2020年8月 実行委員決定
本プロジェクトに賛同し立候補いただいた多数の自然観察指導員の中から、地域や性別、活動経験などが多様になるようにバランスを考えて6名の方に実行委員を決定。中国地方、近畿、北陸、東海、関東など各地の指導員に委員を担っていただきました。
※2020年度に一緒に企画を検討いただく実行委員を募集していました。すでに募集は締め切っていますが、募集時の記事はこちらです。
②2020年8月~2021年1月 大枠や方向性を検討
実行委員会を合計9回、各回2~3時間開催。本プロジェクトの方向性や内容を検討。
- 主な対象とする子どもの年齢層や、こども食堂、フリースクール、学童保育、保育園、養護施設といった協働しうる主体など、本プロジェクトの様々な可能性を、個性あふれる実行委員と共に、率直な意見交換を重ね、検討しました。
- 結果として、年齢としては「未就学児」を想定し、場としては、余裕のない家庭も含めて多くの家庭が利用するしくみである「保育園」で子どもに自然を届ける活動をしよう、ということになりました。
- 実行委員会では当初は作成した案を実行委員の皆さんに試行いただく予定でしたが、コロナの影響で新規試行はできず、実行委員ご自身の普段の活動の中に取り入れていただくという形になりました。
③実行委員会終了後 2021年2月~ 具体化のための調査・検討
実行委員会では大きな枠組みとしての方向性が決まり、具体的な方法や事業としてどう進めていくのかについてNACS-Jで検討しました。
④2021年9月 プロジェクトの具体的な方針を自然観察指導員にオンラインにて公開・説明
オンラインにて、自然観察指導員養成計画2030の進捗報告と合わせ、本プロジェクトの経緯や今後の予定の説明会を指導員向けに開催しました。当日参加できなかった方もいるため、説明動画を追って公開予定です。
⑤2021年11月 保育士養成大学と共催で、自然観察指導員講習会を兼ねた3日間の特別講座を開催
保育士を目指す学生さんを主な対象として、自然の見方や人と一緒に観る方法、乳幼児との豊かな体験の作り方をお伝えする特別講座を2021年度から開始し、第一回目を11月5日~7日に開催しました。保育士を目指す学生さん40名と一般19名の計59名に受講頂きました。
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